さきごろ、ニューヨークタイムズなど、世界の主要新聞が「史上最大クラスの彗星が確認された」というニュースを配信しました。彗星の名は、ベルナーディネッリ・バーンスティーン(通称BB)彗星またはC/2014 UN271。直径は100kmを越え、史上最大クラスです。でも地球にそんなに接近しないのです。さて、どんな天体なんでしょうか。ご紹介いたしますねー。

彗星は、宇宙空間を遊弋する巨大な氷の塊です。太陽に接近すると、熱で表面が蒸発し、本体の周りに蒸発したガスや、氷にから解放さればらまかれたチリにより「コマ」といわれるボンヤリとした広がりをまといます。さらには太陽光などに押されて尾を引くこともあります。彗(ほうき)星とか、コメット(髪の毛のようなもの)という名前は、そんな様子から付けられたものですな。

  • 彗星の本体

    彗星の本体 (ESA/Rosetta/NAVCAM, CC BY-SA IGO 3.0)

  • 尾を引く彗星

    尾を引く彗星 (Public domein、NASAの宇宙飛行士Dan Burbankが撮影)

彗星といえば、ハレー彗星が有名ですな。76年周期で、太陽に近づいたり、遠ざかったりする楕円軌道(図)を描きます。というか、ハレー彗星は、英国の17世紀の科学者エドモント・ハレーが「彗星のうち1つは、そういうもので、そのうち戻ってくる」と予言したことで名前がついたのでございます。ハレー自身は予言はしたものの、戻ってくる前になくなっていますが、後の人が予言を検証しました。

  • ハレー彗星

それ以前は、彗星というのはみんな突然現れる現象だといわれておりました。太陽に接近すると蒸発が激しくなり、急速に尾を引くことがあるので、なおさらいきなり感が強いわけです。「彗星のように現れる」とはよく言ったものでございます。

さて、そんな彗星ですが、おおまかに2種類あります。1つ目は周期彗星といって、比較的短期間、数年~数百年で太陽を巡るモノです。軌道を巡る周期が短いというのはイコール太陽の近くにあるということですので、こうした彗星は、常にコマを持ち続けたり、あるいはどんどん蒸発してそのうちなくなっていきます。大きな彗星でも時に蒸発で裂け目ができ、分裂して小さくなりますので、周期彗星は基本的に小さなものですな。周期が長いものなら大きなもの(直径10km)もありますが、その代表例がハレー彗星です。とはいうものの、ハレー彗星も何度となく雄大な尾を引いたすがたを人類に見せていますので、そのうちなくなっちゃいますね。実際に、太陽に接近した彗星が崩壊してなくなる様子も観測されています。

一方で、太陽系が誕生して46億年もたつのに、いまだに彗星がありつづけるのは、彗星が次々に供給されているからです。どこから? それが太陽から何兆kmも離れた(地球太陽間のさらに数万倍)、太陽ととなりの恒星の間からです。そこは、かろうじて太陽の勢力圏であり、太陽が誕生したときに集まった物質が、誕生した惑星たちの影響で軌道が曲げられ、遠くに放り投げられた小さな天体の吹きだまりです。この吹きだまりを、彗星の軌道を分析していたオランダの天文学者オールトが提唱したことから「オールトの雲」と言われるようになりました。Oort Cloudでございます。

そうした天体が、近くの天体との接触など、なんらかの理由で再び太陽の方に放り投げられ、新たな彗星として供給されるんですな。なんか屋根裏部屋に隠しておいた宝物が落ちてくるようなイメージですねー。

こうした、オールトの雲から最初に「落ちてくる」彗星の中には巨大なものもあります。たとえば1997年ごろに地球に接近したヘール・ボップ彗星は、70kmもの直径があったと考えられています。これはハレー彗星の5倍であり、体積では100倍以上にもなる巨大な彗星でした。地球にも太陽までの距離の10分の1近くまで接近し、尾を引いた姿を肉眼で確認でき話題になりましたが。いやー、ずいぶん前ですね。20世紀のことですからなー。ちなみに周期彗星ですが、次に地球に接近するのは2500年後です。その前は地球に接近したことはなかったらしく、木星の影響でなんども地球に接近する軌道にのったようでございますな。ヘール・ボップ彗星の写真は、NASAが市民レベルのものも大量に(5000枚以上)集めていて、こちらのサイトなどで楽しめますよ。1997年ころの写真がやはり見事でおすすめです。

一方、今回発見された、BB彗星は直径が100km以上と推定されています。ヘール・ボップ彗星のさらに倍。体積では10倍もの超巨大彗星です。これは史上最大でしょーと思ったら、キロン(Chiron)という天体があります。これは周期50年で、1977年に発見された天体です。土星と天王星のあたりにあり太陽にあまり接近しません。当初は小惑星と考えられていましたが、コマを持っていることがわかり、彗星ともいえるとされています。このキロンは直径が166kmと測定されています。最大の小惑星は直径500kmのパラスで、さらに準惑星には直径1000kmクラスの天体がありますからそれよりは小さいのですが(そんなこと言ったら、惑星はもっと大きい)。直径100kmもの巨大な氷の塊が遊弋していると思うと、なかなかワクワクでございます。えーっとこんな図がございますな。Mimasは土星の衛星、Plutoは準惑星の冥王星です。しかし、なぜMimasを比較にだすのかな。単に巨大なクレーターがあっておもしろいからとしか…。

  • これまでに発見された、特に大きな彗星の本体(核)のサイズ比較

    これまでに発見された、特に大きな彗星の本体(核)のサイズ比較(黄色の字のものは、比較用であり彗星ではない)。95P/Chiron(キロンはデカいですが、今回のBB彗星=C/2014UN271はそれに次ぐ大きさ。C/2002VQ94もでかかったのね。その次が1997年の大彗星と言われるヘール・ボップ彗星(Hale-Bopp)。ハレー彗星は図の一番左端。いやこれでもデカい方なんですよ (図はNASAによる、CC by SA4.0)

ところで、BB彗星は、C/2014 UN271が正式名称です。彗星は周期彗星がP、それ以外がCと表記します。PはPeriodicで周期的の意味、Cは、単純にComet(彗星)のCです。(国立天文台のサイトに詳しく書いてあります)。

また、彗星としての発見は2021年なのに、なぜか2014となっているのは「小惑星として2014年に発見されたから」なんですな。UN271は、発見月とさらに発見順につく番号です。発見時には海王星ほどの距離にあり、彗星としての活動は見られなかったのですが、太陽に接近してきて彗星として認められます。

なお、BB彗星は2031年1月に太陽に最接近しますが、最接近しても太陽-地球の10倍も遠い、土星軌道までしか接近しません。これほど巨大にもかかわらず、肉眼で観測するのは無理と考えられています。

ちなみに、かつてはこんな遠距離の彗星はいかに巨大でも(大きなコマを形成せず、太陽の光も弱く暗いので)発見できませんでした「目に見えないような暗い彗星も発見できる」からこそ、こんな話題ができるのでございます。

ということでニューヨークタイムスは騒いでいますが、我々が「おおっと」なるのは実際に見てではなく、話題として知るしかないですな。

なお、接近まで時間があるので「今から宇宙探査機を計画すれば間に合うんじゃね?」という議論がございます。いや、どうなんですかね。土星なみの距離だと、アメリカとヨーロッパしか探査機を送る能力はないのですが。なにしろ太陽電池が使えないので、原子力電池の運用実績がないとどうしようもなく、日本や中国にはその力はなく。

うーむでございますな。