エンタープライズサーチが生まれた理由
「エンタープライズサーチ」は、日々のビジネス活動を通じて企業内に蓄積されていくデータを検索して取り出し、再利用するために登場した技術である。
ただし、社内のデータを再利用するために、いきなりエンタープライズサーチに対するニーズが生まれたわけではない。というのも、社内のデータを共有、再利用するために企業が手始めに行うことは、社内のデータを1カ所に集めてレポジトリを作り、それを全社共有のデータストア(データの置き場)、あるいは「ナレッジベース」として活用していくことだからである。
この手法は、データの共有、再利用を図るうえでの自然な道筋といえるが、1990年代、PCが企業に広く浸透し、かつ、ネットワーク化が進んだことで、データが各所のPCやファイルサーバに分散して置かれるようになった。結果として「社内のどこに、どのようなデータがあるか」がほとんど見えなくなり、データを収集して再利用を図ることが極めて困難になったのである。
そんな状況を打開すべく、多くの企業が2000年以降の10年間で、社内データの全社的な共有化に向けて動き始めた。また、それと並行してクラウドサービスのビジネス利用も始まり、クラウドプラットフォームをデータ共有の基盤として使おうとする気運も高まった。それに伴い、多数の社内データの中から目的の情報を効率的に探し当てるソリューションが必要とされ始め、それがエンタープライズサーチに対するニーズの創出につながったといえる。
もっとも2000年代の前半は、エンタープライズサーチという言葉は存在せず、エンタープライズサーチに対する概念的な理解もほとんどなかった。ゆえに、エンタープライズサーチのソリューションを探す側も「とにかく、目的の情報を効率的に探し当てる仕組みが欲しい」としか考えていなかったはずである。
その状況を変化させるきっかけとなったのは、2000年代中頃にGoogleが自社の検索エンジン(サーチエンジン)を搭載したアプライアンスを法人向けに発売したことだ。このアプライアンスは、企業内データに対してテキスト検索をかけるための仕組みで、相応の注目を集め、エンタープライズサーチの認知度を大きく押し上げた。加えて、このころは、企業の間で広く使われていたメールソフトウェアなどのコミュニケーションツールの検索機能が弱く、それを補完する目的でGoogleのアプライアンスを導入するという動きも出始めていたのである。
ただし、Googleのアプライアンスは決して安価な製品ではなかった。そのため、エンタープライズサーチのシステム導入コストを最小限に抑える目的のもと、オープンソースソフトウェア(OSS)の検索エンジンを使い、自前でシステムを構築するという手法も普及しはじめた。
高まるシステムをまたいだサーチ機能へのニーズ
日本の場合、2011年における東日本大震災の発生を境に、社内のデータを各部門・部署に設置されたファイルサーバに置くのではなく、災害に強いクラウドプラットフォームやデータセンターに集中的に配置しようという動きが加速した。それに伴い、エンタープライズサーチに対するニーズも高まっていった。
そんな中で2010年代には、ビジネスの状況をとらえるために、部門・部署のファイルサーバに置かれてきたようなデータ(例えば、表計算ソフトやプレゼンテーションツールで社員各人が作成したデータ、など)だけではなく、ERP(エンタープライズリソースプランニング:統合業務システム)やSFA(営業支援システム)/CRM(顧客関係管理システム)など、業務で使うあらゆるシステムのデータも検索の対象にしたいというニーズが高まってきた。つまり、業務で使う多種多様なシステムを横断するかたちで、必要なデータを探し当てたいという要求が強まってきたわけだ。
そして、クラウドのビジネス利用が定着した2010年代後半には、オンプレミスのシステムのみならず、SaaSやクラウドストレージといったクラウドサービスで管理されているデータについても、一括して検索をかけ、目的のデータを速やかに引き出せるようすることが、エンタープライズサーチに求められるようになった。
加えて今日では、新型コロナウイルス感染症の流行を境に、リモートワーク、ないしはハイブリッドワークが企業における標準的な働き方として定着している。そうした働き方を支えるうえでも、仕事に必要なデータを会社のあらゆるシステムの検索によって速やかに取り出せるエンタープライズサーチの仕組みは有効であり、かつ、エンタープライズサーチの仕組み自体が、時間と場所を選ばずに活用できるクラウド型であることが必要とされている。