あと3年に迫った「大阪・関西万博」。床屋の看板のようなカラーリングのキャラクターがSNS界隈では話題ですが、中身の話もしませんかー。ということで、今回はサイエンス界隈から万博について語ります。
んが、しかーし。濃い公式キャラのほかは、「空飛ぶ車」と「メタバース」くらいしかがいまのところ話題になっていません。まあ3年後ですからねー。ということで、ここではこれまでの万博で登場、話題になったサイエンス・テクノロジーをふりかえってみます。
万博(万国博覧会)についてちょっと押さえておこう
さて、この万博ですが、いちおう基本をさらっておきましょう。サイエンスでない話が続くので、次のブロックまで読み飛ばしてもいいですよ。
万博、正式には万国博覧会、Universal Expositionで、世界中の様々な文物、これから売りたいもの、しくみ(なので技術製品が多くなる)を一堂に集め、展示・紹介する大イベントですな。芸術や文化なども紹介されます。万博とか国際博、EXPOとか言われます。最近は5年に1度、開催されています。次は2025年の大阪・関西万博でございます。
万博が最初に開催されたのは1851年5月1日~10月15日にロンドンの中心部ハイド・パークという公演で開催されています。ここは、エリザベス女王が住むバッキンガム宮殿の隣のブロックです。そう黒長い帽子をかぶった近衛兵の交代式で有名なあそこでございます。
ちなみにハイドというのは、隠れるという意味ではなく敷地が60~120エーカー=1ハイド(hide)だったかららしいですな。Wikipediaによるとおよそ40万m2、40ヘクタールですな(100エーカーとして)。ここに、総ガラス張りの「クリスタルパレス(ガラスの宮殿)」が建てられ、有料だけで600万人もの人が観覧したそうです。国立国会図書館の特集サイトが詳しいですな。
次の万博は、1853年のニューヨーク、さらに次が1855年のパリ、1862年のロンドン、1867年のパリと続きます。ニューヨーク万博のころに日本にはアメリカから黒船がやってきており、1867年のパリ万博には江戸幕府と島津藩がそれぞれ出展をしています。
そして、万博は世紀を越えて世界で開催され、日本では1970年に大阪で開催され、日本の人口の半分以上(当時)にあたるのべ6400万人が来場したそうです。
なお、最近では2000年にハノーファー(ドイツ)、2005年に愛知、2010年に上海、2015年にミラノ、2020年(新型コロナの影響で実際は2021年)にドバイで開催と5年ごとの開催となっていますが、その前は1992年のセビリア、その前は……1970年の大阪になります。1980年代に万博やってなかったのね。
ただ、これは最大規模の総合万博に限ります。その合間にも「万博」は開かれています。大阪で1990年に行われた花と緑の博覧会は「園芸博」というカテゴリーでした。今年はオランダのアムステルダムで開催されます。また、ミラノで行われているトリエンナーレという「芸術博覧会」も「万博」になります。さらに1985年につくばで開催された科学博覧会と1975年の沖縄の海洋博は「専門博覧会」というカテゴリーで、Expoを名乗っています。いずれも、パリにある国際機関「BIE(博覧会国際事務局)」の元、国際博覧会条約に基づき開催されるという点では同じです。
ただ、4年に1度と決まっているオリンピック・パラリンピックとはちょっと様相が違う感じですな。詳しくは、経済産業省の公式とか 外務省 をどうぞ。
1970年の大阪万博で話題になったもの
それはさておき、日本で万博というと「なんか世界中から出展があってパビリオンが立ち並んで、いろいろ見て回れてスゴイモノが見られる」という印象が強いですな。あとオリンピックとならぶ「国家プロジェクト」です。国をあげて半年だけディズニーランドを作るみたいな。違うか。
1970年に大阪で開催された万博では次のモノが人気を博しました……そうです。なにしろ見ていないので。
- アポロ12号が持ち帰った「月の石」の実物
- 太陽の塔(岡本太郎デザイン、今も残る唯一の施設)
- タイムカプセル ← 万博をきっかけに日本中で流行する
- ロボット(フジパンロボット館)
- 人間洗濯機
- 遊園地(アミューズメントゾーン。閉幕後もエクスポランドとして営業、2009年閉園)
テレビなど見ていると、当時少年少女で万博を見た人が、大企業の重役とかになり、楽しい思い出としてうれしそうに語っていますな。えーと1970年に10歳だと、いまは62歳とかですな。ぜひ身の回りのおじさん、おばさんに話を振ってみて下さい。
しかし、太陽の塔と遊園地はともかく、あとはサイエンスとテクノロジーですな。万博では世界の人がきて文化を知らしめ「金髪の人を初めて見た。まつげも金髪だった」とかいうのもあったそうですが、未来世界を想起させる工業製品が耳目を集めたようですな。
