デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の文脈において、企業内の基幹システムの役割はますます重要度を増しています。また、これまでのようにERPをはじめとした各業務システムの個別最適化ではなく、それらをいかに「つなげて」ゆき、デジタルデータの連携によって新たな価値を生み出すアプローチが求められています。

とくに製造業におけるERP導入の多くの実績を持つNTTデータ グローバルソリューションズ(NTTデータGSL)は、デジタルコアとしてのERPソリューションを中心に、製造業のお客様に特有の連携ソリューションの提供に取り組んでいます。

本連載では、そのような典型的ともいえるシナリオをご紹介してゆきたいと思います。第1回となる今回は多品種少量生産への対応です。

少品種大量生産から多品種少量生産へ

従来の製造業では、製品の標準化を進め、需要予測をもとにした少品種大量生産を行う製造業と、大型の製品や設備など、受注をもとに個別設計を行い多品種少量で生産する製造業の大きく2つに分類されてきました。例えば家庭電化製品などは大量生産ですし、発電所設備などは受注型生産というのはイメージしやすいでしょう。

しかし、市場の成熟によるニーズの多様化やITの発達などで、これまで少品種大量生産であった製品においても、さまざまなオプションや仕様変更などの要求が増え、標準品以外の仕様での対応が必要になる場面が増えています。そのため、これまでの標準品を前提とした設計から生産のプロセスでは、多くの例外対応が必要となり、効率が落ちるばかりでなく、リードタイムの長期化、利益率の低下や、製造原価の把握が困難になる場合もあります。こうした状況において、どのような対応ができるのでしょうか。

設計と生産における課題

製品を生産するためには、まず設計が必要になります。製品の設計をすると、それをもとに部品などの発注を行い、納入された部品を加工したり組み立てたりして製品を生産します。

その第1段階の設計においては、現在多くの企業でCAD(Computer-Aided Design)を使用して行います。設計データはPLM(Product Lifecycle Management)においてバージョン管理や保守用の文書を管理します。同時にE-BOM(Engineering Bill of Material:設計部品表)が管理されます。そして、設計データと需要予測に基づいた生産計画をもとに、部品の調達を行い、生産が開始されます。一方、調達および生産プロセスでは、部品をM-BOM(Manufacturing Bill of Material:製造部品表)をもとに部品を管理します。このM-BOMを管理するのがERPです。

単一仕様の大量生産であれば、バージョンアップや仕様変更も限定的で、E-BOMにおける設計用の部品管理と、M-BOMにおける調達、生産用の部品管理の体系が異なっていても大きな問題はありませんでした。しかし、個別生産型のプロセスになると、設計における仕様変更も頻発し、すべての仕様が確定するまで次のフェーズに進めず、調達や生産に時間がかかってしまうのです。また、個別仕様になると標準部品と特注部品が混在し、正確な原価計算が難しくなる状況にもなるのです。

そのため、これまでの少品種大量生産を前提としたシステムやプロセスのままで多品種少量生産のプロセスを実行してゆくと、標準以外のデータが増え、管理効率が下がるとともに、効率の悪化や採算性の低下を招くのです。

標準化とシステム連携

このような状況に対してソリューションはいくつかありますが、その中の1つが「PLMとERPの連携」です。標準品が中心であった場合には、設計データとして利用されるE-BOMのデータと、調達や生産で管理されるM-BOMのデータが異なっていたとしても、製品のバージョンアップなどで部品が入れ替わったタイミングで同期をとっていれば大きな問題はありませんでした。しかし、少量多品種や個別設計生産の要素が入ってくると、E-BOMデータとM-BOMデータの同期ができていないことは大きな問題になります。また、標準化が進まないため、極端なケースでは仕様が異なるごとに特別仕様または新製品と同じ扱いになってしまい、管理上も大きな問題が出ます。その結果、生産のリードタイムが長くなったり、個別の原価管理ができずに収益を圧迫するなどの状況が生まれるのです。

PLMとERPの連携

以上のように、多くの製造業が直面している多品種少量生産への対応は、PLMとERPを連携すればよいということになりますが、実際にはそれほど簡単ではありません。もともとの目的や設計思想が異なるため、簡単にはつながらないことが多いのです。その違いの典型的な例としては、(1)図番コードと品目コードの違い、(2)管理している属性情報の違い、(3)構成情報の違い、(4)購入品の扱いの違い、(5)設計変更時の管理の違い、などがあります。

これらは代表的な例ですが、実際にはさらに様々な理由により、単純には連携できないことが多いのです。

こうした構造の違いを乗り越えて連携するためには、まずデータ構造を分析し、お互いが必要とするデータを格納できるように、場合によってはデータベースのスキーマの変更などを行う必要があります。次に、データを変換します。単純なロジックで変換できない場合には、変換用のマスタを整備するなどの必要も出てきます。そして、最終的にはシステム的に接続します。

データ連携の方法としては、PLMやERPが用意しているAPIを利用する方法と、CSVなどの標準的なファイルフォーマットでエクスポート、インポートを行うケースがあります。APIは連携の即時性に優れますが、バージョンアップ等に対するテスト工数などが必要であり、PLMとERPの連携ではリアルタイムな連携は求められないことも多いため、ファイル経由での連携を採用することも多くあります。

製造業におけるDXの基盤に

以上のように、すでに多くの製造業において求められている多品種少量生産への対応において、その柔軟性を保持し、収益性を確保し、今後の「強い」製造業を実現してゆくためのポイントとして、PLMとERPの連携についてご紹介しました。

すでに多くの業務がデジタル化されているのは事実ですが、それがつながらないことによる課題は、今後ますます大きくなってゆくでしょう。逆に、つながるプラットフォームを構築することは、製造業におけるDXにとって必須のものともいえます。

実際にこのような観点で、ERPを起点にしたソリューションを提案することも求められているのです。

次回は、製造業における顧客情報の活用とERPの関係についてご紹介します。

著者プロフィール

𡌶俊介(はが・しゅんすけ)
大学卒業後、1994年、日系の監査法人系コンサルティング会社に入社。SEとして会計システム構築および社内システムの構築を担当。
2001年、日本マイクロソフト(現)に入社、主に製造業向けプリセールスや製品マーケティングを約10年にわたり担当。
2010年、デスクトップ仮想化やアプリケーション仮想化ソリューションを提供している最大手のシトリックス・システムズ・ジャパンに入社、約7年間にわたり、アライアンスやマーケティングを担当。
2018年より、NTTデータグローバルソリューションズに入社し、事業戦略推進部副推進部長として、マーケティング全般、人材育成に携わる。現在に至る。