ネットをウロウロしたら、1978年に発売されたオモチャ(知育玩具)の「Speak&Spell」が2009年にIEEEマイルストーンになってるよねという記述を見つけました。

米国電気電子学会(IEEE)の登録遺産でございますね。エジソンやらマクスウェルやら、テレビの発明やら新幹線やらとならんで、あのオモチャが! という驚きから、IEEEマイルストーンをあらためて見ると、ネタの宝庫だったので語りますね。ネタがたくさんなのでたぶんそのうち続編も書きます。

Speak&Spellは元祖ボーカロイド

Speak&Spell(スピーク&スペル)は、米国テキサスインスツルメント(TI)社が1978年に発売した英単語学習用の知育玩具です。

英単語をしゃべり、それをキーボードでスペルを入力して答えるという、リスニングとスペルを覚えるためのものです。ポイントは、発話される200以上の英単語がテープレコーダーなどでなく、その場で独自開発のボイスシンセサイザ「TMC0280チップ」とコントローラで合成されるというもので、小さな筐体に200以上の単語が詰まっているわけで、年配の方は「え、このチップで写真が1万枚入るの? フィルムは36枚撮りがたかくて…」みたいな衝撃だったといえばわかるでしょうか。もちろん音質は非常にチープだったわけですが(再現するオンラインアプリあり)、機械がしゃべるというので、みんな夢中になったわけです。オモチャとしてまず大成功といえ、ロングセラーになりました。映画のE.T.にも登場しますな。

で、そのSpeak&SpellをIEEEという学会が顕彰したというわけですな。

超巨大科学技術学会、米国電気電子学会(IEEE)

米国電気電子学会(IEEE)は、アメリカが本拠地の電気・電子・情報工学分野の科学技術の専門学会です。

世界中に支部・オフィスがあり(日本にもオフィスがあります)、会員は40万人あまりで半分は米国外の会員。科学技術系の学会としては世界最大規模だそうです。ちなみにIEEEは、アイ・トリプル・イーと読むそうです。いや、この読者にも会員が大勢いそうですなー。

そのIEEEは巨大な学会らしく、学会の開催や論文誌の発行だけでなく、色々な仕事をしています。身近なところでは規格(SA)の制定もしていますね。ぱっと思い出すのはIEEE1394(MacのFirewire)ですが、Wi-FiやLANなどの規格もIEEEのものがたくさんありますな。IEEEのWEBによると2000以上の規格やらの制定をしているのだそうです。どひゃーでございます。

米国電気電子学会の登録遺産「IEEEマイルストーン」

そんなIEEEは、各種の顕彰や表彰も行っております。まあ、これは学会あるあるで、内輪の学会賞や論文賞、貢献者の表彰や特別会員(フェロー認定)みたいなものから、日本天文学会のように学会発足よりも古い史跡をふくむ「日本天文遺産」の認定を行うようなものもございますな。

で、IEEEは巨大なだけに、ぜーんぶやっています。そしてIEEEに関係する様々な歴史上のプロダクトや発明を顕彰しているのがIEEEマイルストーンでございます。マイルストーンは日本語でいえば一里塚、旅の到達点を示すものから転じて、技術的な到達点、節目、トピックを示すという意味で使われているわけですな。あ、IEEE東京支部に日本語の解説があった。デカい学会だけあって、かゆいところに手が届きますな。

このIEEEマイルストーンは1983年から登録がはじまり、ちょっと数えるのが嫌になる(のでやめた)くらいのものが登録されています。ただ、雑然と登録されているわけではなく、うん、まあそれはいれるわなというものばかりです。リストは「Engineering and Technology History Wiki」にあります。なお、日本に関係したものはIEEE東京支部がリストにしています。

納得のラインナップ。IEEEマイルストーン

さて、IEEEマイルストーン認定のものですが、古いものだと、雷から電気を取り出す実験をしたベンジャミン・フランクリン(1751年)の業績から始まり、ボルタの電池(1799年)、電信、アンペアによる電気学、マクスウェルの電磁気学の法則(1860年から1871年)などと続きます。

さらに、電話、エジソンの発明などがあり、また地域のトピックスで「ハワイで最初の電飾」とか「日本初の蹴上発電所」なんてのも混ざります。最近のものだとgoogleによるPageRankの発明なんてのもあったり、本当に色々でございます。電気や電子、情報工学は日常世界に応用されているものが非常に多いので、ふむふむなるほどというものが多いですな。

  • 日本で初めての一般供給用水力発電所である「蹴上発電所」

    日本で初めての一般供給用水力発電所である「蹴上発電所」は、琵琶湖疏水を利用する形で1891年に運転を開始して、発電された電気は京都の街灯などに使われたそうです。文化庁による日本遺産にも認定されています

変わり種のマイルストーン

そんななかで、オモチャがマイルストーンになっているのが“Speak&Spell”でございます。その前後にあるのがLZ法による圧縮アルゴリズムとか、高品質の光ファイバーとか、開口合成レーダーとか、コンパクトディスクプレイヤー、RISCプロセッサ、インバータエアコンとかなので、突然オモチャがまじるのがなんともいえません。

ちなみに莫大なリストを全部見るのは、おもしろいけど大変なのですが、まあ近いかなあというのを探すと、上のコンパクトディスクあたりとかシャープの液晶電卓あたりかなというところですが。どうでしょう。ウォークマンのiPodもスマホもないし、ファミコンもないわけです。これから入るのかな。学術的なものだと野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡なんてのが入っているのですけどね。そうみると、ハワイの電飾も変わり種といえばそうかもしれませんな。

  • 野辺山45m電波望遠鏡

    国立天文台野辺山宇宙電波観測所が運用している野辺山45m電波望遠鏡は2017年にIEEEマイルストーンに認定されました

ということで、リストを行き来するだけでおもしろいIEEEマイルストーン。学識者が選んだ百科事典の見出しみたいなもので、これからも楽しんでいきたいと思ったのでした。