2024年5月10日から12日にかけて、「巨大黒点」、「太陽フレア」、そして「オーロラ」が話題になりました。この3つの現象は、太陽-地球間、1億5000万kmの距離を隔ててリンクしています。
そして、3つの現象とも一般の人だととらえられないことがほとんどなのに、SNSとニュースサイトを席巻しました。今回は話題のできごとを、実は夜明けの太陽いう意味の不肖・東明(しののめ)が、ごく薄口でご紹介させていただきます。はい。
あ、それからこのさい「キャリントン・イベント」という1859年のできごとをちょっと覚えてくださいませ。
巨大黒点
ここ数ヶ月、天文クラスタの間で黒点が話題になっておりました。
「太陽面が賑やか」「黒点が多い」「かなり発達している」といった声が飛び交っておりました。そして、それが5月9日は「巨大な黒点になった」「地球10個分はある」「肉眼で見える」不肖・東明もその一員でございまして、前に話題にしたeVscopeや10年前に購入して机の引き出しにしまっておいた日食メガネで楽しみました。ええ、ここまでデカい黒点はなかなかみられませんのです。
太陽の黒点については「学校でなんかならったかなー」「見たことないけど」という方が多いですな。東明も学校の授業にヘルプで入ったりすることがあるのですが、ほとんどの生徒が初めて見たとおっしゃるわけです。
いや、古代から「太陽にカラスがいる」とかいって人類にはなんとなく認識されていたのですけどね(注:専用の道具なしで太陽を直視すると目を痛め、最悪失明します。やっちゃダメ)。
さて、この黒点ですが、太陽の表面でおこっている現象です。太陽を精密観測しているハワイの、ダニエル・K・イノウエ太陽望遠鏡のWEBサイトではその精密な構造が見られますが。なんというか、黒点は、その部分だけ傷口があるようにへこんで見えるんですな。
ただ、太陽は全体が水素とヘリウムのガスでできた塊であり、もちろん表面もガスです。その一角がへこんでいるのは、煮えたぎった表面のガスの上昇が押さえつけられているからなのです。その結果、太陽の中で発生しているエネルギーが表面にくるのをちょっと阻害され、まわりより温度が低くなり、光が弱く、暗く見える。それが黒点です。真っ暗なわけではなく、まわりが明るいので比較として黒っぽく見えるのでございます。なにしろ黒点でも温度は4000度にもなるのです(周囲は6000度で、2000度も低いわけですが)。
では、なんで、エネルギーが阻害されるかというと、磁力です。
もちろん、こんな高温では、キュリーさんが発見したとおり、磁石は磁力を失いますので、ここでは電流により生成される電磁石が作用しています。電流は電気を帯びたモノが移動することでもおこりますが、太陽を作るガスは高温すぎてプラズマというプラスマイナスがバラバラな状態なのです。太陽は地球の直径の100倍、体積で100万倍という巨大な図体が、たった25日あまりで自転しており、また北極・南極と赤道ではスピードが違います。中からは熱がわきあがってガスが移動しています。
こうしたプラズマ状態のガスの移動が、巨大な発電機となって、結果、表面に磁場を生成。それが浮かび上がったところに黒点ができるのでございます。わかりやすい黒点は、N極とS極が左右に2個セットになっていたりします。
巨大な黒点は、この磁場の浮かび上がりが、大規模に起こっているわけで、つまりは太陽の活発な活動の結果なのでございます。
そして、そんなガスの気まぐれでできるような現象なので、黒点は発生したり、どんどん発達したり、反対に消滅したりもします。巨大な黒点も太陽が一周する25日後にはあとかたもなくなっていることもよくあるのです。
なお、全体には11年の周期で黒点全体が増えたり減ったりしていることがわかっていまして、太陽の活動は11年ごとに活発な時期を迎えます。
それはいつかって?
今です!
