MySpaceやYouTubeを積極的に活用してメッセージを伝え、インターネットを通じて多額のdonation(寄付金)を集めることに成功した彼は、若い人たちから圧倒的な支持を獲得したばかりではなく、映画界や音楽界の著名人が続々とサポートを表明し、彼のために作られた歌はMTVニュースでも報じられている - 誰のことか、わかりますか? この彼は、米国の次期大統領と目されているBarack Obama氏です。ご存知のように、先ごろObama氏はDemocratic Party(民主党)の大統領候補と正式に認定され、おそらくRepublican Party(共和党)の候補、John McCain氏に勝って米国の大統領になるであろうと言われています。そうなると、初の黒人大統領誕生かという点で、行方が気になるところです。今回は、Obama氏が米国内でどのように受け止められているかの話をしましょう。
Obama氏は現在の米国人を象徴しているような人です。Obama氏は一般に黒人と言われていますが、正確にはmultiracialでObama氏の母親は白人です。かつての白人か黒人かといった時代とは様変わりし、米国は1つのrace(人種)しかいないところはどこにもないのではないかと思われるほど、多種多様な人種、民族からなるdiverse communityです。Obama氏のようにmultiracialな人もあたりまえのようにいます。また、本連載第35回、第48回でも「米国は移民の国」と触れたように、投票者の中には大勢のLatino(ラテン系)やAsian(アジア系)が含まれていて、彼らは誰に投票するのかが注目されてもいました。このような状況の中で得票数を伸ばしたObama氏ですが、彼をサポートする人たちには、多様な人種をうまくまとめて、今までとは違うよりよい米国社会作ってくれるという期待感があるようです。
また、Obama氏が一貫して平和を訴え続けてきた姿勢を若年層が支持したというのも、今の米国の問題が背景にあると言えるでしょう。本連載第48回でTim McGrawのトリビュート・ソング"If you are reading this"を紹介したときに、イラク、アフガニスタンでの米人の犠牲者がほぼ5,000人と触れましたが、その多くが10代や20代前半の若い人たちです。さらに障害者となって帰ってくる兵士や、無事に帰ってきたにもかかわらず、戦地での経験がトラウマとなって自殺する兵士が増えている今、自分の友人や兄弟、親戚に戦争の犠牲者がいるという若者もまた増えています。平和への関心が高まっている若年層が平和を訴えるObama氏を支持するのはうなずけるところです。2003年に"Where is the love"という反戦歌をヒットさせたThe Black Eyed Peasのwill.i.amは"We Are the Ones"、"Yes We Can"という2つの歌を作ってObama氏を応援していますが、この話題はMTVニュースでも取り上げられました。
そして選挙活動に必要な資金も、Obama氏の場合、今どきらしいインターネットを利用したdonation(寄付)による集め方が注目をあびています。Wiredの記事"Obama Raises More Than $4 million Online Over the Weekend"では、2日半という期間短期間にオンラインのみで400万ドル(約4億3,000万円)集めたことが報告されています。また、Obama氏の場合、1人当たりの献金額が少ないのも特徴で、"Small Online Contributions Add Up to Huge Fund-Raising Edge for Obama"では90%以上の人が100ドル以下で、40%の人は25ドル以下だと報じられています。にもかかわらず、総額ではかなりのものとなるため、Obama氏の場合、従来行われてきた多額の献金をしてくれる人に向けたイベントを何度も行う必要がないんだそうです。どこか遠くの政治家の世界で行われていた献金が、自分たちの世界の身近なdonationに変わった感じですね。
何かとこれまでとは違うところを見せてくれるObama氏ですが、Democratic Partyの正式な候補に決まったときに夫人のMichelle Obama氏と交わしたa fist bump(げんこつどうしをぶつけ合う挨拶)はメディアがかなり注目したシーンで、一時、the fist bumpの話題が盛んに取り上げられていました。こういったちょっとした仕草までもが、今どきの米人らしいのがObama氏です。
さて、次期First Ladyの可能性が大きいMichelle Obama氏にも触れておきましょうか。彼女は米国でトップクラスの大学、Ivy LeagueのPrinceton University(プリンストン大学)、 Harvard Law School(ハーバード大学法科大学院)を卒業した才女です。記事"All you need to know about the next First Lady"によると、現在の彼女の年収は20万ドル(!)とのこと。いかにも有名大学を卒業した人の輝かしい人生です。政治的な活動も行ってきている経歴を考慮すると実力派First Ladyでしょう。
Obama氏が次期大統領になるであろうとは言われていますが、McCain氏との戦いが終わったわけではありません。破れたHillary Clinton氏の支持者は離党するという勢いで激怒しているところで、反Obamaを貫くためMcCain氏支持に加わっている人もいます。大どんでん返しでJohn McCain氏が大統領になってしまうかもしれない可能性も残されている今回の大統領選、いったいどうなることでしょうか。