プラネタリウムは全世界で4000館ほどあり、100年前の1923年10月21日に誕生しました。
ドイツのミュンヘンのドイツ博物館でお披露目された1号機は、戦禍を逃れ現在も同博物館に展示されています。10月21日には日本もふくむ世界イベントも開かれる由。
ということで、日本国内だけでも全47都道府県300施設もある身近なサイエンスの拠点、プラネタリウムについて、あー、何度目かな、でも語ろうと思います。
この原稿を書いている最中に、mRNAの研究でのノーベル生理学医学賞受賞が発表されました。新型コロナウイルス感染症の予防ワクチンを超高速で作成できた技術で、これほどわかりやすい受賞はなかなかないですね。このあと物理学賞、化学賞と続くのですが、やはり身近なもの、しかもタイムリーなものにノーベル賞というと納得感が大きいですな。まあ「なんじゃそりゃ!?」という発見が受賞するのも、それはそれで面白いですけどね。
さて、ノーベル賞週間は続きますが、今回のお話は10月21日に100年目になるプラネタリウムについてでございます。最近公開された日本プラネタリウム協議会のデータブック(オンライン版)によると、稼働中のプラネタリウムは全世界で2632(ただし移動式のぞく)、国内で296だそうです。日本には全都道府県でプラネタリウムが稼働しており、ない県もある水族館や動物園、科学博物館などに比べ、身近なサイエンスの入り口といえそうですな。
といいつつ、サイエンス? という感じもあるのがプラネタリウムですねー。「子供のころに学校で行った」のは理科の授業の一環でしょうけど、「デートにつかう」「休みの日に子供つれていって人気アニメのキャラがでる番組見せて満足。安いし。」とか、そんな感じもあるわけですな。不肖しののめも、多少はプラネタリウムに関わっていて、どんなお客さんが来ているのか見ているので、そうやねという感じです。なにしろ、サイエンスに特に興味なさそやなーという感じの人が大勢来ているのがプラネタリウムなのでございます。
んが、しかし、これはプラネタリウムを発明した人たちには「それで正解!」なんじゃないかなーと思うのですね。いま、みんなが思い浮かべる、ドームスクリーンに星空が再現されるプラネタリウムまでの歴史は、この連載の256回目に書きましたが「みんなに宇宙のこと、わかってほしい、そして楽しめるようになってほしい」という気持ちで作られてきたわけでございます。
そして、1923年10月21日にミュンヘンのドイツ博物館の屋上に、世界初の近代的プラネタリウムが登場します。ドイツ博物館のために世界的光学メーカーのカールツァイス社が新開発したものです。
ツァイスは、カメラなどのレンズブランドとしても名高いので写真ニュースのデジカメWatchさんがいい特集していますね。
さて、発明されたプラネタリウム機器は現在、「カールツァイスI型」といわれるもので、戦禍を越えて生き延び、現在のドイツ博物館に展示されています。現在のプラネタリウムの機能は本物の星空を自在に再現できる「一世紀早く登場したVR(不肖しののめ命名)」で、見た人たちの度肝を抜き、ツァイス社の開発拠点があるイエナの名前を取り「イエナの脅威」と呼ばれました。
ところで、ドイツ博物館の屋上に登場したのは、全く新しく開発されたプラネタリウムです。ツァイス社が当初渋ったという話もあるらしい、イノベーションでした。ここで疑問がわきます。なんで「博物館」にプラネタリウム? ということですな。なにしろ地域の博物館を思い浮かべれば、それは文化財と地域の自然を保存展示する場所です。そこに全く新しいプラネタリウムを新規開発して展示するというのはちょっと考えにくいことですよね。
実は、ドイツ博物館は、それ自身が革新的な博物館だったのです。それは、文化財や美術品、珍しい自然の産物ではなく、現在の科学技術を展示する博物館なのです。つまり、サイエンス専門の巨大博物館、それがドイツ博物館なのですな。
19世紀以前に世界を席巻していたのは、スペイン、ポルトガル、イギリス、フランスといった国々です。日本やドイツは、これらの国に遅れて発展した国でした。中でもドイツは化学産業と鉄鋼や光学といったサイエンスとテクノロジーをベースに発展し、現在でも、ドイツといえば科学技術の国というイメージが強いですよね。
そして、イギリスは大英博物館、フランスはルーブル美術館という世界的な博物館を持っています。主要なお宝はこれらが所蔵しているわけです。一方で、ドイツは後発なので、得意な科学技術に特化した展示をした博物館を考えます。それがドイツ博物館です。
その展示の中で「星空がどのように変化するか、自在に見せる」装置も考えられました。そうしたものとしてすでに太陽系儀などがありましたが、最終的には星空をそのまま再現し、さらに日が昇り、月が沈み、過去や未来の星空の変化も見せてしまうというものが構想されました。これを引き受けたのがカールツァイス社であり、そしてプラネタリウムが発明されたわけです。
なお、ドイツ博物館の構想は1903年頃に遡り、次第に作り上げられますが、1914-1918年の第一次世界大戦で中断、その後もドイツ敗戦で、1919年のベルサイユ条約による多大な賠償金などで頓挫しかかります。
しかし、それでも進捗がすすんだドイツ博物館の開館前の屋上に1923年10月21日、プラネタリウムが登場したのです。その後もイエナのツァイス社でもプラネタリウムはテスト公開され、大変な評判となりました。最終的には1925年5月2日に正式にドイツ博物館で一般公開がはじまります。
なお、このプラネタリウムはもう一台作られましたが、ドイツ以外の緯度では使えませんでした。その後世界のどの緯度でも使えるカールツァイスII型が1926年に発表され、ドイツをはじめヨーロッパ各地やアメリカの科学博物館などに納品されます。日本では1937年に大阪市立電気科学館(現大阪市立科学館)に納品され、1989年まで使われました。現在は大阪市の指定文化財になっています。
ちなみに、カールツァイスは現在もプラネタリウムのトップメーカーのひとつであり、最新はカールツァイスのIX型となっており、日本では名古屋市科学館で見ることができます。
さて、ということでプラネタリウム100周年です、日本でのイベント、世界でのイベントが行われます。興味のある方はぜひ参加されてはいかがでしょうか。100年に1度の機会でございますよ。私も裏方としてどこかで参加いたします。