2009年、欧州モバイル業界はUIQ Technology破産のニュースで幕を開けた。昨年は「iPhone」「Android」など、北米からの勢いに押された欧州モバイル業界だが、UIQが息絶えたことでNokia/Symbianに勢力が統合された形となる。

UIQは2008年12月末に本拠地スウェーデンで破産申請をした。UIQは「Symbian OS」のインタフェース(UI)技術の1つ。Symbian向けUIは、NTTドコモの「MOAP」とNokia(フィンランド)の「S60」があるが、UIQはiPhoneがタッチ旋風をもたらす前からタッチを実現していた。カスタマイズ性の高さなどから、"高度なUI"といわれてきた。今回のニュースを聞いて改めて、技術業界で成功するには、優れた技術(だけ)ではなく、マーケティングとタイミングが重要なのだと実感する。

UIQは数奇な運命をたどった。そもそもは、ソニーと合弁会社を作る前のEricsson(スウェーデン)のUI開発事業として生まれ、EricssonがNokiaや米Motorolaと共に立ち上げた英SymbianがUIQ事業を取得した。Ericssonは2002年のSony Ericsson立ち上げにより、端末事業から手を引いている。

Sony Ericssonは2002年、初代Pシリーズの「P800」でUIQを採用する。2003年に投入した「P900」は成功し、それまでPalmを使っていた欧州ビジネスユーザーが次々と「P900」に乗り換えていった。

Sony EricssonがリリースしたUIQ採用の「Pシリーズ」。左からP800、P900、P910

結果としてUIQの"幕引き"をすることになったJohan Sandberg氏

だが、SymbianはUIQに十分なリソースを注がず、その立場は中途半端な感じだった。これは、自社OSの最大のライセンシー、かつ最大の出資企業であるNokiaの存在も関係あるかもしれない。

そのUIQをSony Ericssonが取得したのが2006年。Sony Ericssonは当時、「UIQは優れたUI技術だが十分なリソースがない」とし、同社がてこ入れしていく姿勢を見せていた。その翌年、UIQライセンシーのMotorolaが出資企業として参加し、初の開発者向け会議を開くなど、勢いづいたかに見えた。だが、すでにビジネスユーザーに根付いた「Blackberry」(カナダResearch In Motion)、iPhoneの登場、米GoogleによるAndroidの発表と、業界の流れと構図は一気に変わった。

UIQによると、NokiaがSymbianを買収してオープンソースにすると発表した昨年6月末以来、実際には事業は滞っていたという。Symbian FoundationはS60を土台に3つのUIを統合することを発表している。UIQのCEOであるJohan Sandberg氏は英メディアに対し、「UIQのビジネスはロイヤリティであり、知的所有権が無料になると我々のビジネスはなくなる」といった旨を明かしている。Sony Ericssonは当初、「数カ月は様子見」とし、その間200人余りいたUIQのスタッフは転職先を探していたようだ(Motorolaは11月、UIQから手を引いた)。だが、身売りなどの生き残り策は見つからず、破産申請となった。

UIQが消えることで、Symbianの政治的バランスも影響を受けそうだ。すでにAndroid、Linux、Windowsへのコミットを示し、Symbianと距離を置くことを示したMotorolaに加え、Sony EricssonもOS戦略を変えつつある。同社は昨年2月、「Windows Mobile」を採用したハイエンド端末「XPERIA X1」を発表、昨年末にはAndroidを支援するOpen Handset Allianceへの加盟も発表している。