京都議定書の温室効果ガス削減計画を達成するため、2005年から政府が主導となって実施されている地球温暖化防止国民運動「チーム・マイナス6%」。ほとんどの人がその名称を目にしたことがあり、生活の中でエネルギーのムダづかいを減らし、CO2(二酸化炭素)削減の取り組みを実践している人もいるだろう。
日本の温室効果ガス排出量 |
2006年度における日本の温室効果ガス排出量は基準年(1990年)比6.2%増。京都議定書の約束を達成するには、森林吸収源対策や京都メカニズムでの削減分を差し引いても、2006年度比6.8%の排出削減が必要だ。出典:環境省 地球環境局 国民生活対策室 資料 |
しかし、温室効果ガスの排出を減らしたほうが良いということはわかっていても、当然のことながらゼロにすることはできない。化石燃料などの資源の消費なくして現代の生活は成り立たないし、そもそも人間を含めた動物はすべてCO2を吐き出して生きている。現実的な目標としては、いったい排出量をいつまでにどれくらい減らせば良いのか。
チーム・マイナス6%の中で2007年から新たに追加されたスローガンに、「1人1日1kg」の温室効果ガス削減という目標値がある。「1」が並んだこの目標は確かに覚えやすく、やる気を起こすには良さそうな数字だが、「じゃあ1kgってどのくらい?」「本当に1kgでいいの?」という疑問は残る。環境省の地球環境局地球温暖化対策課で、チーム・マイナス6%の推進を担当する国民生活対策室の河野通治さんに、「1kg」のワケについて聞いてみた。
「1人1日1kg」で京都議定書の家庭部門はクリア可能
環境省 地球環境局 国民生活対策室 河野通治氏 |
「平成19年(2007年)5月、アジア各国・地域の首脳が参加する国際交流会議において、当時の安倍晋三総理が地球温暖化対策に関する演説を行いました。そこでいくつかの環境政策の提案を行ったのですが、そのひとつが『1人1日1kg』の削減です。演説ではこの数字について『モットー』と言っています」(河野さん)
「モットー」というとあまり科学的ではないようにも思えるが、さすがに何の根拠もない数字を目標にしているわけではない。この目標を達成できたとして、1年間でどれだけの削減量になるかを大まかに計算してみると
1kg×365日×1億2,000万人=438億kg=4,380万トン
となる。京都議定書達成のためには、家庭部門では年間3,200~3,500万トン(2005年度比、対2010年度目標)の削減が必要とされており「4,000万トン以上も減らせば十分じゃないか」と思われるかもしれないが、この「家庭部門」には大きな排出源である自動車が入っておらず、家庭のマイカーも統計上は他の輸送機関とともに「運輸部門」という別部門に入っている。運輸部門から排出される温室効果ガスのおよそ3割はマイカーによるもので、これは実質的には家庭からの排出と言える。それを入れると、家庭での年間削減量は400~500万トンの上乗せが必要となり、実際には国民全員が「1人1日1kg」を達成したとしてもそれほど余裕があるわけではない。
排出量の内訳 |
2006年度のデータでは、家庭部門と家庭のマイカーを合わせた家計関連の排出は全体の20%を占める。また、1990年~2005年度に排出された1世帯あたりのCO2は5,457kg。これを、平均世帯人数2.55人で割ると、1人あたり約6kgのCO2を排出していることになる。 出典:環境省 地球環境局 国民生活対策室 資料 |
「1人1日1kg」は現状から約17%の削減に相当
「1人1日1kg」の削減が必要な背景は理解できたが、気体は目に見えないものだけに「1kg」がどれくらいの量なのかイメージしにくい。「『1kgってどれくらい?』ということはよくご質問いただくのですが、CO2で計算すると1kgは約509リットル。サッカーボール約100個分の体積と表現しています」(河野さん)。509リットルという数字がわかれば、500ml入りペットボトル約1,000本とか、風呂おけ約2杯分とか、いろいろな身近なものに当てはめて考えられる。
これだけでも結構な量を減らさなければいけないという気にはなるが、現状を知るとさらに道は険しいことがわかる。自動車などを含めた家庭部門からの温室効果ガス排出量は、1人1日あたり約6kgという。ここから1kg減らすというと、約17%もの削減が必要ということになる。「2008年サラリーマンの小遣い調査」(GE Money)によると会社員の平均小遣いは46,300円/月ということだが、約17%の削減というとここから約8,000円減額されてしまうことに相当する。目標達成にはいかに大変な排出引き締めが必要となるかがわかるだろう。
つらいダイエットよりも大変な排出量削減
よく女性のダイエット目標として「1日のカロリー摂取量は1800kcalまで」と言われることがあるが(年齢や運動量によって理想的なカロリーは千差万別なので、この数字こそまさに「モットー」だが)、食後のデザートにケーキ一切れ食べるのをやめれば一気に200~300kcalくらい削減できるダイエットとは異なり、温室効果ガスはけっこうがんばっても減らない。チーム・マイナス6%のWebサイトに紹介されている取り組みを組み合わせて、1kg削減を達成しようとすると・・・・・・。
生活の中でかなり意識して行動したつもりでも、減るのは10~20g程度というアクションも多い。実際には、自動車やエアコンなどを省エネ型のものにすることによる削減効果は大きいので、それらの買い換えが必要となった場合にはできるだけ環境性能を重視し、日常においては小さなアクションの繰り返しで削減実績を積み重ねていくのが、現実的な解と言えそうだ。
先のダイエットの例を出せば、「ケーキ一切れを我慢するのがどれだけ大変と思ってるのよ!」という反論も聞こえてきそうだが、温室効果ガスの削減には、その我慢を上回る努力が必要ということだ。しかも、京都議定書をベースに考える限り、排出量のカウントは2008年度からすでに始まっており、2012年度までの平均で、6%の排出削減を達成しなければならない。今この瞬間を含め、あと4年ほどの間に達成しなければならない国民的課題なのだ。まずは可能な範囲で実践し、大変さを実感するところから始めてみてはいかがだろうか。