最近、2020年販売開始のスマート望遠鏡「eVscope」が、天文ファンや天文教育関係者の間で話題です。40万円ちかくという高価な望遠鏡ですが、この度、+Styleさんのご厚意で試用させていただいております(現在進行形)。はっきりいって、これは従来の望遠鏡とは全く違う、とんでもないガジェットで、望遠鏡というより「モバイル天文台」とでもいうべきものです。iPhoneがでたときと同じような衝撃を味わっております。望遠鏡としては高価ですが、天文台と考えれば激安です。そういうわけで、2回に渡ってレポートいたしますねー。
2020年から天文ファン界隈で、eVscopeという望遠鏡が話題になっていました。フランスのUnistellarというスタートアップ企業が開発したもので従来の望遠鏡より100倍パワフルという触れ込みでございました。
科学館にあるような大きな望遠鏡で見ても「フーン」としかわからないオリオン星雲が、写真のように見えてしまうというのでございます。また、自動的に天体を導入できる。テーマを受信して天文学にも貢献できるということでございました。それを持ち運びができる小型望遠鏡でできちゃうというのです。
はっきりいって思いました。「うそでしょー」と。
また、実際にそう見えるのだとしても、使うのが面倒だとか、特別な条件じゃないと使えないとか、そういうワナが待っているんじゃないかということでございます。
だけれどもですね。実際にファースト・ペンギンになって使っている人がポツポツ現れて、ありゃ、これは本当なのかと思い始めたのでございます。落ち着いて考えてみると、これはCMOSカメラを使った「電視観望」。海外ではElectronically Assisted Astronomy(EAA)とかVideo ObservingとかTwo Ways to Use Video for Astrophotography - Sky & Telescope - Sky & Telescope (skyandtelescope.org) 言ってるやつなんですな。
ただ、使い勝手はよくわからない。試しに買うには色々無理(なにしろ40万円近い)なので、半ばあきらめていたら、なんと編集部から「いや、eVscopeの試用+レビューする人いないかって話があり」飛びついたのでございます。うん「どこでもサイエンス」書き続けててよかったー!
ということで、前置きが長くなりましたが、eVscopeの試用レポートでございます。場所は都心から数十kmほど離れた郊外の住宅地です。公園まで運んでテストしてみました。
で、ちょっと使ってみて、まあまあ「広告に偽りなし!」と言ってよろしいかと思いました。一つ一つ検証してみましょー。
広告1:従来の望遠鏡より100倍パワフル{#ID1}
「今まで見たことがない感動的な天体観測を。私たちのエンハンストビジョンテクノロジーで、光を増幅させ、銀河、星雲や彗星を色鮮やかで詳細に観察することができます。」
→ おおむね本当
eVscopeは、覗いた様子をそのままスマホにキャプチャできます。オリオン星雲がピンク色に見えていますが、これ、本当にこういう風に見えるのです。
なお、銀河は色鮮やかというまではいきませんでしたが、図鑑のような姿に見えて、ええ、感動いたしましたよ。これだけのことを見ようと思ったら、かなりの投資をして天文台を作らないとできないくらいです。これはもうモバイル天文台といってもいいくらいです。
色については、周辺の明かりがセンサーに入ると、処理がバグるらしく、へんちくりんな色づきになりがちです。YouTubeなどで見てみると、フードを自作して明かりをふさぐようにしている方も見受けられますが、そうすりゃうまくいくんでしょうね。次回にチャレンジしてみますね。
あ、そうそう、上の写真はトリミングしていますが、トリミングしないとこんな感じにダウンロードされます。いつ撮影したかなどのデータがつくのはなかなかに便利です。ちなみにこの表示はアプリのオプションで切ることも可能です。
広告2:シンプルかつ、焦点を正確に合わせ認識
「AFD(自律フィールド検出機能)ソフトウェアは天体を正確に認識し、望遠鏡を最適な方向へセッティングする弊社特許技術です。現在向いている方向を何百万もの星の情報を取り入れた内蔵座標データベースと比較する事で望遠鏡の視野に入った星を自動的に認識します。
