渡り鳥のハクチョウなどは、V字型の編隊を組んで、空を飛んでいきます。でもスズメやヒヨドリはちがいます。なんで渡り鳥はV字型になるのか。鳥の飛行は、飛行機のそれとはちとちがいますので、実用にも? で、そういう意味では、どーでもいいこと!? ですが、魅力的な話題だけに、結構大勢の科学者が取り組んでおりまして…。
空を飛ぶ鳥の群れが、V字型の編隊を組むことがあります。
Bird 'V' Formation |
鳥は、都会にも来訪しますし、だれもが、一度は見たことがあるんじゃないですかねー。
このV字型 -まあ雁行型なんていいかたもしますが- は、一般に、省エネな飛行方法だーと紹介されることが多いですねー。実際、空力的な計算をすると、単独で飛行するのに比べ、25匹の渡り鳥がつながって飛ぶと、同じエネルギーで70%も飛行距離を伸ばせるのだそうです。これが9匹でも50%だそうで、たしかに楽なわけです。
なーんで、こうなるか? というと、前を飛ぶ鳥の気流が、後ろの鳥を助けてくれるからなんですね。扇風機を二段構えにすると、一段目の扇風機のおかげで、二段目の扇風機は小さなパワーで同じだけの風をうみだせる、ってなもんですな。
もちろん、先頭の扇風機…じゃない鳥は、ソンをすることになりますな。だから、鳥の群れはときどき先頭を入れ替えることもあるようです。さらに一列ではなくV字型にすることで、もう一ついいことがあるんですな。それは、上昇気流に乗れるということなんです。
つばさがバサバサとうごくと、その真後ろでは、空気が下向きに強くおされます。いくら、前から風がふくからといって、下向きの風もくらったら、ソンですから、真後ろにつくのはダメなのですな。
ところが、つばさから横に流れる風は、上をむくのです。つまり、横には上昇気流があるのですね。そして、ナナメ後ろにいることで、後ろ向きの風+上昇気流の両方の恩恵がある。のが、V字型編隊の意味だったのでございます。
さらに、いったんV字型編隊をつくると、風の影響で、それからはずれようとすると、もとの位置にもどるような力が働くのです。これも編隊の維持には合理的なわけですね。
さらにこまかな研究があって、V字の角度は一定よりも、先頭がややゆるやかで、外が広がるような形がいいとか、角度は100度がいいとか、まあ、いろいろでございます。こういう誰得な研究、いいですねー! 楽しいですね。あこがれますな。
ただ、問題は、これをどうやって確かめるの? 本当に渡り鳥は風に対して最適な編隊を作っているのか? とかいろいろ問題がございます。ビデオで撮影しても、正確な位置はわからないし、渡り鳥に協力してもらって、風洞実験をするわけにいかないし、と、ここに問題がでてきました。
それが、最近になって、問題が解決したのです。渡り鳥の位置を正確に調べる方法ができたのです。それはGPSと超小型の加速度記録機でございます。
渡り鳥の負担にならない程度の超小型の測定器を渡り鳥(トキ)に背負わせ、実際に飛んでいる状態で、位置関係や羽ばたきの頻度や強さを調べたんだそうですね。
2014年の1月、あることですっかり有名になった(笑)英国の科学雑誌ネイチャーに掲載された論文によると、英国、オーストリア、ドイツの国際研究チームが行った実験で、43分間にわたって14羽の羽ばたきを毎分300回測定して、18万点のデータを得たそうです。そうしたところ、まさしく渡り鳥は、上昇気流を捕まえ、下降気流を避ける位置を維持しながら飛んでいて、その角度は45度だった、といったことがわかったそうなんです。
さらに、位置と羽ばたきのペースも同じで、上昇気流が強くなるペースとそろえるように、羽根をはばたかせていたということもわかったそうです。
なんでも、第二次世界大戦中の戦闘機乗りも、V字編隊をつくると燃費がよくなることを知っていたという話もあり、渡り鳥の知恵がようやくきちっとサイエンスになったということなのですな。
ところで、身近にいるスズメやらヒヨドリやらは、ちいともV字型の編隊をしているようにはみえませんな。その理由は鳥の大きさにあります。V字型のメリットを活かすためには、ナナメ前の鳥の上昇気流がつかまえられるくらい近くにいなければいけないのです。
大型の渡り鳥なら、これが1mくらいになりますが、スズメなどはお互いに接触するくらい近くになってしまうのですね。結果として、ただの群れになってしまうのです。
わかったようで、わかっていなかったV字型編隊。私が読んだ普及書では「これは21世紀にならないと解明できないかもしれない」なんて書いていたんですが、ようやっとこの日常の風景のナゾがわかる日がやってきたわけですねー。
著者プロフィール
東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。