では、過去の他の万博では何が紹介され話題になったのでしょうか? ちょっと見てみましょう。
エッフェル塔(1899年)
1899年のパリ万博で登場しています。建築技術の粋を集めたもので、高さ333メートルのタワーを19世紀にたて、いまもパリのシンボルとして健在でございますな。
フーコー振り子(1855年)
地球の自転を証明した実験として、フランスの科学者フーコーにより1851年に成功しました。1855年の第1回パリ万博(シャンゼリゼで開催)では、長さ11mの振り子を会場内に展示しています。なお、科学者フーコーはこの万博の運営がわでもありました。
ミシン(1851年、1853年、1855年など)
衣類をスゴイスピードで作れるミシン。マシン(機械)と同じ意味ですが、画期的な発明でした。いまの電動ミシンの前に使われていた足踏みミシンは、アメリカのシンガー社が1855年のパリ万博に出品し、金賞を得ているそうです。それほどインパクトがあったのですな。なお、ミシンそのものは前後の万博でもいくつかのメーカーによるものが出品されますが、20世紀に入ると「当たり前」になって出品はされなくなります。
機械計算機(1855年、1862年、1876年など)
英国のチャールズ・バベッジは1822年に多項式の数表を作りだす非常に複雑な歯車式計算機を構想します。階差機関といわれるものですが、うまく製造ができず。実際にはスウェーデンの実業家ショイツがサブセットながら実機の製造に成功しました。1853年のことです。これが、1855年のパリ万博に出品され、金賞を得ています。ただし、実際には売れなかったそうです。
なお、バベッジはさらに複雑な、プログラミング可能な計算機、解析機関を構想し、プログラム案はエイダ・ラブレス伯爵夫人が考えました。エイダは史上初のプログラマとして知られていますな。
シーロスタットタイプの望遠鏡(1900年)
シーロスタットというのは、望遠鏡そのものは固定し(たとえば横に寝かせ)、望遠鏡の前に鏡をおいて、鏡を動かすことで様々な方向の天体を見る機械です。フーコー振り子と同じフーコーが発明しています。
1900年のパリ万博では、現在のどの屈折望遠鏡より巨大な125cm口径のレンズを持つ屈折望遠鏡が作られ、シーロスタットとして天体観望に使われ、大変な人気を博したそうです。夜まで公開していたのね。なお、現存する最大の屈折望遠鏡はシカゴのヤーキス天文台にある、101.6cm口径のレンズを持つものですが、これも1893年のシカゴ万博に出品されました。
顕微鏡(1851年ほか多数)
現代と同様な光学顕微鏡は、17世紀にロバート・フックが発明し、そこで観察した様子をミクログラフィアという本で紹介しました。顕微鏡を見せるのとこの本は、すごい人気になったそうでございます。
が、万博が始まるころには当たり前になっていたのでしょうな。しかし1851年のロンドン万博にはいくつかの顕微鏡が出品されたそうです。まあ、子供のころに顕微鏡を近所の高校の先生に見せてもらいましたが、やはり珍しいものでしたからねー。いまはスマホ顕微鏡とかもありますけどね。
電話(1876年)
アメリカのベルが1876年に発明した電話。ベル自身の手によって1876年のフィラデルフィア万博に出品されています。はや! 1970年の大阪での万博ではテレビ電話や携帯電話が登場しています。スマホの初出展はいつだったのかな?
レコード(蓄音機)(1889年)
エジソンが1878年に発明した蓄音機。1889年のパリ万博に出品され、エッフェル塔に次ぐ人気だったそうです。
原子力発電(1970年)
大阪で開催された万博会場では、関西電力により福井の美浜原発から電気が届き、宣伝されました。
電気(1893年)
パリは光の都(Ville Lumiere)といわれることがあります。これは、1667年にルイ14世が、パリに2736本ものロウソクの街灯を灯したことにはじまります。1763年にはこれがオイルランプに替わり、1830年代にはガス灯になります。そして19世紀末にはこれが電灯(主に、放電光を使うアーク灯)になり、1889年の万博では会場を照らしていました。
しかし、万博で電灯が大々的に使われたのは1893年のシカゴ万博で、電気館という巨大な会場施設が建てられ、その中央部はエジソンのGE社が陣取り、また開会式では、大統領がスイッチを押すと発電機がその場でまわって、場内の電気が灯るという演出が行われたそうです。
そのほか、エレベーターや蒸気機関車、産業用の巨大なモーターなども初期の万博では出品され、人々の度肝を抜いています。エッフェル塔などのユニークな巨大建造物も万博のたびに話題になっており、レガシーとなっていきますな(日本は太陽の塔と鉄鋼館くらいですけど)。
今回は、いろんな人が研究し資料が集めやすい古めの万博で特集しましたけど、また最近の万博で登場したものも紹介していこうと思います。
ではでは。