「ブルーバックス」、サイエンス新書レーベルの老舗ですな。1963年9月に発刊を開始し、毎月4冊程度をだしながら60周年、還暦を迎えたそうです。1冊ワンテーマで手軽にちょっと深いところまでのぞける新書。私がサイエンスっぽいことを書き散らすさいにも散々お世話になっているブルーバックスについて、還暦をお祝いして少しお話したく思います。はい。
電車に乗っていると、吊り広告の週刊誌紹介はなくなり、紙の本や新聞を読む人はすっかり少なくなりました。ま、私もスマホでネットニュース見ておりますからねえ。
しかしながら、ちょっとしたことをするときに、圧倒的に役に立つのは編集者と著者がしっかりパッケージングしている「本」でございます。ということで、何かしようとするときは、まず自分の書棚をチェックします。そしてならんでいるのが、コンパクトで、各ワンテーマで、それなりの専門家が書いていることが多い「新書」なんでございます。雑誌もいいのですが、特定のテーマだと単行本、その中でも新書がよいわけですな。
そして、なければ? はい、近所の本屋に買いに行きます。ターミナル駅近所の大型書店でなくても、地方の小さな書店でも新書ならそれなりの数がそろっていますから、本当にありがたい限りですな。本も全体にじわっと高くなっていますが、新書はおおむね1000円+税くらいで購入できるレベルであって、まあまだ買えます。
そんな新書は、ドイツのレクラム文庫が最初とかよく言われますが、日本は岩波新書(岩波書店)、現代新書(講談社)、中公新書(中央公論新社)、あたりが昔からありますが、近年非常に増えました。減っている印象の雑誌とは裏腹な関係ですね。もちろんマイナビ出版もマイナビ新書を出していて、カルチャー系に強い印象です。将棋に強いマイナビらしく藤井八冠を扱った本もラインナップされておりますな。
さて、ブルーバックスです。最近はサイエンスの新書はソフトバンク・クリエィティブのサイエンス・アイ新書などからも出ていますが、ややテクノロジーというか実業系が多い印象。サイエンスを楽しむという観点では、やはり講談社のブルーバックスが強い印象があります。というか、ほぼブルーバックスばっかり買っています。
さて、そんなブルーバックスですが60年で2000点以上の新書を出してきました。まあペースとしては毎週でているくらいな感じですね。
最近の傾向としては、宇宙・宇宙論もの、生命科学ものが目立ち、日本史サイエンスのようなちょっと変わり種が入っている感じです。コンピュータ言語系のものや統計学的な実用的なものもチョイチョイあるのですが、昔ほど目立ちませんですね。
私の手元にあるのはそのうちの300点程度です。他にもう手放してしまったものも多いですが、新旧問わず、これよかったなあというのを紹介します。手に入らないものもありますがご容赦ください。
SFを科学する | ブルーバックス | 講談社
SF研究家が、SF作品を取り上げながら、その実現性などを紹介したものです。1987年発刊なので、ちょっと古めの小松左京、アーサー・C・クラークなどのSF作品が取り上げられています。ブラックホールや恒星間飛行など、宇宙テーマものが目立ちますが、ワクワクしながら読みました。いまでもおもしろい内容だと思います。それほどSFは超未来まで見通されながら書かれてきたってことですね。
二次元の世界 | ブルーバックス | 講談社
二次元の世界の人間はどういう世界を生きるのかということを示した、一種のSFです。原作は19世紀に書かれており、すごい先見性だなとびっくりします。四次元はドラえもんのおかげもあってみんなよく知っているわけですが、四次元とか高次元のことを想像するには、むしろ、三次元の我々が二次元のことを眺めるほうがよく理解できます。
なお、この本は絶版ですが、新訳が講談社選書メチエから「フラットランド」というタイトルで2017年に出ています。新書ではなく、ちょっと高価な選書になっていますが、おもしろいのでぜひ。
へんな星たち 天体物理学が挑んだ10の恒星 |ブルーバックス|講談社BOOK倶楽部
空に輝く星のうち、土星は望遠鏡でそのかわいらしい姿が知られるようになりましたが、太陽系の外の恒星となると、なかなか望遠鏡で姿をとらえることは難しいです。一番身近な恒星である太陽は球形をしていて、表面に多少の黒点があり、皆既日食の際はコロナが広がって見えますが、まあ全般には丸でございまして、基本熱いけど穏やかにかがやいているわけでございます。
しかし宇宙にはピーナッツみたいな恒星もあれば、爆発を繰り返す恒星もある、へんな星たちがいっぱいあるよと教えてくれるのがこの一冊です。著者自身が触れたエピソードは他では読めない話であり、人間くさいドラマもあるのがおもしろい一冊です。
我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち|ブルーバックス|講談社BOOK倶楽部
子供のころに、友達にある原人のあだ名を付けていました。図鑑にある原人っぽい顔をしているからということで、本当にひどいはなしです。すみません。ただ、子供のころから不思議だったのは、ジャワ原人やら北京原人やら、いろいろでてくる原人と今の私たちのつながりですな。ネアンデルタール人は滅んだけど、多少の混合があり遺伝子が残っていることは知られていますが、そんな話はどうなのかしらというのを、作家の川端祐人さんが書いたのがこの本です。国立科学博物館(2023年11月時点では東京大学総合研究博物館)の海部さんへの取材から書かれたもので内容はしっかりしつつ、さすがにプロ作家の読みやすさと演出で、読んで面白い、かつ他にはない一冊。ブルーバックスはよくこの本を出してくれたなー。というものです。
科学者の熱い心|ブルーバックス|講談社BOOK倶楽部
ノーベル賞受賞者など23人のトップ科学者へのインタビューの翻訳です。こうした翻訳書籍をたくさんよめるのもありがたいことです。分野も多岐にわたり、一時流行した地球生命圏のラブロックなどもとりあげられています。
新書は何かしたいときに、テーマにそって一冊と書きましたけど、これとか、ブルーバックスがいくつか出している事典類のようになんかパラパラ見ながら企画をねったりしたり、単に読んで楽しんだりするのに好適な内容でございます。
なお、翻訳は青木薫さんで、私は青木さんの翻訳の大ファンなのでその点も嬉しい。
宇宙を測る|ブルーバックス|講談社BOOK倶楽部
元音楽家だけれど、ケンブリッジ大学でホーキングと知り合い、サイエンスの面白さにのめり込み、サイエンスライターになってしまったキティ・ファーガソンの科学読み物です。
宇宙で難しいがまず基本なのは、天体の位置を立体的に測ることで、それができることで、銀河系が発見され、宇宙の広がりがわかり、宇宙が膨張していることがわかり、ビッグバンがあり、宇宙に始まりがあったことがわかり、宇宙の年齢がわかってきたという経緯があります。その距離を測るということをワンテーマにそった内容です。これまた古い本であまり売れなかったのか入手しにくいのですが、わりをお気に入りの一冊なので紹介してみました。