筆者は、昨夏にICT支援員の資格を取得しました。ただ、企業に勤めている都合上、教育の現場でリアルに支援することはできません。そこで、夜な夜な教育の未来を考えていこうと考えてみました。最初は、「デジタルスクール」というテーマを思いつきましたが、小さな机にパソコンを置くと教材やノートが置けない。そこで、「デスクトランスフォーメーション(DX)」について執筆しようと思いました。 前回は、OECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)の生徒の学習到達度調査「PISA(Programme for International Student Assessment)」の結果を紹介し、日本の子供たちがいかにPCの利用体験が少ないかを紹介しました。
生徒の学びを変える教育のDX
教育へのコンピュータ利用は、北欧やアメリカでは10年も前から始まっています。電子黒板、生徒それぞれのコンピュータ、デジタル教材、スマートフォン、VR・AR教材、プログラミングできるドローンやロボット教材、考える空間など、学びの環境が充実しています。
対する日本は、やっとコンピュータが一人一台の配布が始まったところ。通信環境が改善され、クラウドサービスやアプリが使える状態になり、テクノロジーを駆使した教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)へのスタートポイントについただけの状態です。
文房具のように、テクノロジーを駆使した教育のアプリやサービスが活用されるようになるのが、「教育のDX」のゴールだと思います。今は、学習用コンピュータが、教育のDXを叶える文房具となるか、巨大な文鎮で終わるかの分岐点です。その成果は今後のPISA学習到達度調査が明らかにしてくれるでしょう。
まずは、教育のデジタル化
「教育のDXは「教育のデジタル化」ではない」とよく言われます。その通りだと思いますが、まずは目の前にある(手書き)情報をデジタル化しないと、データを使った変革は何も始まりません。つまりデータをテクノロジーに乗せることが必要です。
デジタル化できることは、出欠、授業の一部、宿題・試験、保護者との連絡、給食費、校務など多岐にわたります。その結果、例えば欠席した生徒がその授業単位で学習すべき内容を理解しているか、相関性を一目瞭然にすることも可能です。日々の授業で細かな学習到達度を測ることができれば、期末の試験は簡略化できるでしょう。このような変化が教育のDXです。
授業の半分をデジタル教材に任せて、生徒の様子を観察する時間に充てることで、デジタル教材では補えない部分に、先生が個々の生徒に合わせた丁寧な説明を加えたり、知識だけでない経験や想いをより多くの時間教えたりすることもできるでしょう。すべてをデジタルに置き換える必要もありません。そもそも、人の心はデジタル化できませんので。
教育のDXとしてよく挙げられている仕組みとして、以下があります。教育環境を提供するもの、それ自体が教育そのものなど、さまざまです。
- 遠隔教育(リモート授業・協働体験、社会体験、ひきこもり対策)
- デジタル教科書、ビデオ教材、宿題アプリ、共有ホワイトボード、AR/VR体験
- プログラミング(STEAM、ロボット、ドローン、モーター&センサー)
- AIを活用したデジタルドリル(弱点攻略できる個別最適化されたドリル)
- パーソナライズド・ラーニング(Personalized Learning)・アクティブ・ラーニング
- 学習管理プラットフォーム(LMS)、スタディログ、自主管理 学習ダッシュボード
ICTアプリやサービスが文房具のように活用されるには
これらのテクノロジーを学習の中にうまく取り込むには、「ICT支援員」や「GIGAスクールサポーター」の活躍が必要かもしれません。GIGAスクールサポーターとは、ICT関係企業OB・OGなど、ICT環境整備等の知見を有する者が、オンライン学習時のシステムサポート、ヘルプデスクによる遠隔支援、通信環境の確認、端末等の使用マニュアル・ルールの作成等を行うとされています。
令和4年度は、GIGAスクール運営支援センターが設置され、サポーター人材が派遣されることになるでしょう。このICTサポーターが当面の最大の「DXソリューション」かもしれません。日本の教育のDXは、最初は人が支えます。
「都市OS」と「まなびのOS」
話を「まなびのOS」に戻しましょう。都市OSとは、スマートシティを実現するために中核となるデータ連携基盤を指します。都市から吐き出される膨大なデータを蓄積・分析し、住民の使うエネルギーや交通、医療、金融、通信、教育などの分野のアプリやサービスを動かし、より快適な生活(Well-Being)を提供する中核の機能です。
また、他の自治体や他のアプリ・サービスなどと連携するためのデータ連携プラットフォームでもあります。連携を行って単一のデータをさまざまな目的に使い倒すこと(循環利用)がその都市の競争力を高めます。
この都市OSの姿は、教育のDXを支えるICTシステム(まなびのOS:勝手称)と全く同じであることに気が付きました。まなびのOSには、都市OSと同様に、生徒の膨大な学習記録(スタディログ)を保管し、拡張容易性、他のまなびのOSとのデータ連携、教育のDXを実現するアプリやサービスとの連携、認証、セキュリティ&運用などの要素が必要と考えられます。つまり、スマートスクールを実現する「まなびのOS」は都市OSと同じであると言えます。
「まなびのデータ」は集約・相互分析し、すべてのアプリやサービスで利用
AIドリルなどの教育のアプリやサービスがバラバラに導入されると、管理画面がそれぞれに用意され、一人の生徒が横断的にどうなっているのかが見えづらくなります。例えば、個別に最適な学習を提供できたとしても、確認テストが共通レベルでは、理解度の深さを測れません。
つまり、すべてのアプリやサービスはある程度連携して機能しないと高度な教育を提供できません。また、他の自治体の教育委員会と「まなびのデータ」を交換できるように、データフォーマットを共通化しなければなりません。なぜなら、母数が大きいほど的確な分析が可能となり、その成果を共有できるからです。
まなびのデータは、教育のアプリやサービスの間で共有して、最適な学びを提供できるようになること、他の教育委員会や他の教育アプリとも容易で連携できることなどを実現するために、フォーマットの標準化とアクセス用のAPIを標準化することが最低限必要です。
最後に
現実には、都市OSの実用はこれからですので、「まなびのOS」などの実用化もこれから検討していくことになるでしょう。テクノロジーを駆使した教育のアプリやサービスが文房具のように活用される姿が近い将来実現することを強く期待します。
次回は、「まなびのOS」から派生するあれこれを夜な夜な考えていきたいと思います。では、おやすみなさい。