FPDの市場動向調査およびコンサルティングを行っているDSCCが先般、東京都内にて「ライジングチャイナ、岐路に立つFPD業界」と銘打った年次セミナーを開催した。前回は同セミナーの内容をもとにテレビ向けパネル市場の動向を説明したが、今回はモバイル機器向けのパネル市場の動向を読み解いていきたい。
DSCCアジアおよび代表を務める田村氏によると、スマートフォン(スマホ)に代表されるモバイル機器用有機EL(OLED)パネルおよびアプリケーション市場は、「2019年は2年連続のマイナス成長が見込まれるが、2020年以降は5G化などによりプラス成長への転換が期待される」と5Gの立ち上がりが市場成長のカギとなることに言及。それと併せて、軽薄なフレキシブルOLEDパネルの需要も喚起される可能性も指摘。「2019年のスマホ用OLED市場では、フレキシブルパネルがフォーダブルスマホの立ち上がりが遅れたこともあり前年比3%増程度に留まる一方で、リジッドが製品価格の下落と諮問認証センサ搭載により同17%増と3年ぶりに増加に転じる見込みである」とし2020年の成長のカギはフォーダブルスマホの市場立ち上がり具合次第だとした。、
フレキシブルOLED基板でもっともシェアを有するのはSamsung Display。ただし、その投入能力は2019年をピークに、2020年以降は若干減少する見込みである。これは、韓国牙山(アサン)のA3ラインでのY-OCTA(オンセルタッチ、Youm On-cell Touch AMOLED)への移行、さらにはLTPO(低温多結晶酸化物: Low Temperature Polycrystalline Oxide)への移行で工程数が増えるためである。フォーダブルの量産化も考慮すると、パネルベースの生産能力はさらに減少し(2019年の3億枚に対して、2021年以降は2億枚強へ)、今後のA3工場稼働率は充足方向に向かうと同氏は見ている。
また、今後は中国最大のディスプレイメーカーであるBOEもフレキシブルOLEDの投入能力を増加させていき、2024年までにSamsungに追い付くとも予測しているほか、China Star、Visionix、Tianmaなどの中国勢も参入してくることが予想されるという。
5G化が牽引する2020年の中国OLEDスマホ市場
DSCCの中国担当アナリストであるRita Li氏は「中国モバイル用AMOLEDのトレンドと戦略」と題した講演の中で、「2019年は中国のOLEDパネルメーカーにとって厳しい年であるが、中その投資意欲に大きな変化はない。中国のトップスマートフォンブランドであるHuaweiは米中貿易戦争の影響下においても、HIAA(Hole in Active Area:カメラのためのパンチホール)などの新技術を採用することで需要の喚起を促している。2020年は5Gが、中国におけるOLEDスマホの需要増をけん引するだろう」と述べ、2019年の中国におけるAMOLED製造に関する10大動向を以下のようにまとめて紹介した(順番は生産能力、サイズといった技術的なものから順に価格に向かうものにしたという)。
- AMOLED生産能力は拡大している。
- BOEが韓LG Displayを追い抜き世界第2位になる(BOEの製造歩留まりが向上してきて量産が本格化している)。
- フレキシブルOLED搭載スマホのサイズはどんどん大きくなる。
- Huaweiは米中貿易戦争にもかかわらず、生産・販売数量を伸ばしている。
- BOEのHuawei向けフレキシブルOLEDパネル価格が同社の要求で低下している。
- ブランドものスマホは、第3四半期以降、補助金に支えられ5G移行が進む。
- フォーダブルスマホは、品質問題を抱え、市場は冷え込んでいる。
- AMOLEDスマートウオッチビジネスが立ち上がりつつある。
- AMOLEDスマホの高級機種では、3.5D、Y-OCTA、HIAAなどの新技術採用が必須である。
- 中国AMOLEDパネルメーカーにとって、歩留まり及び稼働率向上が大きな課題である。
また、中国OLEDメーカーの設備投資については、「BOEの長期的な投資動向に減速感が出てきており、B15工場投資計画は先送りされる見込みである。しかし、その他各社が建設したOLEDラインへの2019から2020年にかけての設備投資は実行される。フレキシブルOLED市場への中国参入メーカーは4社と過多であり、各社の第1工場の本格稼働後に優劣の方向性が見えるであろう」(田村氏)と述べている。
最新技術への移行を進める韓国勢
さらに韓国ディスプレイ業界動向についてDSCC韓国在住アナリストであるJayden Lee氏が「LCD市場は、チャイナライジングの勢いが止まず、韓国ではダウンサイジングの第2ステージが始まった。チャイナライジングにより、韓国FPDメーカーでは『液晶テレビパネル事業のダウンサイジングによるFPD事業の選択と集中』を決断しなければならない状況となっている。FPD生産ラインをどう活用するか? どのような戦略で進めようとするか? の決断が急務となっている」と述べ、注目すべき最先端技術としてQD-OLED、インクジェットOLED、デジタル露光(Digital Exposure:DEX)などの活用による事態の打開が模索されており、すでにSamsungが一部のLCDラインをQD-OLEDに転用しようとしているが、技術的ハードルはまだ高い状況であるほか、インクジェットディスプレイも研究開発の検討が進められている段階にある。唯一DEXのみ、LG DisplayのP8ラインやSamsung DisplayのA2ラインなど一部で活用されているが、こうした先端技術だけで事態が好転するかはまだ不透明であるといえる。
(次回は10月25日に掲載します)