PwCあらた有限責任監査法人(以下、PwCあらた)は、「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」となることをビジョンとして掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と個々のデジタルスキル向上に取り組んでいます。
本連載では、私たちの監査業務変革の取り組み、デジタル化の成功事例や失敗を通じて得た知見を紹介します。これからデジタル化に取り組まれる企業やDX推進に行き詰まっている企業の課題解決にお役立ていただければ幸いです。
デジタルへの苦手意識からの出発
PwCあらたは、業界ごとのニーズに専門性をもって対応できるよう、サービスを提供する業種ごとに部門を分けています。テクノロジー・エンターテインメントアシュアランス部(TMT)は、ゲームや音楽、映画や通信といった産業の監査を担当しています。
将来のビジネストレンドとなるIoT(Internet of Things)、AI(人工知能I)、VR(仮想現実)、ロボットなどを扱う、デジタルの先駆者とも言える企業にサービスを提供するがゆえに、被監査会社のビジネスを理解する上でデジタルの効能を把握する必要があるのはもちろんのこと、DX(デジタルトランスフォーメーション)の意義や必要性を強く感じています。
しかしながら、自分たちがデジタル化するとなると一筋縄ではいきません。被監査会社のデジタル化推進の取り組みを垣間見ることはあっても、依然としてデジタルに対して苦手意識を持つメンバーは少なくありません。
以前から慣れ親しんだ手続を変更して新たな手続を立案することについて、人は余分な労力だと感じてしまうことが往々にしてあります。ルーティンワークとなっている標準的な作業こそ、デジタル化のチャンスが潜んでいます。しかし、ルーティンワークにメスを入れ、追加の工数を投じてまで成果がでなかったとしたら、時間を無駄に消費することになるのではないかと不安を抱くことは、誰しも想像が容易でしょう。デジタル化は将来に期待を抱き、勇気をもって取り組むことが重要なことだと考えています。
どうすれば一人ひとりのモチベーションを刺激し、組織全体のデジタルアップスキリングを推進できるだろう――そこで私たちが考えたのが、部内で積極的にDX推進に取り組んだメンバーを表彰する制度です。
「TMT Digital Award」と題し、年度内にチームないし個人によって開発されたデジタルツールを対象に優秀なものを紹介し、DX推進に果敢に取り組んだメンバーを顕彰することにしたのです。個人のスキル向上を評価するのはもちろんのこと、法人全体で掲げるDX推進への積極的な協力に感謝の意を伝えることで、デジタル化の取り組みを肯定するカルチャーの醸成を目指しています。
表彰式で得た、ある確信
開催にあたってはTMTリーダーがデジタル化に対するコミットメントを述べ、選考にはトップマネジメントが主体的に関与しました。単純に「表彰を行います」と呼びかけるだけでは、組織全体の機運を高めることは難しいでしょう。トップマネジメント直々のメッセージや定期的なメール配信によるリマインド、期中の中間評価の実施などにより、メンバーを継続的にモチベートすることに努めました。また、法人内のデジタル化を推進する監査業務変革部(現Assurance Innovation & Technology部)が開発したデジタルツールの共有や勉強会の実施、開発のサポートメンバーの募集などを行うことで、社内のデジタルナレッジの浸透やスキル向上にも取り組みました。
2020年6月、TMT Digital Awardの表彰式をオンラインで開催しました。エントリー数は30以上。若手メンバーを中心に多くのデジタルに関する取り組みや開発物がノミネートされ、6点が表彰、そのうちの1点が最優秀賞に選ばれました。表彰者が喜びの声を共有する中、参加した多くのメンバーから祝福のコメントがリアルタイムで投稿されました。
「TMTをあげてデジタル化を推進できている」
そんな空気を、ひしひしと感じることができました。応募された取り組みや開発物のいくつかは法人のイントラネットで紹介され、他部門からも反響をいただくことができました。
「全ての進化は変化から始まる」――筆者が好きな言葉の一つに、こんなものがあります。社会全体のデジタル化は必然の流れであり、私たちがそうした時代に適応するプロフェッショナルであるためには、自身がデジタル化を積極的に図る必要があります。「デジタル化」という進化のためにまず取り組むべきは、デジタルを受け入れること。人は何かを始める時、変化に対する不安や新しいものを受け入れる労力により、中長期的な視点での目標を見失いがちです。デジタル化がもたらすメリットを伝え、それに取り組む喜びを提供する。そうすることで、私たちは確実に、法人のデジタル化の推進をリードする部門に変化しつつあると自負しています。
一朝一夕で成し得るものではありませんし、今後も課題は出てくるでしょう。進化のための変化を繰り返しながら、デジタルを誰もが当たり前に使いこなす日常の実現に向け、取り組みを続けていきます。
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