磁力加速度計、電動マウントとAFDが組み合わさる事で、eVscopeはどんな天体やオブジェクトも自動で認識し、正確に焦点を合わせます。焦点が合わさった被写体の周りやコンテクストも含めた情報がユーザーのスマートフォンへ送られます。」
→ この微妙な翻訳以上に、使える機能でした。
広告では「焦点」といっていますが、ピント(※)のことではありません。
「望遠鏡を天体に向けるのが全自動」だというのです。 やるのは、スマホアプリで、見たい天体を選択するだけです。画面は下のようなものですな。スマホアプリUnistellar(iOSとアンドロイド)自体は望遠鏡を持っていなくてもダウンロードできますので、雰囲気を見てみてもいいでしょう。
※ eVscopeはほとんどスマホで操作するのですが、唯一ピント(と光軸)は手動であわせます。あわせるのは直観でやるのではなく、付属する「バーティノフ・マスク」というジグを使ってスマートにやるのですがマニュアル通りにやれば、この方法は初心者のわたくしにもすぐにできました。普通にピントを合わせるよりも正確で簡単です。
なお、最初に望遠鏡がどこを向いているのか認識させる必要があるのですが、これもスマホアプリからボタン1つで全自動でやってくれます。そして、地球の自転の影響をなくすように自動的に天体を追いかけ続けます。
この簡単さは、いままで使ったどんな望遠鏡よりも桁違いに上です。いやー驚きました。初心者でも一発で使えるようになることはまちがいありません。
そしてまさにゲーム感覚で次々と天体を見ていけるのは、はっきりいってクセになるほどおもしろく、望遠鏡を操作する苦痛とは無縁です。
広告3:eVscopeはリュックに収まるサイズです。
「増幅されたビジョンにより、コンパクトながら従来の望遠鏡より100倍パワフル。 非常にコンパクトなeVscopeは、中型のハイキング用リュックに収まるので、気軽な天体観察のお供として最適です。」
→ 本当
重さは10kg+専用リュックの重さです。この10kgというのは入門用のちょっとしっかりめの望遠鏡と同じくらいです。
家から専用リュックで公園まで200mほど歩いていきましたが、インドア派の私でも十分運べました。クッションもしっかりしているので車に放り込んでも平気そうです。望遠鏡単体で運んでもなんとかなりますが50mくらいが我慢の限界ですかね。専用リュックセットは望遠鏡単体より2万円アップなんですが、収納道具として非常に出来がいいので、どうせ40万円だすなら、ぜひセットで買うべきです。
また、パーツが三脚と本体の2つ+キャップくらいですので、運んだ先で組み立てるのも非常に簡単です。全部スマホでコントロールするので、レバーやつまみなどはいっさいありません。三脚に本体をのせるさいに締め付けるネジが2つあるだけです。
欠点はないのか? - 月のクレーター、太陽の黒点、土星の環は無理
ところで、ここまで書くと、思いますよね「欠点はないのか?」
ありますよ。いろいろあります。
最大の欠点は、このスペックでは「土星の環が見えない」「月のクレーターのクローズアップが見えない」ということです。
土星の環は倍率30倍くらいで通常は見えます。eVscopeは50倍固定で、電子的にさらに150倍くらいまでズームできますので、十分な気がします。しかし100万画素しかないセンサーだと、拡大しても土星の環をきれいにみることができないのでございます。
また、月のクレーターも同様で、大きないくつかのクレーターは見られますが、まあこんな感じです。
また、星空がそれなりに見えないと自動的に天体に向ける機能が全く働きません。日が暮れて1時間くらいはまたないといけない感じでしょうか。もちろん太陽は全くダメです。黒点や日食の学習には使えません。また、目では星が見えているのに、そこに向けられないのもストレスです。
さらに、風や振動があると、100倍の感度にする機能が働かなくなってしまいます。のぞいても振動させちゃうことがあるので、子供に見せるにはなやましいところです。新型ではなんとのぞき口がなく、スマホで見るようになっています。感染症対策の面からもそのほうがいいかもしれませんね。ちなみに同時に10台のスマホに現在見ている映像を送ることができるそうです。
さて、次回では、もう何もできなくなった連休を利用し、もうちょい使い倒してレポートしようと思います。こうご期待!?