PwCあらた有限責任監査法人は、「デジタル社会に信頼を築くリーディングファーム」となることをビジョンとして掲げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と個々のデジタルスキル向上に取り組んでいます。
本連載では、私たちの監査業務変革の取り組み、デジタル化の成功事例や失敗を通じて得た知見を紹介します。これからデジタル化に取り組まれる企業やDX推進に行き詰まっている企業の課題解決にお役立ていただければ幸いです。
PwCあらたの第二金融部(保険・共済)の1チームである「保険アドバイザリーグループ」は、グループ内におけるデジタルカルチャー醸成に向けた取り組みを継続的に行っています。今回は、その中で本当に役に立った取り組みとそれを続ける上での3つのポイントを紹介します。
デジタルに適応しなければ生き残れない
テクノロジーの発展に伴って、私たちを取り巻く環境は大きく変わってきています。監査法人内でも、人工知能(AI)をはじめとするテクノロジーを駆使した監査業務を検討・推進していくことは当然の成り行きと言えるでしょう。
同時に、クライアントにおいてもDXは進んでいます。保険業界は、これまで営業職員を中心とした保険販売が主流でしたが、新型コロナの感染拡大等を背景に、各社はDXを加速させ、改めて顧客接点の強化・工夫が進んでいます。
筆者もクライアントの方々から「日々、テクノロジーを活用した業務効率化や顧客体験価値向上に向けた検討・推進をしている」という話をよく耳にします。アドバイザリー業務に従事する私たちは、テクノロジーの動向を正しく理解し、それらを活用できるだけのスキルとマインドを培っていかないといけません。そうしなければ、社会が求める品質の高いサービスを提供することが難しくなります。
そこで保険アドバイザリーグループは手始めに、学習ツール「Digital Fitness(デジタルフィットネス)」を活用することにしました。デジタルへの理解と知識を深めるこのアプリを使用して、チーム全体の意識改革に挑んだのです。
DX推進に向けて具体的に何をしたのか?
Digital Fitnessにおいては、週に20分から60分までの3つの学習プランの中から自分に合ったものを選び、デジタル関連コンテンツを読んだり見たりして学習を進めます。そして週に1回、習熟度を測るためのテストを受け、デジタルフィットネススコアを伸ばしていくのです。私たちはこれに取り組むにあたり、「スコアを300以上にする」というチームのKPIを定め、全員が目標達成に向けて努力することにしました。
しかしながら、ただ「アプリを通じて学習してください」と呼びかけるだけでは取り組んでもらえません。一人ひとりが「デジタル感度を高める必要がある」と納得すること、デジタルを活用した業務がもはや当然であるというカルチャーを醸成することが重要です。
そこで取り入れたのが、定期的なニュースレター(メルマガ)配信です。一人ひとりがなるべく主体的に参加できるよう、この取り組みに興味のある事務局メンバーを募り、そのメンバーで持ち回りで運営を行うことにしました。
スコアアップに資するコンテンツとなるよう、メルマガは次のような構成としています。
- 直近のテクノロジー関連のニュースの紹介や、そこから得た気付きの共有
- デジタルにまつわる用語の解説
- デジタル関連の書籍の紹介
- チームKPIの達成状況
まずはやってみて、読者(チームメンバー)からの意見を随時取り入れ、ブラッシュアップしていくという方針を取りました。それを繰り返すことで、徐々にコンテンツの中身を充実させています。
メルマガから得た気づき
まず、「第1回のメルマガ(2019/7/19)」では、「チームKPIの達成状況」を中心として主に文章でニュースの紹介をしました。しかし、その後のアンケートから次のような気付き(反省事項)を得ました。
- 全体的に文字が多め
- イメージ(図)がないため、一つ一つの記事がパっと見て伝わりにくい
- KPIの達成状況を冒頭に持ってくると、読者は「内容が面白くない」と判断し、すぐに離脱する
その後も定期的にアンケートなどを取ることで、改善を重ね、今では次のような内容となっています。
- 1分で記事の概要が分かる音声を同時に配信
- コミュニケーションツールを用いて得た各人の気付きを共有し、ディスカッションもしてもらう
- パっと見て何の記事かが分かるように写真やイラストを挿入
カルチャー醸成に向けた奮闘の結果
2019年7月から毎週配信し続けたメルマガにより、一人ひとりのデジタルへの感度が高まってきたと感じています。そして、デジタルフィットネススコア(チーム平均)は、メルマガの回を重ねるごとに順調に伸びていき、1年後、KPIとして設定した300点を大きく上回ることができました。
当初は高い壁との認識だったデジタルカルチャー醸成でしたが、今ではメンバーもデジタルツールをより使いこなせるようになるとともに、クライアントとのコミュニケーションにおいてもデジタルを活用したアプローチをより提案できるようになるなど、この1年間の取り組みは間違いなく功を奏しています。
最後に、DX推進の当事者である筆者が感じた、これを成功させるために必要なポイントをまとめます。
(1)協力者を募る
DX推進の事務局メンバーやメルマガコンテンツ執筆メンバーなど、多くの方に積極的に関与いただくことで、デジタルカルチャー醸成を進めることができました。
(2)PDCAを回し続ける
読者から適宜フィードバックをもらうようにし、本当に役立つコンテンツを届けられるよう改善を加えることが重要です。
(3)あきらめない
継続は力なり。取り組みが形骸化しそうになっても当初の目的に立ち返り、協力してやり続けることが重要です。
今後、こうした取り組みをPwCあらた内に広めていくほか、保険業界のクライアントにお伝えしていきたいと考えています。
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