ある日、満員電車にすし詰めになって通勤しながら「昔の人はこんなことしてなかったよな、電車がなかったから」と思ったワタクシ。そうか、発明は世の中を変えてしまうということに、いまさら思い至りました。そういえば、どこかの博物館に行ったときに(忘れたんかい)「世の中を変えた10大発明」という展示をやっていて、その取り上げ方に、へぇと思った記憶があります。夏休みももう終わりですが、みなさまも、そんなことを考えて、調べてみてはいかがでしょーか? ここでは東明の独断で10個をあげてみます。

発明。子供のころにチョットあこがれました。画期的な発明をして、みんなにほめてもらいたい。そんな承認欲求というか、なんというか、でございますな。で、できるのは「10円玉と100円玉を分類する貯金箱」とか、そこまでいけば上出来ってなものでございます。

さて、しかし、世の中にはスゴイ発明をした人がナンボでもいます。そしてそれが世の中のありようを変えてしまうってなものもあるわけですね。たとえば「車輪」、何回発明されたかわからんものですが、これがあるとないとでは大違いでございます。今回は、思いつくまま、これはスゴいんじゃないか? と思い当たった発明を10ばかりあげてみましょー。あくまで独断

1. 洋式水洗トイレ+下水浄化システム

いきなりそれかい、といわれそうですが、水洗便所のおかげで、世の中がどれだけ快適になったか、計り知れません。洋式水洗トイレの発明は、ちょっとググると、1596年にジョン・ハリントンという英国の詩人だったらしいですね。ほう。水洗トイレについては、インダス文明のモヘンジョダロ遺跡からでてきていて、下水浄化システムも備わっていたらしいですな。ちなみに、快適といえばウォシュレット、シャワーレットは日本のTOTOの発明と思っていたらちがっていて、医療用(おしりが切れるやつ対策)にアメリカやスイスで販売されていたものを、TOTOとINAXがそれぞれ同じ1964年に輸入販売したものがスタートだそうです。

日本が誇るウォシュレットトイレ (画像は2014年に日本科学未来館にて開催された特別展「トイレ? 行っトイレ!」にて編集部が撮影したもの)

2. 電気冷蔵庫

夏には非常にありがたみを感じる電気冷蔵庫。家庭用のみならず、これのおかげで、新鮮なものの長距離輸送もできるし、自動販売機も成立します。冷やすのは食品だけでなく、生物や機械にも使われますね。医療でも生物研究でも、あるいは、天文学の世界でもあらゆるところで使われていますな。クーラーもその変形とも言えますね。冷たくするには、冷媒の圧縮膨脹を使うのと、ペルチェ効果という半導体を使った現象を使うのがあります。ふつうの冷蔵庫には圧縮膨脹を使う方が使われます。この圧縮膨脹タイプの原理は18世紀に発見されており、風車や蒸気エンジンを使ったものが19世紀に使われていますが、電気をつかうとなると1911年にアメリカのGEが発明したものが最初のようです。GE=エジソンの会社ですね。発明はフランス人のようですが。

3. 電子レンジ

えー、これは以前に発明紹介記事を書いておりますので、そちらをご参照のほど。

当該回は、どこでもサイエンスの37回「誘導ミサイルとポップコーン」でございます。冷凍食品などとセットで、生活を大幅に変えていますね。火なしで素早く加熱できるため、調理可能な場所を劇的に拡大したのもポイントですな。

4. 飛行機

世界のどこへでも、滑走路さえあれば、短時間で移動できる。これによって世界は運命共同体になったといっていいですな。正月にハワイで過ごすとか、日帰りで、韓国で商談なんてのも、飛行機なしでは考えられません。スポーツの世界大会もそうですね。こんなに頻繁に代表戦とか無理なわけです。発明はもちろんアメリカのライト兄弟で1904年です。なお回転翼、つまりヘリコプターは1936年、ドイツのフォッケが開発に成功しています。

5. デジタルカメラ・ビデオ

素直にカメラでもよいわけですし、光学機器たとえば望遠鏡でもいいわけですが、世の中を変えたインパクトでいうと、CCDやCMOSとコンピュータが結びついたデジタルカメラ・ビデオにはかなわないような気がします。

記録した映像がただちに再生でき、かつコンピュータに送って解析も可能。これができるから、人間とロボットアームのAIの将棋、囲碁もできるし、生産ラインで不良品ははじけるし、空港で犯罪者の割り出しも可能だし、駐車場でナンバー読み取って車が出られるわけです。この即時性とコンピュータとの結びつきがデジタルカメラの特徴ですね。もちろん記録したものをネットワークで画質そのままで高速転送できるのも特徴です。CCDやCMOSといった半導体撮像センサは1969年ごろに発明されています。デジタルビデオとしての商用化ですと1980年ごろのソニーのハンディカムってことになりますかね。

