クリスマスプレゼントは夢がありますね。そして、夢がある科学グッズの極北は、なんといっても「望遠鏡」でございます。未知の世界が見える。その興奮、喜びは、一生に一度は体験してほしいものです。今回は、クリスマスプレゼントに望遠鏡な情報をご紹介いたしましょー。

間もなくクリスマス。プレゼントはもう決まりましたか? なかには「自分にプレゼント」な方もいらっしゃるのでしょうね。それもまた良し、ですねー。私はどうしようかなー。まだ悩んでおりまする。悩んでいるときが一番楽しいんですけどねー。

さて、1609年秋、イタリアのベネチア近くのパドヴァ大学の教授が、100台もの望遠鏡を試作し続けていました。望遠鏡はいつ発明されたかよくわかっていません。1608年にオランダのリッペルスハイが特許を出しているのはわかっています。そして、その構造の単純さから当時3~4倍の望遠鏡がパリなどで売り出されていたのですが、教授はもっと高倍率の望遠鏡ということで研究を重ねていたのですな。パドヴァは工芸品ベネチアグラスの産地として名高いベネチアとアクセスしやすい場です。高品質のガラスを使って、教授は3か月にわたって、望遠鏡を作り続けていたのですねー。

その結果、14倍~20倍という、当時としては画期的な望遠鏡の開発に成功。1609年の年末。まさに自分のためのクリスマスプレゼントを手に入れ、教授は望遠鏡を太陽に、月に向けてみます。あ、教授は一説では太陽を望遠鏡で見たために、目が悪くなった(失明とも)とされています。望遠鏡で"太陽を見る"のは"厳禁"でございますので、よくよくご承知おきくださいませ。

さて、教授は、この高性能望遠鏡を使って、驚くべき世界を見ることになります。太陽は完全無欠の発光ではなく、黒いシミがありました。月は女神ではなく、アレアレの肌、クレーターだらけの世界でした。山も谷もある、地球と同じような天体だったのでございます。そして、教授は木星に衛星を発見、すばるやオリオン座に目に見えない多数の天体を発見、さらに金星が月のように満ち欠けすることも発見しました。教授は、これらの大発見を本にして出版してベストセラー(当時)。多数作った望遠鏡はパトロンの大富豪にプレゼントしたそうです。

自分に自作天体望遠鏡をプレゼントした教授の名前は、ガリレオ・ガリレイ。そう近代科学の父と言われる大科学者でございますねー。

さて、ガリレオは「高性能望遠鏡」でずいぶんいろんなものを見て、発見しているのですが、いくつか問題もあったようです。倍率4~5倍、つまりいまでいう双眼鏡くらいであれば、手持ちで見て、大きく見えるー、たのしー。ですんだのですが、14倍とか20倍というと、そうはいきません。持っている手の振動も14倍とか20倍になるので、ろくに相手を見ていられなくなるのです。それにガリレオの望遠鏡は、超初期型で視野が狭く、天体にむけても、ちょっと手が狂うだけですぐに天体が見えなくなってしまうのです。これを固定するのに、ガリレオはずいぶん苦労したようです。

現在では、視野が広い望遠鏡が一般的になっていまして、ガリレオのような望遠鏡は低倍率のオペラグラスくらいでしか使われません。また、がっちりとした台座につけ、方向を微妙に動かす「微動ハンドル」をそなえていれば、ガリレオの苦労なしに、ガリレオの大発見を追体験できるはずです。さらに、倍率を30倍くらいになると、ガリレオも発見できなかった「土星の環」も見える性能となりますし、当時はなかったカメラを使うことで、記念写真も撮影できます。こちらのリンク先にある秋山さんという方の論文には、ガリレオと同じタイプの望遠鏡を再現して撮影した写真がありますので、ごらんください。もちろん立派な台座も使っています。

さて、クリスマスプレゼントの話でした。ガリレオの体験を、楽にできる望遠鏡は、どれくらいで手に入るのでしょうか? 結論からいうと2万円あまり出せば十分です。微動ハンドルをおごらなければ2000~3000円の組み立てキット+カメラ用の三脚でことたります。いちおう、使ったことがあるなかからいくつかあげてみますと。

ガリレオの望遠鏡にくらべ20倍くらい高性能な望遠鏡です。立派な台座、微動ハンドルもつき、1万円ほどでスマホやカメラを付けるアダプターも入手できます。天文ファンの評価も高いです。

