「アナログレコード」は、信号の自動記録という点で人類最初の発明です。そして、デジタル時代の現在でも最近生産量があがるなど需要があり続けています。音の振動に応じて溝を刻み、その溝を針でトレースして振動を取り出すアナログレコード。150年前にエジソンが発明し、ベルリナーが円盤形にしてたアナログレコードは、時代時代で素材を替えながら現在でも生き延びています。それどころか人気が急上昇しているそうです。今回はアナログレコードの素材のサイエンスを語ってみようと思いますね。
人類最初の自動情報記録媒体 - アナログレコード
デジタル時代の現在、ありとあらゆる情報はデジタル記録され、それを処理するIT技術で扱われておりますな。その中核となるデジタルコンピュータは70年前の第二次世界大戦前後に開発され、半導体技術の発展で現在のデジタル時代を作り上げてきました。
一般化したのはPCにインターネット接続機能が標準になった1995年のWindows 95と、スマートフォンが広く普及した2007年のAppleのiPhoneの発売が大きかったと思います。いずれにせよ、ここ四半世紀のことでございます。
ただ、デジタルというか数値化して処理するという点では、人類の歴史は古く、数字が登場し、それを記録する粘土板や紐の結び目、処理するソロバンなどと考えると、歴史は一気に2000年とか3000年とかになってきますな。が、これらがデジタル時代の始まりとされないのは、これらの記録や処理が人間の手を経て行ってきているからであって、機械で自動的に情報記録や処理が行えるというのがポイントなのでございますな。あとコンピュータはあらゆるデータを変換する汎用性があるのも大切なポイントでございます。文章から音声から映像から金融データからあらゆる情報がコンピュータ一丁で扱える。だからこそ、スマートフォン一丁であらゆることができるわけでございます。そして3DプリンタやAIなどによる処理など、できることの幅と精度は広がる一方でございます。
さて、こうした記録と処理のうち、自動的な記録の普及は、150年前の1877年にエジソンが発明したアナログレコードが端緒となります。ちなみに自動記録というとテープレコーダー(フロイメル1928年)とかペンレコーダーとかもあるわけですし、先行した写真(ダゲール1839年)も自動記録ですが、見る以外に情報をとりだせません。データ自動集計機や通信の記録器もエジソンが発明しているのですが、まあ「どんな音声でも記録する」という汎用性の高さではアナログレコードの飛び抜けた点は間違いございません。
エジソンの発明は非常に多いのですが、レコードと電球(実際にはライバルのスワンが先というのが定説)があげられるのは当然といえば当然なのでございます。なお、レコード発明で引くと、1857年のスコットによるものともされますが、これはまともな再生装置がない「記録」だけでした。
アナログレコードの形と素材の進化
さて、音の振動を物理媒体に記録し、そこから針で振動をピックアップするのがアナログレコードです。エジソンは、線を描くペン先が、音声に反応して振動してブルブルビビった線を描くことから、着想したといわれています。これ今なら光学的にピックアップして再生してもおもしろそうですな。
円筒シリンダー+スズ箔
これを、針で円筒を回転させ、そこに巻き付けたスズ箔に傷をつけることで記録し、それを針でピックアップするということでアナログレコードは発明されました。傷は三次元的につくので、実はペンのびびりよりも情報量は大きく、音声の微妙なところまで再生できるのがポイントでございます。なにしろデジタルサンプリングをしているCDよりも「音がいい」なんて言われるくらいですからねえ。
ただこのスズ箔という素材だと数回再生すると壊れてしまうという欠点がありました。
ロウを塗りつける
電話の発明者のグラハムベルは、これを円筒に塗りつけたロウに置き換え、記録を安定させることに成功しました。エジソンはグラハムベルをライバル視していたのですが、この改良には乗っかっています。なお、このロウ管レコードというか蓄音機ですな、は、100年以上たつ現在でも再生できます。私が知る限りでは、川崎にある東芝の未来科学館でデモを見たことがあります。今でもやっているかはちょっとわかりませんでしたが……
ロウのかたまりへ、そしてキャストでコピーも可能に
ところでこの円筒型は、ロウを塗りつける形式から、筒全体をロウで作るようにエジソンによって変化しました。しかしレコードに音声を記録するには、毎回円筒に傷を実時間で作らねばなりません。生産に時間がかかるわけです。コピーをするにしても立体物ですのでなかなかですが、立体物全体の型を作り、1902年に鋳物のようにロウを流し込む(キャストですな)ことでコピーができるようになりました。ソフトが多くなることで一般家庭にも入り込むようになったのでございます。ちなみにこのろう管レコードは自分で録音もできました。ダメになってしまったろう管レコード(だいたい2分間くらいの記録)の全面をのっぺらぼうに削った後、あらためて傷をつけたのですね。録音と再生の両方ができる。これは大きなアドバンテージだったのでございます。
セルロイドの円筒へ
さらに1900年にランパートにより、セルロイドの円筒が開発されました。硬質なために非常に安定性が高く、長期間の保存にも向きます。一方で、自分で録音するということはできなくなりました。
円盤ディスクレコードの登場
さて、それに対して円盤型のアナログレコードが発明されます。1887年のベルリナーによるものですな。この利点はいうまでもなく「型押し」をすれば大量生産できることですな。円筒のように「溶かして固める」なんてことをしなくても、柔らかくした素材に型押しをすれば、それでレコードになるのです。アナログレコードの大量生産が可能になったわけです。収納も薄い板なので便利でした。
そしてアナログレコードはこの円盤型が普及することで一気に安価になり、庶民の娯楽媒体へと変化するわけです。
ディスクレコードの素材は、ゴムだった
当初のレコードはゴムやエボナイトといわれる素材でした。エボナイトはボーリングの球や木管楽器の管などにも使われますな。
天然樹脂シュラックへ
ただこの素材よりも録音の質や生産性のよさから、シュラックという樹脂が使われるようになりました。これはラックカイガラムシという樹木につくムシの代謝物を固めたもので、安全性が高いので現在でもチョコボールのコーティングなどにも使われます。欠点は割れやすいことと自然のものなので大量生産に農園が必要ということですね。
ポリ塩化ビニールへ(ビニール板)
さて、ディスク式のアナログレコードはその後、ポリ塩化ビニール(塩ビ)へと素材を変えます。ポリ塩化ビニールは19世紀に発明され、最初に開発されたプラスチックといわれますが、それが広く使われるようになるのは可塑化ポリ塩化ビニールという加工しやすい素材が1926年に発明されてからです。
塩ビといえば、そこら中にある素材(日本塩ビ協会)であり、落としたからといって割れるということはありません。レコードの普及もこのプラスチックが一役かったわけでございます。現在のレコードは塩ビとポリ酢酸ビニールの複合材で作られることが多いようです。しかも売れ残ったレコードは素材へとリサイクルもされていたんですねー。へえ。
ということで、アナログレコード、うちにも親が遺してくれたプレイヤーがあるので楽しみたいなと思います。