フランス国民議会は4月9日(現地時間)、「Creation et Internet(創造とインターネット)」と呼ばれる違法ダウンロード対策法を否決した。通過すれば世界でもっとも厳格な違法ダウンロード取締り法になると注目されており、可決が見込まれる中での意外な展開となった。
Creation et Internetは、著作権侵害に対する取り締まりを目的とした法案。著作権のある音楽や映像などのファイルを違法にダウンロードしていることが確認された場合、2回警告を送った後、3回目にインターネットへのアクセスが遮断されてしまうことから、"3ストライク"とも言われている。
同法が成立すれば、音楽業界や映画業界はP2Pサイトなどのトラフィックを合法的に監視できるようになる。政府はHADOPI(Haute autorite pour la diffusion des oeuvres et la protection des droits sur Internet)という専門機関を新たに設置し、違法なファイル共有行為が認められた場合、HADOPIに通報し、HADOPIがユーザーに警告したり、ISPに遮断を命じることができる(そのため、フランスでは同法案は"HADOPI"として知られている)。遮断期間は1カ月から最長1年で、利用できない間もISPに料金を払い続けなければならないし、ISPを乗り換えることで遮断を免れることもできない。
この法案は、ニコラス・サルコジ(Nicolas Sarkozy)大統領が積極的に推進している法の1つで、音楽業界やアーティストから強い支持を得ている(サルコジ氏は昨年、ミュージシャンのカーラ・ブルーニ(Carla Bruni)と結婚している)。たとえば、国際的なレコード業界団体IFPI(International Federation of Phonogram and Videogram Producers)など、フランス国外の団体やアーティストも支持を寄せている。法案は、すでに上院にあたる元老院では可決しており、元老院と下院となる国民議会とが共同で修正を加えたものを最終採決するだけだった。このような流れから、大筋が通過すると予想していたが、採決日の9日、棄権する議員が多い中で投票間際に野党が議会内に入り、反対票を投じるというドタバタ劇があったようだ。結局、賛成票15対反対票21で否決となった(国民議会の議席数は577)。
Creation et Internetの背景には、一向に衰える兆しのない違法ダウンロードの現状がある。フランスは欧州でも違法ダウンロードが多いといわれており、2006年には、ネットユーザーの3人に1人が違法ダウンロードを行っており、違法にやりとりされたファイル数は10億件ともいわれている。
だが、同法案には課題が多い。まずは、インターネットのトラフィック監視を認めてしまうという点だ。フランスの人権擁護団体らは、同法案はフランス共和国憲法や欧州連合(EU)のプライバシー法などに違反するものだと主張しているし、欧州議会も難色を示していた。
次に、処分の対象が必ずしも、実際に違法ダウンロードをした人ではなくなってしまう可能性が残る点も指摘に挙がっている。同法案ではIPアドレスをベースにユーザーを特定することになる。この場合、子どもが違法ダウンロードをしたために親までもインターネットへのアクセスが遮断されるのは想像に難くないが、遊びに来た子どもの友達や知人が自宅の回線を使って違法ダウンロードする可能性もある。無線LANが悪用されて、来客でもないまったくの赤の他人が違法ダウンロードをする可能性も、ゼロとはいえないだろう。
また、ISP側の負担もある。フランスではインターネット、IPTV、IP電話のトリプルプレイでインターネットサービスを提供するISPが多いが、Creation et Internetはインターネットのみを遮断することになる。同法案が成立すればISPはさまざまな面でインフラの対応を迫られるが、そのコストは今後3年間で6,000万 - 1億ユーロともいわれており、政府は具体的な支援策を示していない。
このような不備が指摘されるInternet et Creationに対し、フランス国民の約60%が反対意見を示している。また、違法ダウンロードを取り締まる効果を疑う声も根強い。
この法案、今回の否決で廃案になったわけではない。国民議会では、4月末に再度投票を行う計画だ。違法ダウンロード取り締まりにあたってISPの協力を得るという対策は違法ダウンロード問題を抱えるEU諸国や米国などから高い注目を集めており、英国でもBPI(英国レコード工業会)がよびかけている。
今後もフランスでの同法案の行方が引き続き注目される。