欧州委員会(EC)は5月13日、米Intelは欧州連合(EU)の競争法に違反しているとして、10億6,000万ユーロ(約1,400億円)という罰金を言い渡した。単一の罰金としては、過去最大という。Intelはこれを不服とし控訴する意向を見せているが、ECの判定がどのような余波を与えるのだろうか。
ライバルの米Advanced Micro Device(AMD)の申し立てを受けてECが調査を開始したのは、2000年のことだ。AMDはその後、2003年と2006年にもECに対し、苦情を申し立てている。ECはIntelに対し、2007年7月に異議告知書を送っていた。
すでにIntelに対しては、2005年に日本の公正取引委員会が、2008年には韓国の公正取引委員会がクロと判定しており、ECもこれらに倣った見解を示した。
ECはこの日、
- IntelはPCメーカーに対し、自社から独占的にx86プロセッサを調達する(他社製プロセッサは搭載しない)などの条件と引き換えにリベートを提供していた
- 小売店に対し、自社製プロセッサを搭載した機種のみを店頭に並べることを条件にリベートを提供していた
の2種類の違法行為があったとしている。x86プロセッサ市場のIntelのシェアは少なくとも70%以上であり、これらの行為は独占的立場の濫用としている。
EUは発表資料で、具体的な事例を示している。それによると、1については、メーカーAに対して2002年12月から2005年12月の間、自社プロセッサの独占的調達を条件にリベートを、メーカーBに対しては2002年11月から2005年5月に95%以上を自社から調達することを条件にリベートを提供していた、など4社の事例を報告している。資料では具体的なメーカー名に触れていないが、台湾Acer、米Dell、米Hewlett-Packard、中国Lenovoなどといわれている。2は、大手小売の独Media Saturnが展開する欧州最大の消費者家電専門小売ブランド「Media Markt」に対し、2002年10月から2007年12月まで、IntelベースのPCのみを展開国すべてで独占的に販売することを条件に、リベートを提供していたという。
EU競争法の下では、リベートそのものは価格を下げる効果などがあることから違法ではない。だが、独占的な立場にある企業が競合他社の製品を購入しないことなどを前提に展開するリベートについては、独占的地位の濫用にあたる、と説明している。「コンピュータメーカーはx86プロセッサ供給の大部分をIntelに依存しており、競合にオープンな部分は限定的だった」とECは記している。この限定的部分でAMDを購入しようとするメーカーに対してはリベートを提供しないとすることで、Intelから調達せざるを得ない状況にしていたという(PCメーカーが激しい価格競争にさらされていることは、ここでいうまでもないだろう)。
これだけではなく、AMDとメーカー間の関係にも直接干渉していたことが認められたという。たとえば、メーカーBに対しては、5%の非Intel機種事業に対し、直販のみで販売する、初のAMDベースのビジネス向けデスクトップの発売を6カ月遅らせる、などの条件をつけて報酬を渡していた、といった例を報告している。
ECの発表に対し、Intelは同日付けで声明文を発表、控訴する意向を明らかにしている。また、その後のブリーフィングで、CEOのPaul Otellini氏は、「EUの裁定は事実と異なる」などと述べ、Intelは価格低下に貢献したのであって、消費者に害を与えていないと主張したという。
EUが科した巨大な罰金は、Intelの売上高をもとに、違法行為の程度とそれが行われていた期間などを考慮してはじかれたものだ。単一の罰金としては過去最大であり、Intelが記録を更新する前は、盟友の米Microsoftの4億9,720万ユーロ(約640億円)が最高記録だった。
そのMicrosoftに厳しい姿勢で挑み、降伏させた競争委員会のNeelie Kroes氏は、Intelが5月に開始したブランディング「Sponsor of Tomorrow(明日のスポンサー)」をもじって、「Sponsor of the Euro taxpayer(欧州納税者のスポンサー)」と皮肉った。なお、EUのx86プロセッサ市場は、70億ユーロ規模といわれている。
さて、ECの判決はどのような影響を与えるのだろうか? まずは、2008年に開始された米国における独占禁止法調査だ。Barack Obama政権の下、米国の規制当局は独占的行為に対する姿勢が厳しくなると予想されている。Intelの件は、Microsoft(ソフトウェア)と違って、複雑な要素が少ない。日本、韓国、EUときて、米国がIntelにどのような判断を示すのかーー。
次にAMDの動きだ。今回の罰金はEUの懐に入るが、AMDにとっては損害賠償を求める下地ができることになる。10億6,000万ユーロという金額はIntelにとって大きなものではないと見る向きが多いが、訴訟が長期化すればIntelの経済的な体力に影響を与えるだろう。
だが、x86プロセッサ市場となると、影響は少なそうだ。AMDはECの裁定に対し、「競争のある市場の確立に向けた重要なステップ」とコメントしているが、米Gartnerはこの裁定に対し、「製造キャパシティ、技術キャパシティなどからIntelの地位は引き続き優位。Intelのフォーカスは(もはや)シェアの拡大ではなく、市場の拡大にある」という旨をコメントしている。
EUの独禁法調査は、Microsoftを訴えた米Sun Microsystemsや米Real Networksなど、米国企業が利用する場として利用されている。これには、"市場"や"競争"に関する欧州独自の考え方がある(米国では規模の拡大における価格の低下を認めるが、欧州では多くのプレイヤーで形成される健全な競争を重視するといわれている)。だが、ECが下した裁定の効果となると、あいまいだ。今回、Intelに対しては、罰金とともに今後の動きを注意深くモニタリングするとしている。