Webブラウザというと、「Microsoft Internet Explorer(IE)」に詰め寄るオープンソースの「Firefox」、そして「Google Chrome」の新規参入などが話題だが、15年間Webブラウザ開発のみにフォーカスしてきたのが「Opera」で知られるノルウェーのOpera Softwareだ。PC、ゲーム機、携帯電話、冷蔵庫と幅広い端末にWebの入り口を提供している同社は4月初め、車載システムに採用されたことを発表、車にも進出することになった。

Operaは4月1日、米国のオペレータVirgin Mobile USAと提携を発表、Virgin Mobileの一部機種に携帯端末用のWebブラウザ「Opera Mini」が搭載されることになった。Operaは欧州や日本のオペレータと同じような提携を結んでいるが、米国でははじめての契約となる。「iPhone」の登場以来、モバイルWeb熱が高まっている米国に足がかりを得ることになった。

車載システムでは、4月2日、米Fordと提携を発表した。Fordの車載システム「Ford Work Solution」でOperaのWebブラウザが採用されるというものだ。これにより、車を使う営業マンなどが営業支援アプリケーションやアドレス帳などの業務アプリケーション、電子メール、天気情報などにアクセスできるという(車でWebブラウザと聞くとちょっと怖くもあるが、将来的には携帯電話のように規制ができるのだろうか)。

Chromeの参入によりWebブラウザベンダ間のシェア争いにスポットがあたっているが、Operaの戦略はそれらとは一線を画している気がする。ノルウェーのテレコム企業Telenorのリサーチセンターで1994年に生まれたOperaは、Microsoftの独占にもオープンソースの台頭にも揺らぐことなく、この15年間、コアのユーザーを掴み、独自の発展を遂げてきた。Operaが最も知られる高速性はもちろん、タブ、お気に入りの同期、ウィジェットなど、革新的な機能を送り出してきた。

Opera SoftwareのCEO、Jon von Tetzchner氏(今年2月、スペイン・バルセロナの「Mobile World Congress」にて)。同社は今年の4月でちょうど15周年を迎える

Operaを支えるのが、高機能を使いこなすユーザーが多いといわれるOperaコミュニティだ。「多くの機能はコミュニティからのリクエストに応じたものだし、Operaのすばらしさを誰よりも理解しているコミュニティが口コミで広めてくれる」とOperaの創業者兼CEO、Jon von Tetzchner氏は言う。von Tetzchner氏はインスピレーションの源であるOperaコミュニティを愛してやまず、取材をすると必ず「日本のOperaユーザーによろしく」と最後に言う。

Net Applicationsをみてみると、PCブラウザでのOperaのシェアはここ4、5年の間、0.5 - 0.8%を推移している。PCブラウザでは"ニッチ"という位置づけのOperaだが、PC以外のプラットフォームの拡大では、文句なしのリーダーだ。

携帯電話では2005年に「Opera Mini」を発表しているほか、任天堂の「Wii」などゲーム機、TV、STB、さらには飛行機内情報システム、冷蔵庫と拡大、そして今回の車載システムとなる。このようなプラットフォーム戦略は、1つのWeb、こと"One Web"構想に基づくものだ。現在、携帯電話をはじめ、さまざまな端末がWebに対応し始めており、活気のある時期にある。だからこそ、標準が重要だとvon Tetzchner氏は考えているようだ。

活気があると同時に、競争も激しい。だが、von Tetzchner氏は自信たっぷりだ。「15年前にWebブラウザ開発を開始したときから、常に競争してきた。開発前は、"Mosaicと競争するなんてクレイジーだ"といわれたし、その後は、"Netscapeに勝てるわけがない"と言われた。その後はMicrosoftだ。それでも、いまでも我々はWebブラウザを開発している」と笑う。「それどころか、創業以来成長を続けている」(von Tetzchner氏)

その秘訣は、Webブラウザのみにフォーカスしているからと説明する。「ユーザーはみな違う。インターネットは同じで、それぞれの方法でWebにアクセスする。我々のフォーカスは、あらゆるユーザーにとって、最高のブラウザのエクスペリエンスを提供すること」とvon Tetzchner氏は言う。

Operaは2007年末、欧州委員会(EC)にMicrosoftのIEバンドルに対して競争を阻害しているとして苦情を申し立てた。これを受けて調査を開始したECは今年初め、独占的OSのバンドルは競走を阻害しているとする仮判断を示した。Operaが火付け役となった今回の独占禁止法違反調査だが、von Tetzchner氏はこれについて、「ずっと前から、Microsoftは公正に競争していないという不満を持っていた」とvon Tetzchner氏。いまというタイミングについては、「Windows Media Playerに関する訴訟が終わるのをずっと待っていた」と明かした。この件では、Firefoxを開発するMozilla Foundation、Googleも協力する意向を示している。

なお、欧州では3月第4週、Firefoxのシェアが初めてIE 7.0を超えて1位となった。シェア値はFirefoxは35.05%、IEは34.54%。OperaはIE 6.0(約12%)に次ぐ4位で、5%程度となっている(StatCounter調べ)。