最終回となる今回は、プロジェクト型の事業を行っている企業におけるプロジェクト管理とその収支管理についてまとめてみたいと思います。
プロジェクト型の事業で一番わかりやすいのは建設業やIT業界などではないでしょうか。建設業では、一つひとつの建物などの建設工事がプロジェクトとして管理され、タスクやスケジュールを管理します。ITにおけるシステム開発なども同様にプロジェクト型で行われます。
また、製造業においても、受注設計生産型の設備製造などはプロジェクト型で設計から調達、生産、納品が行われます。このようなプロジェクト型の事業で重要なのが、QCDの管理です。QはQuality(品質)、CはCost(コスト)、DはDelivery(納期)の頭文字をとったもので、従来からプロジェクト管理ツールが利用されていました。しかしながら、その収支管理という面ではそれだけでは不十分な面があるのも事実です。今回は、プロジェクト管理とERPという観点で見てゆきたいと思います。
従来のプロジェクト管理ツール
プロジェクト管理のQCDの軸ですが、特にプロジェクトマネージャーが注力するのがスケジュール管理ではないでしょうか。そして、その管理に使われるツールはExcelが多いでしょう。
Excelは便利なツールです。タスクを定義し、予定のスケジュール、担当者、実績などを入れていけば進捗管理が可能です。次に管理するのが品質につながる課題です。プロジェクトを進める中で出てくる課題を明確にし、担当者を割り当て、対応のステータスを管理します。これもExcelで管理されることが多いのではないでしょうか。
では、残りのコストの管理はどのようにされているでしょうか。Excelでは少し難しいかもしれません。そこで、プロジェクト管理ツールではExcelとの差別化要素として、簡単にガントチャートを作れたり、タスク間の関連を定義したりすることに加え、リソースを定義してタスクに割り当てることにより、コストを計算したりすることができます。
では、このような機能を持っているプロジェクト管理ツールを導入すれば、QCDの管理ができるのでしょうか。
CWMという領域
従来からあるプロジェクト管理ツールでは、タスクのWBS(Work Breakdown Structure)を起点にして、スケジュールの計画を立て、リソースを割り当ててプロジェクトのQCDを管理するものでした。しかし、現在のプロジェクトにおいては、その複雑さやスピード感において、以前よりはるかに高度なものが求められるようになり、チーム内でのコミュニケーションや課題管理、成果物の共有など、多くの作業が一体となって進められてゆきます。
そこで注目されているのがCollaborative Work Management(CWM)という領域のサービスです。まだ聞きなれない言葉かもしれませんが、北米やヨーロッパを中心に浸透してきていて、複数のベンダーがサービスを提供しています。その多くは、タスクを起点にしながらプロセスやコラボレーションにかかわる多くの機能を統合し、ビジュアル的にもわかりやすい表現でプロジェクトやチームの業務プロセスをサポートします。また、これらのツールはSaaS型のクラウドサービスとして提供されており、場所やデバイスを問わずに利用できるとともに、初期設定のみですぐに使い始めることが可能です。
プロジェクト収支の把握
これまでのプロジェクト管理の課題の1つが収支管理です。QCDの1つであるコスト(Cost)の管理のうち、特にリアルタイムな把握が難しいのが労務費ではないでしょうか。
従来、多くの組織で行われているのは、勤怠管理の際に稼働時間に対してプロジェクトコードを付与し、実働時間とそのメンバーの時間単価をもとに月単位で把握するという方法です。しかし、この方法では日々の進捗に応じた原価の把握が難しいという課題があります。たとえば、3か月のプロジェクトであれば、1か月後の月次の勤怠が締まらないと原価を正確に把握できないというのは、軌道修正するには時間がかかりすぎと感じるのではないでしょうか。
そこで、日々進捗や作業管理をしているCWMツールと、会計情報を扱うERPなどのシステムを連携することで、よりリアルタイムなプロジェクト収支の把握ができるのではないかというアプローチが生まれました。これにより、よりリアルタイムに近い原価把握ができるとともに、進捗との兼ね合いも判断しやすくなります。たとえば、計画よりも計上コストが大きくなっていても、進捗が予定よりも前倒しに進んでいれば大きな問題にはならないかもしれません。しかし、コストが増加しているうえに進捗にも遅れが出ているとなると、計画の見直しなども含め対策が必要になるでしょう。
このように、プロジェクト管理には各々の要素だけではなく、全体を見渡しながら、問題の兆候を素早く見つけて対応することが求められるのです。
ERPとの連携ソリューション
NTTデータ グローバルソリューションズでは、これまで実績の豊富なSAP社のERPシステムと、代表的なCWMサービスの1つであるmonday.comを連携するソリューションを開発しました。必要となるマスターデータや実績データを連携することで、より精度の高いプロジェクト運営を支援します。これまでは、プロジェクトマネージャーがプロジェクト内でツールを利用して、その中でQCDを管理しているというのが一般的ではなかったでしょうか。しかし、プロジェクトはより短いサイクルで実行され、さらに複雑化しています。そのため、ツール自体も進化するとともに、基幹システムとの連携などにより、よりリアルタイムで正確な数字をもとにしたプロジェクト管理が可能になってくるのです。
さいごに
いかがでしたでしょうか。4回の連載で、ERPソリューションを起点として、いま注目が高まっている、周辺システムも含めた代表的なシナリオをご紹介してきました。これらに共通しているのは、「つながる」ことの重要性です。ERPはそのコンセプトとして業務データの一元管理を掲げていますが、一方で企業のシステムがすべてERPでサポートできるわけではありません。DXを実現するための重要なアプローチの1つが「つなげる」ことです。そのためにも、コアとしてのERPと、それぞれの機能に特化したシステムをどのように位置づけ、データの連携を可能にするのかがDXの成否を左右するといっても過言ではありません。ぜひそのような視点でシステムを見直してみてはいかがでしょうか。そのための切り口として、本連載が少しでもお役に立てばうれしく思います。