これまでの連載では、経済界のグローバル化を受けた育成人材の変化、アジアを中心とした海外大学の台頭、18歳市場の縮小という時代に逆行するかたちで、如何にして国内大学が勝ち抜き、成長していくのかに焦点をあてながら、13年後に迫る2030年に向けた大学の進むべき方向性を示唆してきた。

国内大学を取り巻く状況を鑑みると、大半の有識者が予測することは、数多くの大学の倒産である。多くの国内私立大学は総収入の大半を学納金収入に頼っており、学生数の減少が経営に与えるインパクトは大きい。加えて、コスト側面でも固定的支出、B/S(貸借対照表)側面でも固定資産が大半を占めており、総じて状況変化に弱い財務体質である。この状況を踏まえると、この先のさらなる時代の変化によって多くの大学が経営危機に見舞われる、と考えることに大きな違和感はない。

しかしながら、明るい兆しがないわけでもない。

ここにきて強い危機感を抱く大学が格段に増えており、我々に声を掛けていただく機会も増えてきている。これらの大学は難局に立ち向かうだけでなく、これを転機として捉え、経営モデル・事業方針を変えるべく舵を切り始めている。決して平坦ではないものの、変化に向けた歩みを着実に進めており、これを肌で感じる筆者は、国内大学が長い歴史の中で培ったポテンシャルを持ってすれば、今後数年で大転換をかなえ、結果的に大きく成長を遂げることが可能なのではないか、とも考えている。

最終回となる今回は、これまでの連載を振り返りつつ、2030年までの国内大学に求められるさらなる成長を見据えた抜本的な変革="パラダイムシフト"に向けて、学生/保護者、大学教職員、大学経営者に意識していただきたい点を挙げて連載を締めたいと思う。


過去の連載サマリ

1. 設立背景と置かれる状況(第1回)

最高学府として設立された国内大学であるが、現在では18歳人口の半数以上が身を置く存在となり、ユニバーサル化が進んでいる。一方、深刻な少子化や経済のグローバル化、デジタル化の波を受け、大学の存在意義やあり方を再考するタイミングにあることも事実である。多様な大学が生まれ、大学と一括りにすることすら違和感を覚えがちな今、共通した課題は「時代に合せた変化」であり、2030年までの継続的な成長を見据えたパラダイムシフトが強く求められている。

2. 時流から見る2030年の大学(第2回第3回第4回第5回第6回)

1980年代の米国でも少子化に端を発した大学の経営危機が存在した。今の米国大学の飛躍は、この苦境を乗り越えたからこそ実現したのであり、収入面における複数の収入源の確立、支出面における変動費化など、国内大学が学ぶべきことが数多くある。

昨今、国家レベルでの課題として挙げられる我が国の少子化に対し、国内大学が如何にして立ち向かい、この逆境を乗り越えるのか。筆者が考えるキーワードは経営モデルの企業化であり、財務という結果論だけでなく、それを構成するソリューション(教育プログラム)、ビジネスモデル(対象マーケットと提供場所・方法)の各観点での変化である。

  • 教育プログラム:リベラルアーツ的教育のあり方が変わり、大学はそれぞれの専門性に特化
  • マーケット:グローバル市場だけでなく、主婦層、社会人というレイヤーにも拡大
  • 提供場所:座学的教育の段階的なデジタル化、現地ではアクティブラーニング型に
  • 経営モデル:変化に対する柔軟性が重視され、企業的な経営モデルに発展

3. 政府/経済界からの要請(第7回第8回第9回)

足元をみても経済界主導の採用戦線の経年変化、文部科学省主導のSGUや高大接続、国立大学向けの改革プランや指定国立大学といった国内大学を揺るがす動きは勢いを増している。また、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)技術を筆頭に、定型的な事務業務を自動化させるテクノロジー側面の発展も目覚ましい。

