マキンゼーは毎年、企業にとって最も重要なテクノロジートレンドを分析して、レポートを発表しています。レポートではそれらのテクノロジーに関連して、どれくらいの仕事が募集されているかも分析しています。
2023年には多くのトレンドで投資と雇用の減少が見られたようですが、長期的な見通しは依然として明るいとのことです。いいですね。このレポートは英語しかないのですが、翻訳ソフトを使うなどして読めば世界のトレンドを把握できます。短期にはなりますが、今後のキャリア開発やスキル向上の方向性を見出すヒントになります。
やはりキャリア戦略の基本は、大谷選手が野球を選択したように、もうかる分野を選択するのが大事ですからね。今回は、15のテクノロジートレンドの中から二大のトレンド「生成AI」と「再生可能エネルギー」について、筆者の見立ても含めて解説したいと思います。
生成AIのトレンドと課題
2022年以降で際立ったトレンドになっていっているのは、なんと言っても生成AIです。近年まれにみる急成長・浸透したテクノロジーです。ちょっと前までは10万トークンだったものが、200万トークン以上に急増しました。トークンとは自然言語処理(NLP)で用いられる単位で、テキストを意味のある最小単位に分割したものを指します。
生成AIはテキストデータをトークン化して処理します。トークン数は、生成AIがどれくらいの長文を扱えるかを示しています。生成AIでテキストや画像などの非構造データから新しいコンテンツを作成したり、予想したり、何かの原因を探ったりする応用的な利用まで、大きな期待があります。
ただ、現実問題として、生成AIには筆者が考える3つの課題があると思います。1番目の問題は、ハルシネーションと呼ばれる「幻覚」が生成されることです。筆者がフルタイムで働く会社でも生成AIをベースにした製品を出しているのですが、パブリックの生成AIを使うと、この「幻覚」が起きてしまっていました。IKKOさんが言う「まぼろし~」というやつです。
幻覚とは、事実ではない情報を、気を利かせてAIが生成する現象です。これを経験したときは、あまりの精巧さに結構笑っちゃいました。生成AIとおしゃべりをしているうちはいいのですが、本格的に業務に使うとなると、大きな課題になります。特に専門用語が使われている分野では、生成結果が正しいかどうか判別がつかないと悩まれているケースを多く見受けます。
2番目の問題は、同じ処理をしても、生成結果が異なり一貫性がないことです。これがあると、定型の処理やワークフローで使えないのです。同じ処理が異なるGPUで処理されると、この問題が発生するようです。パブリックの生成AIではそのコントロールが利用者にはできません。
これらの2つの問題によって、生成AIに幻滅した方と、対策を求めている方に二分してきた気がします。ですから、ガートナー社の「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2024年」をみると、生成AIは幻滅期に突入しているのだと考えます。
こうした問題を解決するために、先進的な企業は自社データを教師データにする独自のLLM / SLMの利用を検討し始めています。自社専用の生成AIを作って、パブリックな生成AIの課題を克服するというものです。
しかし、今後の大きな課題として3つ目の問題が潜んでいます。それは電力の問題です。生成AIを運用するデータセンターは巨大な電力が必要になり、今の技術では今後この需要増を賄えない、つまり生成AIのイノベーションが鈍化する可能性があるのです。
IEA(国際エネルギー機関)のレポート「Electricity 2024」では、「データセンター、人工知能(AI)、暗号通貨セクターからの電力消費は、2026年までに倍増する可能性があります。データセンターは多くの地域で電力需要の成長の大きな原動力となっています。2022年に世界全体で推定460テラワット時(TWh)を消費した後、データセンターの総電力消費量は2026年に1,000TWhを超える可能性があります。この需要は、日本の電力消費量とほぼ同等です」と述べられています。
IEAの推定では、OpenAIのChatGPTが1回のクエリに回答する際の消費電力量は2.9ワット時で、グーグル検索の約10倍に相当するようです。電力の大食いなのです。
マキンゼーのレポートは、生成AIの分野では、人口知能、機械学習、Python、データアナリシス、ソフトウェアエンジニアリング、生成AI、規制コンプライアンスの人材について、需要分析をしています。需要に対して一番ギャップのあるのは生成AIで、現在の人材数に対して12.1倍の需要があります。生成AIそのものもありますが、活用するにはプロンプトエンジニアリングの知識が必須です。
再生可能エネルギーのトレンドと進捗
電力に関連するのですが、レポートによると、もう1つの大きなトレンドは再生可能エネルギーです。これだけ異常気象が地球上で発生すると、サステナビリティの実現は不可欠だと実感します。電力は世界経済において、他のどの部門よりも多くの二酸化炭素を排出しています。再生可能エネルギーによって二酸化炭素の排出を削減することが急務です。
IEAのレポート「Clean sources of generation are set to cover all of the world’s additional electricity demand over the next three years」では、「太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーや原子力発電など低排出源による記録的な電力生産により、家庭や企業への電力供給における化石燃料の役割は軽減されるはずだ。低排出源は、2023年の40%弱から、2026年までに世界の電力生産のほぼ半分を占めると予想されている」と、Good Newsを報告しています。
そして、上記の大食いの生成AIの電力需要をどのように再生可能エネルギーで賄うかという点です。ここでも取り組みが進捗しています。たとえば環境庁では、「データセンターのゼロエミッション化・レジリエンス強化促進事業」という対策を打ち出しています。そして、多くデータセンター事業者は再生可能エネルギーを、二酸化炭素の排出減と電力の消費量増の対策に積極的に活用し始めています。
マッキンゼーのレポートによると、「再生可能エネルギーは、経済の逆風に逆らったもう一つのトレンドであり、私たちが評価したすべてのトレンドの中で最も高い投資と関心のスコアを記録しました」とあるように、もうかる分野になっています。この分野では、太陽光発電や風力発電など特定の再生可能エネルギーや、建設などの設備に関する深い知識を持つ専門家が不足しているそうです。ニッチな領域なのか、全体に需要ギャップは少ないように思えます。
まとめ
その他のテクノロジートレンドでは、クラウド / エッジコンピューティング、次世代ソフトウェア開発、未来のモビリティなどの15の先進的な分野が分析されています。マッキンゼーのレポートによると、15のテクノロジートレンドにわたる430万件の求人広告を分析したところ、需要ギャップが大きいことが明らかになったそうです。需要の高いテクノロジースキルを持つ潜在的な候補者は半分以下だそうです。チャンスですよ!皆様には、トレンドを先取りして、スキルと知識を向上して、よきキャリアを積んでほしいです。