AIと共存するためにデジタルを使いこなすスキルが必須に
デジタル時代に対応する新しいスキルの取得が必要ということで、「リスキリング」という言葉が普及し始め、個人個人のスキルが再度注目されていると思います。昨年の世界経済フォーラム「ジョブ・リセット・サミット2021」では、アップスキリング(技能向上)とリスキリング(新たな学び・研修)の重要性が説かれました。
最近、生成AIの一種である「ChatGPT」が話題となっているように、AIが恐ろしいスピードで進化しています。ジョブ・リセット・サミット2021のレポート『スキルと職場学習の未来について、知っておくべき6つのこと』では、「自動化や人間と機械の新たな分業により、2025年には世界で8500万人の仕事が打撃を受けると予測されています」と述べられています。
例えば、現実ではすでに、グローバル企業で翻訳業務がその影響を受けています。ディープラーニングを基盤にした機械翻訳の質はもはや人間並みで、翻訳者の仕事がなくなりつつあります。今後同じことがいろいろな職種で発生する可能性があり、AIと共存しながら生き残りを図るためのスキルを身に着ける必要があります
また、上記レポートには「調査対象となったすべての国で、L&D(学習・開発)担当者が今年最も重要となるスキルとして挙げたのは、レジリエンス(強靭性)と、デジタル化が進む世界で効果的に活動するために必要なテクノロジースキルであるデジタルフルエンシーでした」と記載されています。デジタル化の浸透によって、デジタルを使いこなすスキルが重要になってきています。というか、必須でしょうね。
つまり、アップスキリングとリスキリングで、個人をバージョンアップする必要があるのです。では、みなさんは、スキルと聞いてどのようなことを思い浮かべますでしょうか? ITに関わる専門スキル、プレゼンスキル、交渉スキルなど、さまざまなスキルが思い浮かぶと思います。英単語「Skill」の語源は、古ノルド語「skil」(区別、識別能力、知識)→ ゲルマン祖語「skilja」(区別)→ 印欧語根「skelH-」(切り分ける)が語源だそうです。それは、区別する能力のようなイメージです。
この「スキル」と、知っていることが語源の「Knowledge」が意味する「知識」って、少し混同しやすいので整理しておきます。スキルは、訓練や経験によって身に付くある分野の技能や技術です。一方で知識は、勉強や教わることによって得られる、ある分野について知っている、理解している事柄です。
知識は、スキルによる実践や行動が伴わないと、単なる物知りということになります。逆に、その分野の知識がないとスキルは身につきません。さらに言うと、現在の社会では、知識だけでなく新しいことを探していく力である「探求力」が必要です。
スキルを身に付ける方法の1つに、集合研修があります。ただ、集合研修の成果は、実はハネムーン効果だと言われています。新婚さんには申し訳ないのですが、その効果は長続きしないということです。
それは、知識を得ただけではスキルになっていないからです。OJTと実践による経験によって知識がスキルになり、ようやく身につくのです。ただ、上記レポートでも書かれていますが、集合研修はエンゲージメントを高めチームワークを育む効果があります。
ビジネスパーソンに必要な3つのスキル
筆者は長年の経験と勉強から、スキルを3つに分類しています。それは「プロフェッショナルスキル」「ソフトスキル」そして「リーダーシップスキル」です。最近、書籍『ユーモアは最強の武器である』(東洋経済新報社 著者:ジェニファー・アーカーら)を読んで、ユーモアもスキルだと思い始め勉強をしていますが、それは別の機会に置いておきます。
ところで、プロフェッショナルスキルとは、専門職に関わるようなスキルです。IT関係でしたらソフトウェア開発やデータベース開発・運用、ネットワーク設計など、多岐にわたるスキルがあります。IT部門の方は、おなじみだと思います。私はいろいろなプロの仕事をしてきましたので、記載しようと思うとスキル一覧が大変なことになります。関係ありませんが、ギターを弾くスキルもあります(笑)
ソフトスキルは、聴く、話す、書く、考える、分析する、コミュニケーションする、などビジネスの基盤のようなスキルです。英会話などの外国語もソフトスキルです。案外、聴くスキルが弱い人が多いので、そこを鍛えるのがスキルアップに効果的です。書籍『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』(日経BP 著者:ケイト・マーフィ)はとても参考になります。
