韓国のロボットメーカーROBOTIS(ロボティズ)から、新型のロボットキット「Engineer Kit1」(以下、EK1)が発売された。ロボットは、メカ、エレキ、ソフトを統合したシステムであり、近年は、学校での教材としても非常に注目が高まっている。この製品ではどんなことができるのか、これから詳しくレビューしてみたい。
Engineer Kit1の特徴は?
"ROBOTIS"と聞いても、日本では知らない人の方が多いかもしれないが、同社はロボット業界において、世界的な有名メーカーである。ロボット用のサーボモーター「Dynamixel 」シリーズのほか、研究用の等身大ヒューマノイド「Thormang」シリーズなど、様々な製品を提供している。日本法人も設立されているので、サポートも安心だろう。
EK1は、そんな同社が開発した最新のロボットキットである。まず注目したいのは、市販のロボットキットとしては世界で初めて、2軸サーボを採用したことだ。
この大きなメリットは、組み立てがより簡単になることだ。通常の1軸サーボだと、たとえば足首の関節を作る場合、前後に動かすピッチ軸と左右に動かすロール軸が必要になるため、2つのサーボモーターを繋げて2軸にしている。しかし2軸サーボであれば、この繋げる部分の手順が不要になり、作業時間を短縮できる。
EK1には、サーボモーターが7個しか入っていないのだが、このうちの6個が2軸サーボのため、これだけで最大13軸のロボットを作ることができる。本格的なロボットとしては、比較的、部品点数も少ない印象だ。
この2軸サーボ「2XL430-W250」は、名前から分かるように、従来の「XL430-W250」2個を一体化したもの。そのため、トルクやスピードは従来通りなものの、一体化によって、体積は3分の2に、重量は86%に、小型軽量化も実現している。
作りたいのはどのロボット?
もう1つ、大きな特徴として紹介したいのは、拡張性の高さだ。EK1は、追加パーツを買わなくても、標準のセット内容のまま、いろんなロボットを作ることができるよう考えられている。マニュアルに書かれているのは、以下の3タイプだ。
AIロボット「Dr.R」
3タイプの中で、最もユニークなのはこの「Dr.R」だろう。上半身のみのため、移動はできないものの、頭部にスマートフォン(別売)を乗せて、画像認識や音声認識で動かすことができる。Googleの機械学習ライブラリ「Tensor Flow」も使えるので、人工知能(AI)技術を学習したい場合には特に良さそうだ。
ヒューマノイドロボット「MAX-E1」
ロボットといえば、「やはり2足歩行のヒューマノイドじゃないと」という人も多いだろう。この「MAX-E1」は、全身で13軸と、ヒューマノイドとしてはやや少なめの自由度ながら、脚部に平行リンクを採用したことで、安定した歩行を実現している。バトルやサッカーなど、様々な目的で使うことができる。
多脚ロボット「SPI」
「SPI」は、6本脚を持つ、まるでクモのようなロボットだ。2足歩行だとどうしても転びやすく、故障のリスクはそれだけ増えるが、多脚型であれば、少しくらい障害物があっても平気で乗り越えていけるだろう。背中に何かモノを乗せて運んだり、走破性能を重視する場合には良い形態と言えそうだ。
もちろん、ユーザーの工夫次第で、これ以外のロボットを作ることも可能だ。モーション作成ソフト「R+ Task 3.0」のサンプルファイルを見ると、ジンバルや4足ロボットの例が出ていたので、上記の3タイプを一通り試した後は、こういったオリジナルのロボットに挑戦してみても良いだろう。
ヒューマノイドでバトルに挑戦
では、実際にロボットを作るところから始めてみたい。個人的には、Dr.Rがすごく気になるところなのだが、今回、2足歩行ロボットのバトル競技会「ROBO-ONE Light」に出場するという目標があったため、スケジュール的にも、まずはMAX-E1から開始することとなった(ちなみに作り始めたのは大会開催の3週間前……)。
ROBO-ONE Lightは、公認の市販ロボットまたは重量1kg以下の自作ロボットが出場できるクラスである。MAX-E1は2020年2月8日に開催された第20回大会より公認ロボットになったため、マニュアル通りに組み立てれば、そのまま出場することができる。
ロボットに限らないが、学習なり趣味なりで続けていくためには、モチベーションの維持が非常に重要である。モチベーションのポイントは人によって様々だろうが、競技会への参加は非常に有効だと筆者は感じている。
勝ち/負けという明確な形で結果が返ってくるので、負けたら悔しいし、勝ったら嬉しい。筆者などは昔から負けず嫌いなので、負けたら「次は勝とう」と、操縦を練習したり、新しいモーションを作ったり、本気で努力する。それに、会場で出会う他の出場者は、同じロボット好き。大きな刺激を受けるのは間違いない。
ROBO-ONE Lightは、市販ロボットでそのまま参加できるので、ハードルは低い。「バトルはどうも……」という人もいるだろうが、ほかにも、徒競走やダンスなどがある「アスリートカップ」(主催:ロボットゆうえんち)など、様々な大会が開催されているので、好みに合ったものを探すと良いだろう。
まずはお約束の「開封の儀」から
作り方の本格的な紹介は次回からにしたいが、まずはセット内容だけ見ておきたい。パーツは、重箱のように、2段の箱の中に入っている。前述のように、EK1は2軸サーボを採用しているため、パーツ数は比較的少なめ。しかもこの中には、SPI用の脚なども入っているので、MAX-E1で使うパーツはさらに少ない。
それぞれの箱には、パーツの名前が書かれた一覧のパネルが付いているので、マニュアルと見比べれば、必要なパーツを探しやすい。こうしたちょっとした工夫は嬉しいところだ。
マニュアルは、紙に印刷されたものが付属している。残念ながら日本語版はなく、英語版を見るしかないので、小中学生の場合は大人が手伝って欲しい。ただ、ほとんどは図で説明されているので、作業内容自体は理解しやすいだろう。
(次回に続く)