国内大学がパラダイムシフトを実現していくうえで、ドライバーとなるのは、こうした足元の変化に対する「受け方・応え方」である。受け方とは上記2で示したような未来像と足元の変化や動向が線でつながることであり、裏を返せば小さな変化を大きな変化の予兆として捉えられていることだ。そしてその理解が大学改革として具体的なアクションに転換できることが応え方になる。

目先の変化を対岸の火事とせず、それぞれの大学が考え、アクションしていくことが成長に向けた重要な一歩になるのでなかろうか。


実現に向けたアクション

国内大学のそれぞれが高い危機感を持ち、過去から今を意図的に否定し、本質的な強みの上に新たな強みを作り出す必要がある。その前提として、大学を取り巻くすべてのステークホルダーの意識と行動の転換が求められ、本連載を締めるにあたっての最後の示唆とさせていただく。

学生/保護者のアクション

組織を大きく変える最大のチカラは外部からの目である。企業で言えばクライアントでありユーザーや株主。大学で言えば学生・保護者がそれにあたる。すなわち、学生・保護者の大学に求める事項が変われば、自ずと大学側も対応が求められる。今はSNSやブログなどで個人が意見を発信しやすい時代にある。グローバル化やデジタル化の潮流を踏まえ、大学に求める改善をどんどん発信していただきたい。その声を即座に拾い、対応し続けた大学こそが永続的に勝ち残っていることは明白である。

大学教職員のアクション

多くの国内大学は創設から何十年も経過し、培われた実績や功績が歴史として刻まれている。歴史は重んじるべきものではあるが、過去の経験だけではまったく太刀打ちできない変化が、大学周辺でとてつもないスピードで生じているということも事実である。大学の抜本的な変化が求められる今こそ、一人ひとりの教職員がゼロベースで自身の所属する大学や提供している教育、サービスを見つめ直す瞬間があっても良いはずだ。教職員の皆様にはいい意味で過去を否定し、選ばれる大学のあり方を考える時間を作っていただきたい。その声がムーブメントに変わった瞬間、止まりつつあった時計が再び動き出すはずである。

大学経営者のアクション

2004年の国立大学法人化や、選定が進む指定国立大学に代表されるように、これからの大学に共通して求められるキーワードは「自立」である。計算通りに学生を獲得でき、潤沢な補助金を得られる時代は終わりを迎えつつある。不透明な状況を生き抜くには、高度な分析によって確度の高い予測を立てる以外に方策は無い。また、変化に耐えうる経営モデルを早期に確立していく必要がある。国内大学のIT化は飛躍的に進み、大部分の情報が電子データ化されている。自学の状況を定量的に把握するとともに、必要に応じて外部と連携・共有することによって、改革・改善のスピードアップを期待したい。2030年に勝ち残れているか否かは、明日からの変化を積み上げた結果になる。1人の学生を4年以上預かるというビジネス特性上、明日から何かを実施したとしてもそれが文化として定着するのには10年を要する。「当面は大丈夫」、ではなく「明日から何ができるか」という未来志向をもとに、着実に変革を積み重ねて頂きたい。

2030年、多くの国内大学に学生が溢れ、多様なサービスやアイデアが創出されていることを強く期待したい。


おわりに

10回にわたる本連載「2030年に向けた国内大学のパラダイムシフト」も今回で最終回を迎える。

少子化の改善は兆しが見えず、グローバル化やデジタル化といった産業構造をも変えてしまう変化も日々加速している。大学の出口戦略は産業構造に直結していることを踏まえると、変化を見越し、先回りできる大学が勝ち残っていくことは自明である。国内大学がこの難局を転機として捉え、急速に経営モデルと事業方針を転換していくことを期待するとともに、我々としても成長を支えていきたい。

著者プロフィール

根本武(ねもとたける)
アクセンチュア株式会社 公共サービス・医療健康本部 シニア・マネジャー
入社以来、数多くの大学改革案件を主導。
経営戦略や教育改革、組織・業務・IT改革に至るまで幅広い分野に精通。
保有資格は中小企業診断士、システムアナリスト、テクニカルエンジニア(ネットワーク)など

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