爆発、それはキケンでありロマンです。そして爆発を制するものは、圧倒的なパワーを手に入れるのでございます。今回は爆発を制したエンジンについて、浅〜いお話をいたします。なにしろ原稿の分量はA4・2枚ほどなのです。あ、そこのエンジン技術者のみなさん、物理の先生がた、見なかったことにしてくださいねー(哀願)。

えー、今回はエンジンの話でございます。で、宇宙の話から入ると、まあなんといっても宇宙ロケットでございますね。で、そのロケットですが、エンジンとモーターを使ったものがあるのは周知の通りです。

と書くと、え? モーター? ロケットに? あの電池でぐるぐる回るやつ? なんでまたと思いますよね。ええ、わたしも思いました。人工衛星などにも「キックモーター」なんてのがあったりするのですが、ほんとになんのことやらでございます。

このロケットのモーターというのは、ロケット花火のような火薬を燃焼させてガスを噴き出させ、その反動で飛ぶ「固体ロケット」のことです。日本は固体ロケットで高い技術を持っていて、一時は世界最大の固体式宇宙ロケットM-Vを運用していました。初代の小惑星探査機はやぶさもM-Vで飛び出したのでございます。つまり、初代の小惑星探査機はやぶさは、エンジンなしで宇宙に出たのですが(はやぶさそのものにイオンエンジンがついていたりしますが)。

一方ロケットエンジンは、ガスの噴射の反動で飛ぶという(まあそこがロケット)のはそうなのですが、燃料と酸化剤をコントロールしながら送り込み、燃焼させて発生するガスを利用します。燃焼は同じなのですが、燃料などをコントロールするところが、エンジンの由来です。その点、モーターはモーターの中ではコントロールせず、与えられた外部のエネルギー(火薬の爆発とか、電流とか)で動くということなんですな。

しかし、混乱しますよねー。この宇宙ロケットの「モーター」。私なぞはいまだに馴染んでおりません。日常用語が専門的に使われると、こまっちゃいます。え? わたしだけ? そうなのかなー。

さて、エンジンの方でございます。ロケットエンジンは、推進するさいにガス噴射の反動を使うわけです。ジェットエンジンも酸化剤を持たず、大気の酸素を利用し燃料として石油から作るジェット燃料と酸素の燃焼ガス、まあ二酸化炭素をばらまきながら飛ぶわけです。ロケットエンジンは燃やすものによりますが、日本の主力ロケットH-IIAの場合は、水素と酸素を燃やして、高速の水蒸気ガスを出して飛びます。いずれにせよ、なんちゅうかわかりやすいのがロケットエンジンやジェットエンジンでございます。

ただ、両方とも空を高速で飛ぶという無茶をするために、ものすごいパワーを必要とします。そのために、ほぼ爆発に近いくらいの燃焼を起こします。ただ、爆発ではないです。

で、いっそのこと爆発させて反動でとんだらいいんじゃね? というアイデアがかつてあって、小型原爆か水爆を連続的に爆発させながら超高速で飛ぶという構想がありました。なんと物騒な。1950年台の話で、オリオン計画でググると記事が出て参ります。TEDトークでも取り上げられてますな。大気中の核爆弾の実験そのものを禁じる条約ができて話は頓挫いたしますけどね。

ということでエンジンは爆発、まではいかないのが常。といいたいのですが、実は人類は爆発型のエンジンを実用化しているのでございます。それは、自動車や船舶、プロペラ飛行機などに使われているエンジンでございます。そう、その辺走ってる自動車のエンジンは爆発なのでございます。

エンジンの歴史は、圧力釜にはじまります。あ、この辺の話は前に書いたのでございました。圧力釜からワットの蒸気機関になるのですが、ここまでは、水⇄水蒸気、で温度と体積が爆発「的」に変わることを活用したものでございました。条件にもよりますが、水が水蒸気になると体積は1700倍も変化します(1molの水は18gで、水は1molで0.018リットル。一方1molの理想気体は、22.4リットル、100度だと30.6リットルですので、その比は1700倍なんでございますね)。

