iPhoneユーザの混乱を最小限にとどめたJobsからのメッセージ

うらやましいですねー、iPhone。私が住んでいるあたりはど田舎ではないものの、都会からは遠く離れた住宅地。このようなところでもiPhoneユーザをあちらこちらで見かけます。電話の契約料やiPhone自体の金額を考えると"高値"の花、うらやましー!!!と思うのがせいぜいでした。が、これが大幅にプライスダウンするというニュースです。それでも高いのですが、やはり要注目ですね。

今回はこのプライスダウンに伴い、高い値段ですでに購入しているユーザに100ドルを返すというSteve Jobs氏の手紙を読みながら、Jobs氏がいかにセオリーどおりの文章を書いているかという話をしましょう。

タイトルの書き方からわかる全体構成

Jobs氏の手紙は"To all iPhone customers"というsalutationに正式なビジネスレターで使われる:(コロン)を付けて始まっています。ただし、"Sincerely yours"のようなcomplimentary closeもsignatureもなく、ビジネスレターとしては簡略化された形式です。Webサイトに掲載されているということを考慮すれば十分ですが、どちらかというとこの文章はエッセイで、手紙風にしたと考えるといいのではないかと思います。実際に手紙の本文、I have ではじまり、of Appleで終わる6つのパラグラフをながめると、完璧と言っていいようなエッセイスタイルになっています。

エッセイスタイルについては第2回で触れましたが、もう一度、もう少し詳しく見てみましょう。エッセイスタイルが何かを知るためには"How to write an essay?"をキーワードにして検索するいいでしょう。多数のサイトで英文のエッセイとは何かが解説されていることがわかります。これらのサイトを見ていると"the classic five paragraph essay"についての説明が目につきます。ハイスクールやカレッジの学生が試験で書かねばならないエッセイが一般にこのスタイル、つまり、introduction,3つのmain ideasをそれぞれのパラグラフに書いたbody部分、conclusionで構成される文章です。このようなエッセイの構成についは"English Writing Center"の中ほどにある表に簡潔にまとめられていますので、眺めてみてください。

Jobs氏の文章はどうでしょうか? Introductionがあって、bodyには4つのパラグラフがあり、conclusionというように、"the classic five paragraph essay"ではありませんが、きちんとエッセイスタイルを踏襲しています。これ以外にも最初のパラグラフの最後の文章がthesisになっていて、最後のconclusion以外のパラグラフはそれぞれのmain ideaを表現するtopic sentenceで始まっています。

まさに"完璧"なエッセイスタイル

イントロは抽象→具象

まずはintroductionから、詳しく見ていきましょう。English Writing Centerの表に「introductionの内容はgeneralからnarrow/specificにと話を進めていく」とあるように、Jobs氏は「たくさんの電子メールをもらった」というgeneralな状況をnarrativeに始めています。2つめの文章はintroduction最後の文章でもあるので、話題をしぼって"I have some observations and conclusions."というthesisへをつなげています。"After reading every one of these emails,"という短いフレーズだけですが、読者が次に核心の話がでることを予測できるうまい表現です。

Body部分の前に、conclusionを見ておきましょう。Conclusionもやはりセオリー通りです。Conclusionではmain ideasをparaphraseして読者に思い起こさせることから始めるのがセオリーで、しかもintroductionとは逆にspecificからgeneralに世界を広げて終わることになっています。Jobs氏は"do the right thing"というわずかな言葉で複数のmain pointsをparaphraseし、最後は"we are doing our best to live up to your high expectations of Apple."と、この件に特化していない、Apple社全体の話題へと世界を広げて結んでいます。わずか2文、まさにsweet and shortのconclusionです。実際に手紙の本文、"I have"ではじまり、"of Apple"で終わる6つのパラグラフを眺めると、完璧と言っていいようなエッセイスタイルになっています。

ボディは各パラグラフのつながりを明確に

では、body部分を見てみましょう。body部分で取り上げる複数のmain ideasはエッセイのタイプによってどのように構成するかというパターンがあります。このパターンについてはEnglish Works!: Essaysにわかりやすく図解されていますので、参考にしてください。Jobs氏の手紙はcause/effect型で、3つのcausesからeffectである100ドル返還というeventが発生したという流れを構成したと考えていいでしょう。

100ドル返還に至るcausesを挙げている3つのパラグラフは"observations and conclusion"のthesisのうち、observationsを述べています。そして、"first" "second" "third"という明解な言葉を使ってパラグラフ間のtransitionをはっきりさせています。エッセイを書くにあたっては、各パラグラフの関連がはっきりわかるような単語やフレーズで始まっていなければならないのですが、Jobs氏の場合、これもセオリー通りです。

そして、effect、あるいはthesisにあるconclusionを述べているパラグラフは"therefore"という明解なtransitionの言葉ではじまっています。エッセイの書き手は読者の手をとってガイドし、読者を迷子にさせないというセオリー通りになっています。

前回、要約の話をしましたが、この手紙のようにセオリーどおりにきちんと書いてある文章を要約するのはとても楽です。thesisが書いてある最初のパラグラフの最後の一文、topic sentenceとなっている2、3、4、5番目の各パラグラフの最初の一文、これらを繋げるだけで要約は終わってしまいます。

以上のようにJobs氏の手紙は本当にセオリー通りに書かれているので、とてもわかりやすく、読者はJobs氏が何を言いたいのかをすんなりと理解できます。わかっていてもなかなかそのとおりにできないのがエッセイのセオリーですが、もし、きちんとセオリー通りに書ければJobs氏のようなすばらしい英文が書けるようになるでしょう。「めざせ! Steve Jobs」を胸に、このようなわかりやすい英文を心がけてエッセイスタイルのトレーニングをしてみてはいかがでしょうか。