将来のバージョンアップもできます。ただ総重量9kgですから、小さい子が使うには向きません。

上のポルタIIよりちょっと性能は下ですが、十分高性能です。

各種のオプションがなく、拡張性はやや低いですが、総重量5kgあまり、小学校中学年なら扱えるのではないでしょうか。

両方ともおすすめですが、場所は結構とります。折りたたんでしまえますけど、望遠鏡の長さ以下にはなりませんので、そこは注意が必要です。

ちなみに、ビクセンというのは、サンタクロースのそりを引くトナカイの名前だそうで、なるほどクリスマスプレゼント向けの名前ですね。国内の普及用望遠鏡の最大手なので、県庁所在地くらいの都市ならまず入手できる店があると思います。まあ、通販をつかう手もあるわけですけど、できれば実際の大きさを見たほうがいいですよ。家でしまう場所ないわとか、重すぎーとか、ごつすぎーとかいうことがどうしてもあるので。重い、ごついは、望遠鏡の性能がある程度よい証拠にもなるのですけどね。

次に、通販専門ですが、より安いものもあります。

さきほどのビクセンのミニポルタより、もう少し小型の望遠鏡です。微動ハンドルがついています。重さは、4.5kgとちょっと軽いですが、まあそれなりですね。各種のオプションもあります。小学校高学年なら問題なく使えると思います。

微動ハンドルなしですが、台座はソコソコ、望遠鏡の性能もよい、コストパフォーマンスが高い望遠鏡です。また1.5kgと軽いのも子供にはよいでしょう。微動ハンドルがないことは、操作がかんたんだけど、ちょっと苦労するという感じになります。意欲まんまんの子供向けならよいかなと思います。スマホ撮影用のオプションなども低価格で提供されています。

組立の望遠鏡なら、2000円~3000円くらいで入手できます。ただ筒だけですから、別途カメラ用の三脚が必要です。三脚はそれなりに高くなる(1.2m以上)ものがいいですよ。スリックやベルボン、ケンコーの5000円以上のものがおすすめですね。

プラスチック製で30分もかからず組み立てられる望遠鏡です。15倍なのですが、ガリレオのものとはちがい視野が広い(でも逆立ちしてみえる)ケプラー式なので、手持ちでつかってもよいですね。三脚があったほうがいいけど。重さは200gですから、お手軽です。月のクレーターくらいなら見えますよ。土星の環はちょっと無理。星の手帖社は出版社なので、全国の書店で入手できるのがよいところです。似たようなものが他からも出ていますが、まあ、私が使ったことがあるので、これは大丈夫、他は…わからん。というところですねー。

紙製で組み立ては、小学4年生くらいなら、1時間かからないかなというところです。ノリとかを使うクラシックな作りです。倍率は35倍で、三脚必須。でも、土星の環も見えますよ。パーツで重要なレンズによいものを使っている、でも安くというので、この形式になったようです。重さも軽いです。紙だからね。

ところで、最後のオルビィス社のコルキット・スピカですが「できるだけ苦労なしに、子供たちに望遠鏡を入手して使ってほしい」という気持ちで開発されたときいています。最大の苦労は、お金です。ただ、安くするとみたいと思ったクレーターや土星の環が見えない。そこを両立するためのキットだったんですね。

開発されたのは、オルビィス社の創業社長の花岡さんという方で、先日亡くなられました。亡くなったという情報が流れると、全国の天文ファン、学校教員から、お礼を表明するコメントが大量に寄せられました。それほどよく使われているのです。実は私も授業や実習でよく使わせてもらっています。組立は星の手帖のほうが簡単なのですが、こちらのほうが自分のためのプレゼントという感じになりやすい。作る楽しみがあるんですね。あと紙なので、デコったりも簡単にできます。

また、2009年の世界天文年のさいには、「ガリレオの望遠鏡」というふれこみで、途上国もふくめ、世界中で採用されて子供たちの工作教室が行われました。実は他の同様な望遠鏡よりちょっと高かったのですが、花岡社長は、品質を落として、子供をがっかりさせたくないということで、ぎりぎり安くするけど、これ以上は無理というので単なる値下げはしなかったんですね。非常な情熱家でもありました。そういう人が、宇宙ブームを支えていたともいえます。

さて、他にももちろん、クリスマスプレゼントになる望遠鏡はいろいろあります。アメリカなどでは、コンピュータ内蔵で、電動で星の方に向く望遠鏡が完全に主流です。ミード社、セレストロン社、オリオン社などですね。日本では職人的な望遠鏡でタカハシというメーカーが知られています。他には中国のよい望遠鏡を輸入しているケンコートキナーもよく商品がならんでいますね。

また、12~18倍くらいの振動防止双眼鏡なども、大人のクリスマスプレゼントにはよいでしょうね。高いですけどね。10万円超えですよ、奥さん

さらに、思い出ということだけなら、望遠鏡を見せてくれる科学館とか、ツアーとかホテルなども最近は増えてきましたので、それを利用するのもよいでしょう。施設リストはたとえば、こちらのWebサイトを参照ください

ともあれ、クリスマスプレゼントの望遠鏡。それを使えば、宇宙の景色をプレゼントしたことになります。使いこなせなければ、うん、プラネタリウムなどに聞いてみるのもいいかもー。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。