え、"サブプライム"じゃないの?
4月も半ばとなり、みなさんの会社にやってきた新入社員が少しずつ仕事に慣れてくころでしょうか。ミシガンは緯度が高い(北海道くらい)ので、めきめき日が延びているものの、気温は三寒四温、20度を超える日があったと思うと、雪が降る寒い日もあります。花の季節にはもうちょっとです。が、明るい日差しはいいものですね。FMラジオからよく流れてくるYael NaimのほわんとしたNew Soulがぴったりの季節になってきました。
さて、ラジオにしてもテレビにしてもニュースで近頃よく耳にするのは"closures"という言葉です。クロージャ? えっと、プログラミング言語のクロージャ……ではありません。住宅ローン(mortgage)を払えなくなってしまった人たちの家が、銀行などのローン貸し出し側の所有物となって売りに出されるケースが急増している社会問題を報道しているものです。今回は、この生活用語として使われているクロージャについて話をしましょう。
そんな問題あったっけ? 聞いたことないや…と思った方でも、サブプライム問題は聞いたことがあるかもしれません。日本では、サブプライム問題でひとくくりにして呼んでいるようですが、米国では主に"closures"や"foreclosures"といった言葉が使われています。たしかに"subprime"という用語も米国内で使われているのですが、subprime lending、subprime mortgage、subprime borrowers、subprime lendersのように、具体的な名詞がsubprimeに続きます。お金を借りる側だけではなく、貸す側にもsubprimeという言葉は使われていますね。
クロージャ問題の本質からは外れますが、私は「サブプライム問題」という言葉にはとても日本らしさを感じています。意味のよくわからないカタカナ語の"サブプライム"に、具体的な内容がわからない曖昧な「問題」という単語を追加しています。いかにも日本らしいアイディアです。わかりますか? 英語では、subprimeに続く、lendingやmortgage、borrowers、lendersといった単語で、何についての問題なのかが具体的に言い表されています。一方の日本語は、それが何を指すのかすぐにはわからない、謎の新しい言葉になっています。
家は一生に何度も替えるモノ!?
では、subprime(subprime lending)の定義は何でしょうか? 本連載第27回でクレジットスコアの話をしたのですが、このクレジットスコアが620以下の人たちへ不利な条件でローンを提供することを意味しています。これについてはWikipediaで詳細が説明されています。不利な条件でローンを借りることになっても、住宅の値段が順調に上がっていくなら、その家を売って、新たにローンを組みなおして別の家を買う、これを繰り返せばうまくいっていたらしく、そして現在のような深刻な状況にもならなかったはず……らしいです。ところが、実際には住宅の値段は下がる一方で、しかも、売れ行きもよくない時代になってしまいました。ローンの支払いがままならない上に、家を売っても返済額にはたりないし、そもそも買い手がいないという状況に追い込まれて破産する人が増えてしまったようです。
私が住んでいる界隈では破産という極端なケースは見かけませんが、家を売りに出しているけれど、買い手がいなくてあきらめたケースは増えているようです。こういった情報はインターネット上で公開されているので、誰でも調べられるようになっています。売れないと、値段を少しずつ下げていくようですが、それでも売れないことが多くなってきたようです。
そんな状況でも、これから先、夏が近づくと自宅を売りに出す人が増えるはずです。米国人は引っ越し好きで、たとえ、一戸建てで広い庭のある家を購入しても、5年くらい経つと「飽きた」という理由で買い替えて新しい環境で生活を始めたいようなのです。日本人にとっては驚きの行動なのですが、米国人にとってはごく普通です。
最近では売るのはやめて、古い家を賃貸にして持ち主は新しい家に移ることも多くなってきました。そこに入居するのは多少高額でも賃貸料を払える外国人である場合が少なくありません。我が家がまさにそうです。デトロイト界隈は日本やドイツなど、世界各地からやってきた自動車関連企業の従業員とその家族が大勢います。外国人の場合、数年経ったら自国に帰るので家を買う必要がなかったり、米国へやってきて間もないのでクレジットスコアが低かったりで、家を購入しないのが普通です。
賃貸派にとっては実は、最近の住宅価格の値下げはうれしい結果となっています。住宅価格が下がるに伴って賃貸料も下がっているからです。我が家では数カ月前に引っ越しを考えていろいろ探したところ、現在の家賃よりも安くて、家の広さなどは同じ物件をいくつか見つけました。結局、引っ越しはしなかったのですが、調べた情報をもとに大家さんと交渉したところ、家賃の値下げに成功したのです。新しい賃貸人を探すとなると数カ月間空き家状態になるのは覚悟しないといけないので、たとえ家賃を下げてもそのままいてもらったほうが得という計算になったのではないかと思います。
今回はクロージャの話をしましたが、クロージャが日常生活で普通に使われる言葉だったことはご存知でしたか? 本連載第13回でIT用語も実は日常用語だった例をいくつか挙げましたが、クロージャもまた、その仲間でした。プログラミング言語の世界ではクロージャは欲しいものではありますが、日常生活ではないほうがいいものです。なんだか皮肉ですね。