火星はよく話題になる星ですね。最近は、片道切符で移住するなんて企画が話題ですね。その火星ですが、ただいま2年2カ月ぶりに接近中で、とっても見やすくなっております。話題の星を見てみませんか?

火星は赤い星です。2年2カ月ごとに数カ月間、とても明るく見える星です。もちろん、東京や大阪の都心でもよーく見えます。そのとても明るくなる日の中心が2014年4月14日。すでに火星はずいぶん明るくなっているのです。

明るくなっている火星を見つけるのは簡単です。夜8~10時なら東の空に、ひときわ明るい赤い星を見つければいいのです。それが火星です。火星のすぐそばには、たまたまですが、スピカ(おとめ座の恒星)という明るい白~水色の星がならんでいますので、それも目印になるでしょう。

火星といえば、生き物がいるんじゃないか? とか、人類が移住するなら火星で、ヨーロッパのテレビ局が、片道切符で火星移住プロジェクトを進めていて、世界中から応募者があるとか、話題にことかかない星です。このチャンスに、ぜひホンモノの火星を見てみてください。

さて、明るくなっている火星ですが、いつもはそんなではありません。夜空に輝く星の全部で、明るさのベスト3はふつう、1位金星、2位木星、3位シリウス(おおいぬ座の恒星)です。火星はまあ10~20位くらいなんですね。肉眼で見える星、数千の中ではトップクラスですが、メダル級とまではいかないって感じです。

ところが2年2カ月ごとに他の星たちをゴボウ抜きし、シリウスを押しのけて3位、さらに木星とならぶ同率2位に躍り出ることがあるんですな。いつもはやっと予選通過くらいの選手が、いきなりメダルを取るようなものです。そして、試合によっては全選手が出場とはかぎらな…じゃない、いつも全ての星が見えているわけではないので、時に火星は、空で一番明るく見える星ということもあるんですね。

この2年2カ月というのは、火星が地球に接近する周期です。接近というと、火星か地球かが、ぐぐーーっとすり寄っていくような感じがしますけれども、ちょっと違うんです。地球が火星を「追い抜く」時に接近するのです。

「追い抜く」ということで、自動車レースを思い浮かべてみてください。だいたいは、前後にならんで走っているのですが、追い抜きをかけるときは「サイド・バイ・サイド」、横にならびますよね。この時がレーサー通しが、一番接近するときになります。

地球と火星のレースだと、地球が圧倒的に速いのです。地球が太陽を一周するのは1年(公転周期が1年)ですが、火星は1.88年。倍近くも違うのですな。ということで、火星はしょっちゅう周回遅れになります。それは、「1/地球の公転周期-1/火星の公転周期=1/周回遅れになる周期」。で計算できます。ウィンドウズのアクセサリにある「電卓」ソフトなら。

  1. 表示を「関数電卓」にする
  2. (1/1)-(1/1.88)= とし(=まで押すのが大切です)
  3. 右の方にある(1/X)ボタンを押す。

これで、X、すなわち周回遅れになる周期がでます。2.136…が答えになるはずです。2.136年は2年+50日ですから、2年2カ月弱ってことになります。

参考までに、他の惑星の公転周期もご紹介しておきます。それぞれの周回遅れになる周期(会合周期:かいごうしゅうき、っていうんですけど)、よかったら計算してみてください。水星:0.24、金星:0.62、木星:11.9、土星:29.5、天王星84.0、海王星:164.8です。

さて、2年2カ月の接近ごとにグーッと明るくなる火星ですが、地球からみて、太陽の反対がわにいくときは、ずっと遠くなります。

接近と一番遠い時の差は最大で6倍! 明るさは距離が2倍なら2×2の4分の1になりますので、6倍なら6×6の36分の1にもなってしまいます。まあ、36分の1の明るさでも夜空の星のベスト20くらいにはなるのですが、トップ近くだったのが、予選通過かどうかくらいまでなっちゃうのですから、浮き沈み激しいってことになりますねー。

ここまで変化が激しいのは火星だけです。金星も地球に接近したり遠ざかったりするのですが、地球より太陽に近いところにあるため、接近時は「夜」の部分を、遠ざかっている時は「昼」の部分を見ることになり、明るさの変化が緩和されます。2倍程度にしかなりません。30倍にもなる火星の変化が特別だ!ってことがよくわかると思います。

ところで、こんなに変化が激しいことと、赤い色をしていることから、かつて火星は(時々ある)戦争をもたらす星なんて考えられていたこともあるようです。火星の英語の名前はローマ神話の戦争の神様からとって、マーズ(Mars)といいます。血の色のイメージもあるのですが、この大きな明るさの変化が、気まぐれな神様のイメージを誘発したのかもしれませんね。

古い中国や日本の言葉では「熒惑(けいわく)」ともいいます。災厄をもたらす星として恐れられていたそうです。

明治の西南戦争のあと、火星が接近しました。西南戦争をしかけた西郷隆盛が悔しがって怒っていると思った人たちが「西郷星」と名付けたってな話もあります。

科学的には、火星の接近の様子の解析から、惑星の軌道が円ではなく楕円だと見抜いたのが、ケプラーという天文学者です。話題がいろいろ豊富でございます。

火星の接近は、明るく見えるというだけでなく、表面の様子を望遠鏡で観察しやすくなるチャンスでもあります。また、探査機を火星に送るときのいいタイミングにもなります。アメリカは2年2カ月ごとに火星探査機を送ってきていますが、この周期は接近の周期なんですね。

2年2カ月に火星が接近する。そしてとても明るく見える。そんなことを知っているだけで、火星についての色々がわかりやすくなります。

なにより、火星を確認するチャンスですので、ぜひ、火星を見てやってください。接近の前後2~3カ月はOKですので6~7月くらいまで火星は見ごろが続きますよ!

2007年12月17日に撮影された火星の映像 (c)NASA, ESA, the Hubble Heritage Team (STScI/AURA), J. Bell (Cornell University), and M. Wolff (Space Science Institute, Boulder)

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。