フィンランドNokiaがモバイル決済サービスを提供する米Obopayに出資することが3月25日に明らかになった。「おサイフケータイ」として日本では市民権を得ている携帯電話の決済機能だが、世界的に見ると普及にはほど遠い。NokiaのObopay出資を機に、モバイル決済市場が本格化すると期待が高まっている。
ObopayはSMSを使ったモバイル決済サービスを提供するベンチャー企業。Paypalと同じようなサービスを、携帯電話向けに提供する。利用には、ユーザー登録して口座を開設(無料)し、クレジットカードや現金で入金するだけ。送金や入金サービスを利用できる。他のユーザーへの送金は一律0.25ドル、入金受け取りに手数料は発生しない。
Obopayでは、家族間の送金のほか、レストランで割り勘をする際に、1人が代表で全額を支払い、残りがObopayで送金する、などの利用例を提案している。SMSというシンプルかつ互換性のある通信手段を用いることで、端末の問題をクリアする。銀行名や口座番号などのややこしい情報なしに送金/入金ができるのでわかりやすいし、口座を持っていない相手にもSMSメッセージを送付するだけでよい(通知を受け取ったユーザーはアカウントを開けば入金を受け取れる)。
Obopayでは、Citibankなど金融サービスやオペレータと提携したサービスも提供している。
2社は取引金額を明らかにしていないが、Obopayが提出した財務書類からNokiaの出資金額は7000万ドルと見積もられている。Nokiaはこの取引によりObopayの少数株主となり、事業開発担当副社長のTeppo Paavola氏をObopayの取締役に送り込む。
Obopayは、現在、米国とインドで提供しており、Nokiaの資金を利用して、提供地域やサービスを拡大するという。Obopay創業者によると、サービスは途上国ユーザーを狙ったものだが、規制やライセンスの問題から、現時点では2カ国での展開にとどまっているという。Nokiaブランドは途上国では大きいことから、途上国市場を強化するのではないかと思われる。
NokiaがObopayへの出資をどのように活用するのかは未知数だ。Nokiaは有償と無償のサービスを含む総合インターネットブランド「Ovi」を持っているし、NFC(Near Field Communication)対応端末も提供している。Obopayのように、NFCに頼らない決済サービスを揃えることで、来るべきモバイルコマースに多角的に備えることができる。
モバイル決済サービスは現在、途上国で大きな需要を生んでいるようだ。途上国は金融機関が少なく、成長国と比べると金融インフラが整備されていない。口座を持っていない人も多いというし、口座があっても支店が遠いなど、事情は大きく異なるようだ。そういったことから、コミュニケーションを大きく変えた携帯電話が、今度は金融でも変革をもたらすことができるとモバイル業界は期待している。携帯電話が金融サービスを提供すれば、送金は手軽かつ容易になる。たとえば、2008年末には、英Vodafoneがアフリカ地域に強い金融サービスWestern Unionと提携、容易に海外送金できるサービスを提供している。
実際、携帯電話サービスの加入者は40億人を越えたが、銀行口座を持つ人は10億人といわれている。これに目をつけたモバイル業界団体のGSM Associationは2006年、モバイル決済にフォーカスしたプログラムを発表、2007年にはイニシアティブ「Pay-Buy Mobile」を発表している。このイニシアティブはNFCを利用したモバイル決済サービスを推進するもので、SIMカード、UICC(Unversal Integrated Circuit Card)カードにクレジットカードなどの金融サービスを連携して決済を行うというもの。世界共通の決済方法を提供することを目標に掲げている。
だが、モバイルコマースのけん引役として期待されているNFCの離陸は、当初の予想より遅れている。Nokia、Philips Electronics、ソニーの3社がNFC Forumを発足させたのは、2004年のことだ(ソニーは「Felica」、Philipsは子会社NXP Semiconductors(オランダ)が「MIFARE」と、ともに非接触型ICチップを製造している)。
離陸が遅れている理由の1つとして、端末とリーダーが限定されていることが指摘されている。Forum Nokiaのページを見ると、NFC対応端末は「Nokia 6212 classic」と「Nokia 6131 NFC」の2機種しかリストされていない。そのほかの課題として、規制やビジネスモデルの確立などが挙げられる。
それでも、調査会社の英Juniper Researchによると、2013年にはモバイル決済の取引総額うち、送金とNFCが約50%を占める予想という。現在、着メロやゲームなどのモバイルコンテンツの購入が主流を占めるモバイル決済市場だが、送金やNFCを利用した決済は今後5年間で10倍に拡大すると予測している。NFCは、2011年から2013年に着火点を迎える予想とのことだ。
NFC関連の話題として、NXPは3月6日、SIMカードなどで知られる仏Gemaltoにモバイルサービス事業を売却する計画を発表している。取引が成立すれば、「MIFARE4Mobile」の仕様はNXPが所有するが、Gemaltoで開発とサポートが続けられることになる。Gemaltoは取得後、セキュリティサービス拡張プラットフォーム「Trusted Service Manager(TSM)」にMIFARE機能を付加する予定。当面は交通機関での利用が牽引すると見ているようだ。