就職しようとする人にマイナビがあるように(笑)、天文を学ぼうとするものには天文データベース「SIMBAD」があります。バリバリの専門家用のデータベースですが、オープンデータベースとなっており、誰でも使えます。そしてどんなものでも遊びようはあります。今回はSIMBADでちょっと遊んでみましょう。

世界には様々な宇宙機関があります。誰もが知るNASA、日本だと東京大学、京都大学や国立天文台、ちょっとマニアだとSTScI(宇宙望遠鏡科学研究所)なんてのもご存じでしょう。ハッブル宇宙望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を運用しているところですな。

しかしながら、天文学者の間で、フランスの地方都市にあるストラスブール天文台も高い知名度を持っています。ストラスブールは人口28万人、ドイツ国境のライン川沿いの歴史ある商業都市で、EUの議会がある、EUの機関が集中するベルギーのブリュッセルとともにEUの首都といってもいいところです。さらに旧市街は世界遺産にもなっています。

が、そういう政治的、歴史的な町であるからではなく、ストラスブール天文台が天文学者に知られているのは、1972年から半世紀以上にわたってきた、CDS(ストラスブール天文データセンター)によってです(SDCでなく逆さまなのはフランス語読みだから)。このCDSが蓄えたデータとデータベースは、天文学者が研究をするときにしばしば使われているのです。

CDSのデータベースは、天体データのデータベースSIMBAD、天体のカタログのデータベース「VizieR」、天体観測イメージビュアー「Aladin」があり、それぞれいじくるだけでも面白いものです。特にAladinはプロの天体観測の画像がズームしたりインタラクティブに見られるので単純におもしろいですが、今回は、SIMBADで遊んでみましょう。これは、天体のプロフィールが探れるものなのでございます。1979年くらいから恒星についてのデータベースとして原型が作られ、1981年にオンラインで利用できるようになり、インターネットの黎明期の1990年にSIMBADとしてスタートし、現在はバージョン4となっています。

天体データベースSIMBADを使うには、特別な登録手続きなどはいりません。単純にSIMBADのWEBにアクセスするだけです。また、ブラウザに検索窓をつけて使うツールも用意されています。なおSIMBADは、「Set of Identifications, Measurements and Bibliography, for Astronomical Data.」のことで、観測データだけでなく論文データも紐付けられていますよということがうたわれています。データは日々更新していますが、この原稿を書いている時点では、1673万天体のデータが入っています。

そんでは使ってみましょう。検索のしかたには、下のスクショにあるようにいろいろありますが、まずは、右下にある、Basic Searchで遊びます。これには、天体名か座標を入れればよいということです。

  • SIMBADのトップ画面のスクリーンショット

    SIMBADのトップ画面のスクリーンショット

で、天体ですが、原則、まあ、日本語では入力できません。試しに「地球」とかいれてもダメです。「Earth」なら返事はありますが、データがないですよーという返事です。

太陽系の中の天体は入っていないのです。それは、アメリカのJPLのSSDというデータベースを使うのでございます。今回はSIMBADがテーマなので、太陽系はなしです。

では、何にしようかなということだと、うーん、織り姫さんですかね。これまた「織り姫」ではダメです。小学生で習いたてなら「ベガ」というのはでてきますが、日本語がダメです。英語でVegaなんですが、これを調べるには“Wikipedia”が今のところ頼りになります。

では、“Basic Search”の検索窓に“Vega”と入れてみましょう。すると、次のスクショのようにVegaについてのデータがぞろぞろでてきます。右に写真がでてくるのがちょっといいですな。しかし、ほかは、天文学者や天文マニア以外には暗号ですな。

  • VegaをSIMBADで検索したときのスクリーンショット

    VegaをSIMBADで検索したときのスクリーンショット

ざっと解説というか解読すると「alf Lyr(こと座のα星)」であり、「delta Sct Variable(たて座δ星型の変光星)」であり、「coord(座標)」が3通り(ICRSとFK4とGal)示されています。

「Proper motion」は織姫星の運動で、一年間に経度方向に200ミリ秒の角度と緯度方向に286ミリ秒の角度動いているってことです。 「Radial velocity」は太陽系に対する速度で、毎秒20.60km、マイナスなので太陽系に接近していることがわかります。織姫さんは近づいてきているんですな。「Parallaxes」は、距離の指標で130ミリ秒角、地球の公転によって位置がずれることがわかります。これが1秒角だと3.26光年離れているのですが、130ミリ秒角=0.13秒角なので、1秒角より遠いです。計算では3.26÷0.13=25光年の距離にあることがわかります。

その下はスペクトル型でA0型に分類されるV=5の意味で主系列星。つまりは安定して水素が反応している恒星の中では一般的な状況であることがわかります。太陽もVです。このVが終わるとIVになりI、II、IIIは恒星の死にかけの状況で、ほとんどは大きく膨らんだ状態になります。

その下の「Fluxes」は明るさで、Uは紫外線、Bは青色、Vは人間が見て、Rは赤色、I、J、H、Kは近赤外線で見ての明るさ(等級)を示しています。ほとんど0ですが、これがA0型星の特徴です。というのはA0だと等級が0になるように1950年ごろに原点を決めたので。そのさい織姫星も6つの基準星のひとつになっていました。

ふー、読み取るのに結構大変でございますな。そして、その下には、Vegaについて書かれた論文がいくつあるとか、別のいいかたではなんというかなどがすらずらと書かれています。

ところで、その中に以下の画像のような項目があります。

  • 観測データ

Velocities(速度)、diameter(直径)、ROT(回転)、Fe_H(鉄の割合)などのデータもこれだけ観測されているよということで、これらも「display all measurementsボタン」を押すと。表示が展開されます。長いのでスクショの一部だけをきりだすと、こんな感じです。

  • 観測データの展開したもの

「Diameter」は直径ですが3.77E+6、つまりは377万kmです。太陽が140万kmですから、織姫は太陽の3倍近い星であることがわかりますな。

また “rot”は回転速度で、“Vsini”は、最低この速度ですよという意味です。秒速24kmなので、これが赤道の速度なら、137時間~6日が自転周期になります。太陽が25日くらいなので大分速いのですが、織姫はどうも地球に対して大きく傾いていて、速度が小さめに見えているので、実際はもっと速く回転していると考えられています。

FE_H は太陽に対しての鉄の比で、0なら太陽と同じ、1なら太陽の10倍、-1なら太陽の10分の1ということです。マイナス0.5くらいが多いので、太陽より鉄が少なめであり、太陽とは違う環境で誕生したのであろうことが想像されます。

これが彦星(Altair)ならどうなのかですが、直径は253万kmで、織姫より小さめ。太陽よりは倍くらい。回転はVsiniが200km/sと高速で、10時間より速く自転していることがわかります。FE_Hは、太陽と同じかやや多いということで、織姫とも太陽ともおそらく違う環境で誕生したことがうかがわれます。

さて、SIMBADは、ほんとうはある距離より近い恒星は? とかそういったことを、“criteria”で調べるのが面白いのですが、もうかなり長くなっていて、読者もついてきていないような気がするので、とりあえずこの辺にしておきます。

オープンなデータベースなんですが、結構天文学の基礎を勉強しないと使えない。でも、まあ東明にもなんとかなるので、ちょっとがんばれば楽しめるということになります。

これからも東明は、SIMBADでデータをとりながら、いろいろ宇宙のお話をさせていただきたく思います。今回はそういうわけで種明かしですな。ではー。