そして、なかなかなじみがないのですが、リーダーシップスキルはキャリアアップには不可欠なスキルです。ここからは、リーダシップスキルについて少し掘り下げます。
リーダーシップを学ぶための「マシュマロ」と「パスタ」とは
そもそも、リーダシップは生まれつき持っているものではなく、スキルとして身に着けるという考え方があります。そして、率先してチームを引っ張る人を日本ではリーダシップがある人と評価しますが、実は、チームを下支えるなどリーダシップにもいろいろなスタイルがあります。
外資系企業をいろいろ経験すると、本質部分はかなり近しいのですが、企業によって求められるリーダシップがそれぞれ定義されていることを知ります。例えば、Amazonでは「リーダーシッププリンシプル」として公開しています。圧倒されそうなすごい数のプリンシプルですが、Amazonではどれもが重要なことなのでしょう。
ちなみに筆者は、戦略的な思考、変化をリードすること、他者のキャリア開発をサポートすることを、自身のリーダーシップのフィロソフィーにしています。この連載も、ある意味で他者のキャリア開発をサポートするために執筆しています。
最近のマッキンゼー社のレポート『What is Leadership』では、リーダシップを次のように定義しています。
Leadership is a set of behaviors used to help people align their collective direction, to execute strategic plans, and to continually renew an organization.
リーダシップとは、人々が集団の方向性を一致させ、戦略的計画を実行し、組織を継続的に刷新するために用いられる一連の行動様式である。
かっちょいいですね。
リーダシップスキルは、その職位が高くなればより重要になりますが、一般職の方にも重要なスキルです。仲間とのコレボレーションやプロジェクトのリードで少なくとも必要ですよね。上記の定義どおり、集団があればそこにリーダシップが必要なのです。
私がいまだに好きなのは、Cisco Systemsのリーダシップの定義である「C-LEAD」です。これは、「Collaboration、Learning、Execution、Acceleration、Disrupt」の略で、Collaborationがベースにあり、破壊であるDisruptまであるのがよいところです。Learningが入っているのも素敵です。リーダも学ばないといけないのです。Executionで実行、そして、Accelerationで加速です。実は、考えている時間が長くてExecutionまでいかない場面も多いと思うのです。
チームワークのトレーニングに、マシュマロチャレンジというものがあるのをご存じですか?複数のグループで、マシュマロとパスタの乾麺を使って、高い塔を建てる競争をするのです。一番高い塔を建てたグループが勝利です。ここでのポイントは、あれこと考えるのではなく、試行錯誤をしたグループが最終的に一番うまくやるというところです。まずはやってみることがリーダーにも求められるのです。
リーダシップを大切にしている企業は、求めるリーダシップに社員がそって行動しているかどうかを、さまざまな方法で全員を評価して、管理職が改善方法について議論をしています。Cisco Systemsでは、C-LEADの評価軸で社員全員を評価していました。
リーダシップって少し概念的なことですが、C-LEADを見ても、どう仲間とのコラボレーション力を高めるか、意思や戦略の同期を持って仕事をするかなどです。人へのアドバイスの方法、説得する方法、変革を起こす方法など、いろいろな本がでているので、参考にできると思います。もちろん、トレーニングを受けてみるのもよいと思います。
上記のジョブ・リセット・サミット2021のレポートに、「スキルアップの『秘密兵器』はマネージャー」とあるように、部下のスキルアップを促すのはマネージャーの重要なスキルであることが分かります。逆に、良いマネージャーに出会うことは、その後のスキルアップにも影響します。
キャリアの最初はプロフェッショナルスキルとソフトスキルを磨き、職位が上がるにつれてリーダーシップスキルがより強く求められます。しかしながら、職位が低いからといってリーダーシップスキルの取得はまだ先とは思わず、バランスよくスキルを身に着けるようにするのがキャリアアップのポイントかと筆者は考えます。次への準備ができていないと、ネクストステージにはいけないと思っています。