6. 化粧品

エジプトの女王、クレオパトラは化粧をしていたために、ローマの人たちをメロメロにしたらしいですね。化粧品というとざっくりしすぎですし、原始的な化粧は有史以前からやられていたってなことで、発明はいつかわからないですけれども、これは入れておきたいと思います。医療用の化粧などもあり、亡くなった方への化粧もある。人が自信と尊厳をもって生きていく上でも欠かせませんな。

7. 電波技術

電波を自由に扱う技術は、20世紀に花開きます。電信からはじまり、ラジオ、テレビ、デジタル無線技術などなどです。電波はレーダーや電子レンジにも利用されますし、医療にも使われることがあります。ちなみに電波そのものは発明ではなく発見ですが雷から見つかり、1888年に人工的に電波を発生させるのをヘルツが行って、そこから一気に実用化へと突き進みます。電波については、どこでもサイエンスの86回「天文学研究のため、レンジは使わないでください」もご参照くださいませー。

8. ワクチン

医療関係のさまざまな発明は、健康で長生きするための数々のインパクトをもたらしてくれています。まあ、ノーベル賞に医学生理学賞というジャンルがあるくらいですから、むべなるかなですね。薬、たとえばペニシリンや衛生や栄養についての考え方、ビタミンとか注射器、消毒方法などいろいろございますが、代表してワクチンをあげておきます。これによって、大勢が亡くなったり、重大な障害を引き起こしたりする、非常に危険なパンデミックな多数の病気を押さえ込むことができているわけです。ワクチンによってほぼ鎮圧された病気もあり、億人単位の人を救っているんですな。最初のワクチンは1796年、イギリスのジェンナーによる天然痘ワクチンですね。その後、コレラ、ペスト、破傷風、狂犬病、結核、麻疹、インフルエンザ、肝炎などのワクチンが登場していますね。

9. 録音・再生技術

最初にどこかの博物館で10大発明の展示があったと書きましたが、そこからもれていたもので、誰かが「ipod」とつぶやいていたのを思い出しました。録音・再生ができることで、音を他人に正確に伝える、音楽家がいなくても音楽を楽しむ、といったことができるようになりました。レコードの発明は1877年のエジソンということになっていますが、まあ諸説あるようでございます。でも時期的にはそのころのようですね。録音できるようになってから、150年もたってないのねー。

10. ふかふかのベッド(コイルスプリングを使ったマットレス)

あ、拍子抜けしないでくださいよー。これの存在が、どれほどありがたいものか、原稿書きすぎで背中ばりばりのワタシは言ってもいいたりないくらいなのでございます。マットレスというのは、アラビア語のマトラ(寝っ転がる場所)から来ている言葉だそうです。袋にいろんな詰め物をして、そこに寝転がると楽ー! というところからきていて、まあ、紀元前にあったという話ですね。というか77000年! 前のマットレスが発見されている(スミソニアンマガジンのWebページ参照)のだそうです。アラビアからは十字軍を通じてヨーロッパに入ったとか、どこまで本当かよくわからない話がございます。

で、ワタシがいいたいのは、コイルスプリングをつかったマットレス。つまり、簡単にへたらない、かつ背中全体を均等に支えるマットレスですね。これは、1899年にジェームス・マーシャルという人が発明したマーシャルコイルが元祖のようです。そうなんやー、ありがたや。

さて、ここまで書いてきて「鉄道がない」「自動車は?」とか「人工染料がない」「原子力もあるやろ」「コンピュータを忘れている!」「インターネットもや」「チャックだって大切」「ペットボトルは?」「農薬」「化学肥料」「毒薬」「漁網だってある」「爆薬もだ」「紙」「ボールペン」「活版技術」「コピー機」「方位磁石」「地図!」「そうだミシン」「織機」「産業革命なら蒸気機関」「週休二日制」「年休制度(フランスで発明)」「それなら銀行」「民主主義」などいろいろ感想があろうかと思います。

はい、そうなんですね。世の中にインパクトをもたらした発明はたくさんあるのでございます。で、何をとりあげるかは、それぞれの自由だし、価値観によってよいのかなーと思うのですね。なので「夏休みの宿題に」どうですか? というわけなんです。ぜひ、みなさんの10大発明を考えてみてくださいませ。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。