この1700倍もの水⇄水蒸気の変化をパワーに換えるのが蒸気エンジンでございました。かなりのパワーを出せることは、映画「バックトゥーザ・フューチャー3」でもお馴染みでございます(リンク先にはネタバレがあります)。

ただ水⇄水蒸気の変化がパワーをうむといっても、まあ、沸騰したお湯を思い浮かべてもらえばわかるのですが、スピードは爆発の比ではありません。蒸気エンジンを使っていた人たちも、爆発を利用したエンジンを使いたくなるわけでございます。また、蒸気エンジンはお湯を沸かさないと起動しない(すぐには動かない)といった欠点があったのです。爆発ならその点すぐ起動しますからね。

ちな、爆発を使えばいいんじゃないというアイデアそのものは、オランダの天才クリスティアーン・ホイヘンスが17世紀、日本で言えば、江戸時代の初期の1680年に提唱しています。うむ、江戸時代を舞台にした怪奇SFに使えそうなネタですな。

ちなみにこのホイヘンスは振り子時計を発明し、高性能な望遠鏡で土星の環と土星の衛星タイタンを発見し、天文マニアなら知っているホイヘンス(ハイゲンス)式アイピースを発明し、光の波動説を提唱し、光の媒質であるエーテルを考え(おまえかー!)、屈折のホイヘンスの原理を発見するなど、まあ、どうしようもなく天才なんですが(そのうちエピソードさがして書きますね)、爆発を利用したエンジンも提唱していたのです。

しかしながら、実際に爆発エンジンはなかなか作られませんでした。だって、爆発ですよ! あぶなくて使えなさそうじゃないですか。

そうして発明が始まるのが19世紀でございます。100年以上間があいてますなー。で書いていたら若干退屈になったので、サラッと眺められる年表にいたします。まあ適当の飛ばしていただいてOKですよ。

  • 1680年:オランダのホイヘンスが爆発を利用したエンジンを、考える(作ってない)
  • 1820年:イギリスのW・セシルが、水素ガスを使ったエンジンを発明
  • 1823年:イギリスのサミュエル・ブラウンが、水素ガスエンジンの特許取得。実際にエンジンを作成し、船を動かすのに成功。ただし普及せず。
  • 1838年:イギリスのウィリアム・バーネット。点火プラグを使った2サイクルエンジン
  • 1855年:イタリアのバルサンチとマテゥチが機械カラクリと爆発を巧みに組み合わせたガスエンジンを発明。安定作動に成功。
  • 1860年:フランスのルノアールが爆発をマイルドにした燃焼を使ったガスエンジンを商業化し、かなり売れる。爆発はやはりしんどかったのですな。水素ガスから石炭ガスになっています。ちなみにガス燈が普及していてガスの入手には困りませんでした。
  • 1876年:ドイツのニコラウス・アウグスト・オットーがドイツのゴットリープ・ヴィルヘルム・ダイムラーやヴィルヘルム・マイバッハらと4ストローク式ガスエンジンを完成させ、実用化。
  • 1885年:ドイツのゴットリープ・ダイムラー、ヴィルヘルム・マイバッハはガソリンエンジンの特許を取得。1892年に自動車を発売。

この前後に、ベンツもガソリンエンジンと自動車を発明していて、それをヘルタさんが実用化する楽しいお話があるわけですな。

また、アメリカの発明王エジソンも注目。エジソンの元で働いていたヘンリー・フォードが同時期に自動車を作るってな話も前に書きましたな。

その後、このハイパワーがあり、すぐに始動する爆発利用のエンジンは1904年のライト兄弟の飛行機発明にもすぐつながるのでございます。

人類が爆発を箱の中に抑え込んだエンジン。脱炭素社会で目の敵にされつつあるのですが、ここ100年の世界をめちゃくちゃ変えたのは間違いありません。

エンジンは爆発だ! ぜひ覚えておいてほしいのでございます。