人類の歴史のスタートといえば、“火”の支配とよくいいます。あとは農耕もですな。そして、もう1つ重要なことに、布の発明があったんじゃね?。とふと思ったので、少しだけ布について調べてみました。今回は、布のおはなしです。
布、cloth、tissu、フランス語でいわなくてもよいか。布。世の中見渡してみると、布ばかりでございます。衣類、寝具、包装用品、タオル、カーペットなどはもとより、マスクやガーゼなどの衛生用品、蒸したり漉したりと調理道具、船の帆、旗や幟、エアコンから大規模な工業用のフィルターなど、ありとあらゆるところ布は登場いたします。
そんな布を作るベースは、糸です。糸を織機で縦横に織ることで布は登場します。その糸は各種の繊維を撚ることで作ります。羊毛などの動物の毛、カイコが作る絹、木綿、麻といった天然素材のほか、ナイロンなどの化学繊維が原材料になりますな。
また、昨今は「不織布(ふしょくふ)」といって、織らないで形成する布もよく登場します。羊毛を絡ませ、プレスして作るフェルトにはじまり、不織布は様々な材料を様々な方法で加工され作られています。少し前は、不織布のマスクが性能がよいといって話題になりました。紙もある意味不織布なのですが、紙はドロドロにした状態で水に浮かべて「紙漉きをする」という工程があるため、布とは区別されているようです。
さて、そんな布なのですが「いつからあったん?」と言われると、若干答えに詰まりますな。えー、604年に十七条憲法を作った聖徳太子は衣の色で階級分けていたというし、アルキメデスが「エウレーカ」といいながら「裸で」走った(つまり本当は服を着ていた)のが紀元前250年くらい。中国の“キングダム”の春秋戦国時代の後の秦の始皇帝の兵馬俑も同じくらいで服というか鎧を着てるし、紀元前1300年以前のエジプトのツタンカーメンの副葬品も布の服を着ているように見えますな。
布の中で、最も古くから利用されていたのは麻、いわゆるリネンだとされています。ツタンカーメン以前のエジプトのファラオの4000年前のミイラは亜麻布で包まれていたといいます。さらに、日本麻紡績協会によると、古代メソポタミア地域で1万年前には麻は使われており、さらに3万年前には染められた麻糸がジョージア共和国で発見されているということです。ただ、糸は毛皮を繕いあわせるのや、釣り糸などに使われていたからであって、ただちに布かというと、それはどうなんだろうとは思いますな。まあ、カラフルなようなので、布を作ろうとしていたか、布がバラバラになったのであろうと。そして、布につくシラミの研究から7万年前にはどうも布があったらしいという論文はあるそうです。意外とわからんもんですな。布の歴史。
さて、そんな布ですが、最初には繊維として利用しやすい麻が使われていましたが、綿や羊毛、ついで絹も使われていきます。これらを糸に縒り、布に織り上げる必要があります。羊毛などだと糸車を使って、手で紡ぐことも行われますし、綿などもそうですな。また、織るのは、毛糸やレースのように指や編み棒を使った手織りも行われています。が、なんといっても、これらを効率よく行う機械の発明が重要ですな。まあ、すぐみんな面倒になって工夫するような代物でございます。最初は機織り機が発明され、それを動力で動かす織機になります。動力としては蒸気機関からはじまり、エンジン、そして電動モーターなどへと移っていきます。
また、さらに、布の中のパターン~模様も工夫されます。それをオルゴールのようなパターンのカードでプログラミングして織り込むジャカード織機が1801年に発明されると、様々な模様の布が大量に出回るようになり、いわば、ファッションの革命が起きます。
さて、布のベースになる繊維に戻ります。それを自然ではなく合成品に求めるのが化学繊維でございますな。化学繊維としては、絹の代替品としての1884年に発明されたレーヨンが有名です。レーヨンは、木片を水酸化ナトリウムで溶かしたあと、二硫化炭素を加えてドロドロとした液体をつくり、これを酸性の液体の中に注ぎ込むと繊維として再生されるというものです。まあ、高校の化学で習いますな。実験の方法もこちらなどに紹介されています。レーヨンは木片を化学処理でグズグズのバラバラにしたのち、そこから繊維をとりだすので、化学繊維の中でも再生繊維と呼ばれているそうですが、これを織物にしたのが1889年のパリ万博(エッフェル塔が建った万博です)で出展されて、大変な話題になったのだそうです。
ちなみにレーヨンは絹の代用品として作られたため、人造絹糸、「人絹(じんけん)」といいます。カイコから取る絹のことを、対して「正絹(しょうけん)」というのです。着物などで「正絹」と書かれているものを見かけますが、うーむ、正絹なんて表現、昨今は聞いたことがない人も多いかも知れませんな。
レーヨンは木から作った繊維の糸でできた布なわけで、まあ繊維をばらしてまた繊維に戻したようなものですが、繊維ではない石油から合成した糸を作る製品がそのうち現れます。繊維なんて欠けらもないところから完全合成したものといえば、「ナイロン」になりますな。
ナイロンは、アメリカのデュポン社の化学者ウォーレス・ヒューム・カロザースが偶然に合成したことで有名です。1935年、カロザースは、合成ゴムなどの高分子素材の合成実験をしていたところ、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンを重合すると繊維状になるものがあることに気がつきます。これこそが6,6-ナイロン(ナイロン6,6)の発見でした。ナイロンは、天然繊維と違い、非常に強固にすることができ「伝線しないストッキング」を作ることができる素材となりました。ちなみに日本でも東洋レーヨン、つまりは東レが、カロザースらの特許を分析し独自に6,6-ナイロンの合成に成功。さらに特許に抵触しないものとして星野孝平らがナイロン6の合成に成功します。工業化には手間取ったものの、その後日本の外貨獲得に役立つほどの産業に成長します。
さらに、ナイロン以外にも様々な化学合成繊維が登場し、医療や宇宙や原子炉などの放射線環境、真空や高温、低温に耐えるような繊維、そして布が開発されています。消防服も宇宙服も布でできていたりしますからね。現在も日々、新しい機能性の繊維、そして布が登場し、なんとかテックとか行っているわけでございます。そうそう、ゴアテックスの話もテフロンにからめてこの連載の第230回で書きましたなー。いや、素材ネタは面白いのでございます。
布のはなし。ざざざーっとでございますが書いてみました。幅広いジャンルなので、ネタもたくさん。たぶんまたお話することがあるかと思います。では。