「クローン」なんともSFな響きですねぇ。人間とは何かみたいな哲学やら生命の尊厳といった倫理やら、いろいろ問題が勃発するクローン。とっても最先端なこれは江戸時代にはすでにあったのです。そして利用されてきたんですね。そんな馬鹿な? まあ、聞いてくださいませ。
SFの世界だけのものではなくなったクローン技術
スターウォーズの続編が作られるということで、世代のワタクシメはWKWKが止まらないのであります。んで、スターウォーズにでてくる、悪の帝国のストームトルーパー、あ、あの白ずくめのテカテカした連中ですね、あれ、クローン兵なんですな。ヘルメットの下は全部おんなじ顔をしているのです。ジャンゴ・ザ・フェットという賞金稼ぎのコピーなんですね。ダース・ベイダーじゃないですよ。はい。
で、このスターウォーズに限らず、クローンはSFにはつきものですな。エヴァと…え? 綾波レイってクローンじゃないの? えっと…みんなの人気者ドラえもんにすら、クローンを作る話がでてくるわけです。しかもデパートから配達されるというブラックなお話で。ホントかなぁという向きは、マンガ喫茶ででもチェックしてみてくだされ(27巻です)。
さて、このクローン。男女がいなくて子どもができるという話でございます。細胞をぴっと取り出し、それを増殖させるのですね。まあ、単細胞生物はみんなクローンなわけですが、おしべとめしべ、男と女がある生き物は、そうではないわけです。
で、クローンはふつうの子どもと違い、片親の遺伝子しかもってないわけで、つまりはコピーなんですな。完全なコピーなので血液型から、姿形から、運動能力から考え方から、全部同じものが作れるって感じになるわけです。考え方まで同じなのかなあ。というのは、一卵性の双子ちゃんがまったくおんなじじゃないわけですから、それはどうかと思うのです。まあ、それはそうと、コピーが作れるというところから、楽しい話から、考えるとおぞましいような話もでてくるわけで、それがSFなどにネタを提供してきたわけでございます(ちょっと調べたら滅入ったので、調べるのはおすすめしません)。
ところで、このクローン技術、つい先日ノーベル賞を受賞しております。2012年にiPS細胞の山中伸弥さんと一緒に、ジョン・ガードンさんが受賞しているのですが、このガードンさんは「クローンのおたまじゃくし」を作ったことで受賞になっているのです。山中さんの受賞は2006年からの研究に対してですが、ガードンさんはなんと1962年のもので50年後の受賞ってことになったのです。
その後、クローン技術はどんどん進んでいて、哺乳類のヒツジのクローンは1996年に誕生しています。ドリーという羊でイギリスでの研究ですね。同じころ、クローン猿をアメリカの研究所が作り、日本でも2年後にクローン牛を作っているのですね。ちなみにこのドリーさんは、現在剥製になって、イギリスはエジンバラの博物館に展示されているそうです。
イギリス人はなんでも博物館に展示しちゃいますからねぇ。余談ですが、ロケットをまるごと屋内に入れている博物館もあるくらいです。
日本のクローン牛はどうなったでしょう。試食会などもあったようですね。技術的には確立しているみたいですが、商業的にうまくいっていない。と、はぁ、そうですか。A5等級の牛をバンバン生産できるとはいうものの…という感じですかね。この辺、人によって感覚が違うでしょうねえ。
クローンのもともとの意味って?
ところで、ここまで引っ張ってきてなんですが、単にクローンということなら、その技術は江戸時代の日本でもあり、現在も盛んに利用されているんですな。クローンというのはもともと「小枝」の意味です。挿し木ってありますよね。土台の木の上に別の木の枝をさして成長させるやつ。枝はおしべでもめしべでもないのに、成長して大木になるのですね。つまりクローンなわけです。
挿し木は盛んに行われていて、紀元前の記録まであるようです。タイトルでは江戸時代としましたけど、2000年以上前からあるんですな。そして、江戸時代の日本では非常に盛んに園芸の挿し木が行われたのです。その代表が、桜のソメイヨシノですね。
ソメイヨシノは、江戸時代に染井村(いまの東京都豊島区駒込)でつくられた桜の品種で、日本中のかなりの桜がソメイヨシノですね。ピンクで花びらがぱっと散るのが美しいわけですな。で、その増やし方は種ではなく、挿し木・接ぎ木です。というか、種が非常にできにくいのですね。サクランボはできることがありますが、その種からはまず発芽しないそうです。ソメイヨシノはオオシマザクラとエドヒガンの掛け合わせだそうですが、そのオリジナルから、ひたすらクローンを作って日本中に増えたのですね。米国ワシントンのポトマック川の桜は1912年に東京市から寄贈されたんだそうですが、このほかにも世界中にこの日本の桜のクローンがあるわけです。
ソメイヨシノはほぼ一斉に咲いて、一斉に散りますが、これもすべてコピーのクローンだからこそってことですな。古くて新しいクローン。今回はそんな話でございました。
著者プロフィール
東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。