筆者はヒトの脳の無限の可能性を信じています。ただ、多くのヒトは脳のトレーニングを怠っていますね。筆者が以前マイクロソフトで勤めていたとき、上司が「北川さんは、脳内の筋肉オタクですね」と言ってくれました。筆者は自分の脳の中で鍛えられていない部分を見つけ出して、それを鍛えるのが趣味なのです。例えば、昔はまったくの思い付きで仕事をしており、論理的な思考ではありませんでした。その後、論理的な思考方法を身に着け、いまでは「ロジックがある」と評価していただくことが多いです。
ここで、ちょっと想像してみてください。みなさんが自分自身から幽体離脱して、肉体の上の方を漂って自分を見ています。すると、なぜか脳が透けて見えます。その脳は色分けがされていて、鍛えられている部分は青色に、鍛えられていない部分は赤色に染まっています。どのような人間でも圧倒的に赤色が多いと思います。ここが鍛えるべき脳なのです。
ヒトは脳の10%しか使っていないという通説がありました。ただ、最近の研究によれば、ヒトの1日の活動を通じてみると脳は全体的に使用されていることが分かっているそうです。だたし、ここでいう「使っている」と、「使い方」には違いがあると思います。脳には無限の「使い方」があるのだと、筆者は信じているのです。
左脳と右脳を意識して鍛える
企業の中ではよく、強みを生かしてキャリアを作る、ということを言います。企業戦略上、強みを生かすことは必要ですが、キャリア上はそれに固執してはうまくいかない場合が多いと考えます(ただ、企業も今は持っていない強みをどう作り上げるかが、戦略上・ブランド構築上、とても大事です)。上記のように鍛えられていない脳の部分がいっぱいあるのに、そうした限定的な脳で強みと言っても、長いキャリアを考えると仕方ないからです。たまたま経験したことから脳が鍛えられ上げて、その時点の強みになっているケースが多いのだと思います。
また、脳は左脳と右脳で得意分野が違うと言われています。基本的に、左脳は論理や言語の領域を強みとし、右脳は直感的で創造的な領域に強みがあります。両方の脳が鍛え上げられれば、まずは右脳で状況を直感でとらえ、それから左脳で論理的に対処することが可能になります。
しかし、ヒトは左右のどちらからの脳で状況に対処する傾向があるそうです。どうやら、左脳と右脳が両方使えるように鍛える必要がありそうです。ただ、最近の研究では、ヒトは左脳と右脳を常に使って考えているそうです。傾向として、左脳と右脳を捉えるのがよいかと思います。
脳を鍛える方法は?
では、どのように脳を鍛えればよいのでしょうか?筆者は週に数回、大きめの本屋さんに行きます。そして、ざぁと探索して、気になるタイトルの書籍を確認します。スキルや知識に関連するような書籍であれば、それは自分に備わっていない分野だと思うと、関係する書籍を2~3冊購入します。Facebookの友人が推奨する本も、ほとんど買いますね。
2~3冊読むと共通項が見えてきて、理解を深めることができます。それをなるべくフレッシュな記憶の状態の中で実践して、実験します。左脳と右脳のバランスも考慮します。そうして脳に定着させます。
また、書籍は引用している部分も多いので、その引用元にも触手を伸ばしていきます。書籍『7つの習慣』(キングベアー出版 著者:スティーブン・R.コヴィー)では、「本を読まないことは、読めない人と変わらない」という言葉が紹介されています。本当にそうです。筆者が個人事業主になって一番良かったのは、ビジネスの書籍が経費で購入できることです(笑)。これによって、58才にもなって学びに加速がかかっています。私にとって、本はマスター(師匠)です。
こうすると、脳の中に「知識の引き出し」が多く作成されていきます。仕事の状況に合わせて、「知識の引き出し」から"これだ"というものを出して、適応させていけばいいのです。
認知バイアスを意識して脳を鍛える
この脳には、やっかいな性質もあります。本能というべき部分でしょうか。それは、「裏の目的と認知バイアスを持つ」ということです。
書籍『なぜ人と組織は変われないのか ―― ハーバード流 自己変革の理論と実践』(英治出版 著者:ロバート・キーガンら)を読むと、ヒトは裏の目的を持ち、そのことが変革を阻害すると述べられています。
典型的な例は、スター選手が管理職になったときに起きるのではないでしょうか。管理職なると人をうまく使ってチームのパフォーマンスの最大化する責務を持ちますが、元スター選手は裏の目的として自分が目立ったパフォーマンスを上げてやろうと考えて、チームパフォーマンスを疎かにしてしまう場合があります。裏の目的を特定して、それを解消しないと人も組織も変革が起きにくいのです。
認知バイアスとは、ヒトが物事の意思決定をするときに、これまでの経験や先入観によって合理性を欠いた判断を下してしまったり、偏見を持ってしまったりする心理的な傾向を示しています。例えば、次のような認知バイアスがあります。
確証バイアス
自身の先入観や意見を肯定するため、それを支持する情報のみを集め、反証する情報は無視または排除する心理作用をいいます。特にコストを発生させている場合は、自分への理由付けとして確証バイアスが働きますね。
アンカーリング
最初に与えられた情報によって最終的な意思決定が左右される心理作用のこと。最初にアンカー(船のいかり)を下して、そこから離れられないのでアンカーリングです。カルガモ君が最初に見た生き物を親と思うようなものです。
損失回避
無意識に得することよりも損することを避けようとする心理。日本企業にありがちな、石橋をたたいても渡らないというやつです。
脳を鍛える中で、このようなやっかいな脳の性質も理解することで、脳のポテンシャルをより発揮できるのではないでしょうか。そして、「イノベーションなんか怖くない。何かを組み合わせて新しいことを生み出すだけ」(連載第14回)でも執筆したように、脳の引き出しが増えれば、その組み合わせによるイノベーションを思いつく可能性が高くなりますよ。筆者ももっと脳を鍛えます!