これから2025年にかけてと予想されています。
太陽フレア
さて、この黒点とともに「太陽フレアの発生」というのが頻繁に話題になりました。フレアというのは、元々広がるという意味で、フレアスカートとかに使いますな。また、発光するという意味にも使われ、ミリオタの方は戦闘機等がミサイルをよけるために出す発光するものがフレアというのをご存じかとかと思います。太陽のフレアは後者の意味に使われますな。
フレアは、主に黒点の付近で起こり、時に黒点の周囲が白く明るく輝く現象です。大規模なフレアは時に、太陽を観測しているさいに肉眼で確認できます。東明はまだ見たことがありません。なにしろ光っている時間は数分程度のことが多く、あっという間に終わってしまうのです。
なんで黒点のそばでかというと、黒点はエネルギーを押さえ込んでいる場所ということを思い出してください。黒点を作る磁場が動き、さらにふくらんで他の磁力線とつながったり、ぶつかったりすると、エネルギーが一気に開放され、フレアとなるわけです。
猛烈に輝いてすぐ消えるフレアは、一種の爆発現象です。爆発によって、太陽の表面からは猛烈な紫外線やX線、ガンマ線が放出されます。
また、太陽の表面そのものが弾き飛ばされます。太陽の表面の電気を帯びたガスが、宇宙に飛び出します。また、太陽の上空にあるコロナを吹き飛ばすこともあります。
そんな様子をモニターしているのが、SDOやSOHOという人工衛星です。太陽を連続モニターしています。SDOやSOHOの映像はムービーとしても見られますが、なるほど太陽のダイナミックな活動がよくわかると思います。
こうしてフレアによって太陽から突発的に大量物質が飛び出すもののうち、表面が剥がれて飛び出すのをプロトン現象。コロナが吹き飛んでいくのがコロナ質量放出(CME)と言っています。
太陽からは常に、その熱によって太陽の表面やコロナが宇宙空間に流れていて、太陽風といい、地球には太陽から3日ほどで届きます。フレアがあると、太陽風が猛烈に強くなり、加速し、時には地球に1日も経たずに到達することもあります。
また、連続してフレアが起こると、宇宙空間が高速の太陽風で吹き払われ、後続のフレアの太陽風がおいついて、数回のフレア分の太陽物質が一気に地球に届くことがあります。そのなかには電気を帯びたガスがあり、地球の磁場をゆらしたり、人工衛星などは直撃により以上な電流や放射線によって壊れてしまうことすらあります。
ちなみに、この珍しい現象フレアを史上最初にとらえたのは1859年に英国の「キャリントン」という科学者です。このときも巨大な黒点があり、観測の最中に偶然とらえたのです。キャリントン以前はフレアというのが起こっているのを人類は誰も知りませんでした。
ちなみに、キャリントンが観測していた黒点は、今回の巨大黒点クラスのものでした。そして強烈なフレアが発生し、その後、地球の磁場が乱れ、ハワイでもオーロラが見られたという記録が残っています。また、電信の線の電流が異常を来したとのことで、キャリントンイベントと言われます。
なお、無線があれば無線も乱れたはずですが、なにしろ電波が発見されたのは1888年で、発見前のことだったので特になにもありませんでした。というか利用機器がなかった。
今回の巨大黒点に伴うフレアで、無線や通信の影響が心配されたのは、その後の多数のフレアの影響があったからなのでございます。
え、GPSが狂ったって? まあ無線使うしねえ。
オーロラ
オーロラは、地球に電気を帯びた粒子、主に電子が高速で飛び込み、大気をたたいて発光させる現象です。電子が飛び込むと軽くいいましたが、地球には磁場があるため、電子は磁場にからめとられ、磁極がある北極と南極の近所にしか飛び込めません。通常は。そのため、オーロラは基本、両磁極(北半球ではカナダのあたりで北極点より北米・欧州より)の周囲のドーナツ状のエリアで見られます。
んが、フレアによってモーレツに加速した荷電粒子があると、地球磁場全体をぶん殴る感じになり、北極に電子が侵入しやすくなります。さらに電子も大量に供給するので、オーロラが見られる範囲が広がります。
今回の巨大黒点→太陽フレア→コロナ質量放出→太陽風加速によって、アメリカやヨーロッパはもともと北磁極が近いので、ニューヨークやロンドンなどにすぐ広がり、さらにメキシコのあたりでもオーロラが見られたようですな。
日本は、北磁極からちょうど反対がわにあるので、北海道から北日本まででオーロラが見られることになりました。写真撮影したら名古屋や兵庫でも写ってたという話もありますが、肉眼で見えたロンドンやラスベガスの近所とはちょっと様子が違いますな。
それでも、こんなに広範囲でオーロラが見られるのは、非常にまれなことであり、今回の黒点と太陽フレアがいかにスゴかったかがよくわかります。
まだまだ続く、太陽活動マックス
さて、太陽の活動はいま活発なのですが、これから1年くらいは十分活発だと予想されています。
また、こういうチャンス、いや場合によってはヤバいのですが、もあると思いますので、ぜひしばらくは太陽黒点などに注目してください。
巨大な太陽黒点があるかどうかは、国立天文台ほか先ほどのSDOやSOHOなど世界中のサイトや、科学館やプラネタリウムでもモニターしていることがありますし、中学や高校の科学部などでもチェックしている場合があります。ぜひ仲良くしてやってください。
では