社外のステークホルダーに対しても展開される「拡張エンタープライズラーニング」は、多くの人にとって真新しい考え方かと思います。しかし、企業の中を観察すると、今まで教育という視点で捉えられてこなかった「名もなき教育活動」が日々行われています。

そのような活動を拡張エンタープライズラーニングという新しい視点で見直すことで、成果を生み出すカリキュラムへと再構成することができます。

本記事では、拡張エンタープライズのはじめ方について、3つのステップに分けて解説します。

ステップ①:成果が出てない研修・勉強会などを見直す

従業員向けの研修を計画する際、新入社員が対象なのか、中間管理職が対象なのかを検討するように、拡張エンタープライズラーニングにおいてもまずは、対象(ターゲット)が誰なのかを検討します。

拡張エンタープライズラーニングの場合、ターゲットの候補となるステークホルダーは多岐にわたります。代理店や顧客はもちろんのこと、入社前の内定者や見込み客なども対象になり得るため、抜け漏れのないようにターゲットをリストアップしましょう。

また、ステークホルダーのどんな活動を対象にするかも決める必要があります。代理店に対して行われる初期の製品概要の説明をターゲットとするのか、または、活動量の少ない代理店に対する再活性化をねらった施策をターゲットとするかでは、準備すべき学習コンテンツが大きく異なるからです。

ステークホルダーおよび活動のターゲットの選別で迷ったら、すでに実施している研修や勉強会などを見直してみましょう。特に反復作業が発生しているのに、期待しているほど成果が出ていない活動がオススメです。例えば、新規顧客向けに同じ内容の説明を毎回行っていたり、異なる代理店向けに製品説明を繰り返し行っていたりする場合は、学習カリキュラムを組み立て直し、あらためてコンテンツ化してラーニングに生かすなど改善の余地があります。

ステップ②:「短期的に効果が測れる」指標を設定する

ターゲットとなるステークホルダーと活動を決定したら、次は測定すべき指標を設定します。

社内の従業員向けの研修で、効果測定を十分に行えている企業は稀です。研修の目的が、受講者のマインドの変化など、効果測定がそもそも難しい指標を設定していることも原因の1つですが、社内研修の場合、研修の実施によって生み出された成果(収益など)を正確に把握することが難しいからです。

拡張エンタープライズラーニングの場合、社外のステークホルダーの仕事への姿勢やマインドセットなどのソフトスキルは、そもそも把握することが困難です。しかし、代理店が生み出す成約数や、顧客の解約率など、売上やコストに直結する指標はすでに測定を行っているケースが多いでしょう。

そのため、ラーニング施策を実施するグループと実施しないグループに分けたり、施策実施後の問い合わせ件数などを期間別に把握したりと、短期的に効果が表れやすい指標を測定することで、拡張エンタープライズラーニングの影響範囲を把握することができます。

ステップ③:既存のコンテンツを整理、再構成する

受講者のターゲットと測定すべき指標を決定したら、提供するカリキュラムを作成します。カリキュラムと言っても、年間授業計画のような長期のスケジュールを考える必要はありません。まずは、日々の業務で活用されているコンテンツを整理し、再構成するところから始めましょう。

代理店向けの説明で使用しているスライド資料や、顧客に提供しているマニュアル類など、カリキュラムの基となる何らかのコンテンツをすでに保有しているはずです。従来はスポットで提供されていたコンテンツを、指標改善のゴールに向けてつないで、1つのカリキュラムとして構成するイメージです。

また、学校で定期的にテストを行うように、カリキュラム終了後には、到達度を測定する試験やアウトプットの場を設けるようにしましょう。代理店間の成績の比較や到達度に応じた称号の付与など、ゲーミフィケーション(ゲーム要素を応用して意欲を向上させること)の要素を加えてもいいでしょう。

拡張エンタープライズラーニングを始めるコツは、すでに行っている活動と測定している指標、保有しているコンテンツを活用し、まずはスモールスタートで着手することです。

筆者の会社が提供している拡張エンタープライズラーニングシステム(EE-LMS)の導入先でも上記の方法で成果を出している例があります。ソフトウェアを販売しているA社は、無料のトライアル導入顧客向けに、ソフトウェアの活用方法が学べるサイトをEE-LMSで構築し、有料顧客への転換率という指標の改善をゴールとして、操作方法を説明している様子を録画したコンテンツを顧客に提供しています。

次回は、拡張エンタープライズラーニングの具体的な活用シーンを紹介します。