この記事を読んでいるあなたは、どこかサイエンスが好きなんですよね? では、どうしてそうなったのか? 「原点」、ですなー。これは、もう人それぞれなので、東明ごときが想像してもしょうがありません。ということで「どこでもサイエンス連載100回突破記念」として、そんな原点を、サイエンス好きを越えて仕事にしているみなさまに聞いてみました。で、なんだかばらつきが少ないので、そんなハズではと思っているのですが。

サイエンスを仕事にしている人といえば、科学研究者、エンジニア、農業、職人、医療関係者、コンピュータ関係者、理科などの先生、理系書籍やWebサイトの編集者、ライター、SF関係者など、まあ、いろいろでございます。で、どうしてそういう、理系な進路をとったのかというと、家業を継ぐとかでなければ、たいていは「まあ、そっちの方が好きだったし」という声がよく聞こえてくるのでございます。

で、そのなかで極北と思われるのが、20世紀を代表する物理学者、アルベルト・アインシュタインですね。そう、あの相対性理論を提唱し、世界が喝采の喜劇王チャップリンをして「誰もあなたを理解できないので、あなたは世界から喝采を受けている」といわしめた、アインシュタインでございます。

このアインシュタインは、なぜ、科学の人になったのでしょうか。その最初のきっかけは、4歳か5歳のときに父親に見せられた方位磁石なのだそうです。目に見えない力が物を動かす現象に魅了されたから。なんだそうですね(ミチオ・カク「アインシュタイン」WAVE出版より)。

では、この「アインシュタインの方位磁石」にあたるものは、なんなのか? を色々な人に聞いてみました。まずは、マイナビニュースの宇宙ジャーナリストの双璧。大塚さんと鳥嶋さんでございます。

大塚実さん「私はボイジャー探査機でしたね。鮮やかな惑星の撮影画像に圧倒されました」

鳥嶋真也さん「学研の「科学」を読んでいたことや、小学2年のときの担任の先生が科学好きだったこと、そのころに多くの自然に触れたり、天体望遠鏡で木星や土星を見たことなど…」

ボイジャー、学研の「科学」、天体望遠鏡で木星と土星、科学好きな先生、自然に触れた、とでてまいりました。

ボイジャー探査機は、1977年に打ち上げられ、40年たった2017年現在も運用が続いている! という、惑星探査機ですね。超高速で木星や土星の脇をすりぬけながら観測をするため、自在に向きを変えられる高感度カメラが搭載されました。ちなみに、解像度はモードによって違いますが、最大で800×800ピクセルでした。それまでの探査機より格段な高解像度+多色フィルターでカラー写真が撮影できた。というわけで初観測多数の映像の新鮮さ+鮮明さのダブルアタックで衝撃だったんですなー。

太陽圏を脱出するボイジャー1号のイメージ (C) NASA/JPL-Caltech

学研の「科学」は、1年の科学、2年の科学…とある学年雑誌ですね。1957年に創刊し、2009年に休刊しています。この「○年の科学」の付録は、プラスチックをつかった教材で「望遠鏡」や「顕微鏡」「化学実験セット」などがありました。マイナビ出版のIT技術書編集の山口さん、あとで登場するSF作家の小川一水先生もやはり「○年の科学の購読」をあげています。うち山口さんは、そして「高学年になったら「天文ガイド」を買い上野科博の友の会に入りました」とのことでした。

ところで、この"天文ガイド"は、誠文堂新光社の月刊天文雑誌です。同社が古くから刊行している「子供の科学」からわかれた中学生~大人向けの専門誌ですね。宇宙飛行士試験に何度かチャレンジし、最終選考まで行った実力者5thstar管理人さんも、"天文ガイド"をあげています。氏は「とある田舎町」で育ったとのことですが、父親の書斎から"天文ガイド"を発見したとのこと。小学校2年生といいますから、結構難しかったはず。母親に読んでもらって…というエピソードがメルマガに紹介されています。…父の本か、父の本といえば…やめとこ。

一方、元研究者で物理専門書の翻訳も多数されている樺沢宇紀さんは「特に明確なきっかけのようなものはありません。子供の頃のことでいえば、親がわりあい、科学系の学習漫画なんかを買い与えてくれたこと、小学校の担任で、SFが好きで紹介してくれるような人がいたこと、などに影響されているかもしれません」と教えてくださいました。このSFと学習漫画、小学校の環境は、人気SF作家の小川一水先生も「児童向けSFが好きだった、小学校が比較的理科教育に好意的だったなど、あと、学研の「○年の科学」とひみつシリーズ」とあげています。

ここで登場する学習漫画ですが、欧米の書店ではそういうのを見た記憶がないので、わりと日本・韓国の文化なのかしらん。理系では学研の「ひみつシリーズ」がベストセラーですね。その前に集英社の「なぜなぜ理科学習漫画」もありますね。また、いま書店にいくと韓国発の「サバイバル」シリーズがならんでいます。インドネシアなどでも人気だそうですね。このうち、小川先生もあげていた「ひみつシリーズ」は私も夢中になっていましたよ。特に「宇宙のひみつ」「恐竜のひみつ」ですね。

SFで開眼した方もいらっしゃいます。先ほどの小川先生は「児童向けSF」とおっしゃっています。少年少女世界SF文学全集とか、そんな形ででていたものですね。古典のジュール・ヴェルヌ、ウェルズ、アイザック・アシモフ、バローズ、E.E.スミス、ハインライン、アーサー・C・クラーク、光瀬龍などが浮かびますね。学校図書館で江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズとならんで人気だった記憶があります。小川先生の世代だともうちょっと後の作品かな。

また、宇宙クラスタの「はいてんしょん」こと武田誠さんもアシモフのSF「ファウンデーション」シリーズをあげています。銀河英雄伝説などに影響を与えたといわれた作品です。私はというと、ジュール・ヴェルヌの全集ですが、どっちかというと冒険ものとして読んでいた気がします。科学的冒険。それが心を掴むのですよね。

また、アイザック・アシモフといえば、SF作家と同時に、社会批評家とか科学解説者としても活躍した人です。まあ「ロボット3原則(ウィキペディアではロボット工学三原則)」の提唱者として有名ですね。これが提唱された「I,Robot(邦題:われはロボット)」は、そのまんまロボット掃除機のルンバの製造販売元の社名ですな。まあ、ちょっと意識したってくらいみたいですけど(iRobotのiは、internetの"i"だと言っていますね)。お医者さんで医療の普及書も書かれている、なとろむさんは「アシモフの科学エッセイ」をあげられています。あんなエッセイ書けたらなぁ、とあこがれる名エッセイ集ですね。

あと、テレビ番組をあげた方もいらっしゃいます。平塚市博物館の学芸員である塚田さんはNHKの「銀河宇宙オデッセイ」を。先ほどの武田さんと、会津大学の先生である寺薗淳也さんは、朝日放送系で放送された、アメリカのテレビ番組「COSMOS」をあげています。惑星科学者であり、ピュリッツァー賞をとった異才カール・セーガンをキャスターにした宇宙紹介番組ですね。教養番組なのに視聴率が10%を越えていたというお化け番組でした。

ところで、ここまで紹介してきて「アインシュタインの方位磁石」のような「モノ」をあげた方がいないことに気がつきました。あえていえば、寺薗先生が「地図が好きで夢中になっていた」と語ってらっしゃいますが、「電子ブロック」とか「ラジオ工作」とか「時計分解して遊んだ」とか「砂鉄」とか「積み木/ブロック」とか「マッチ」とか「望遠鏡」とかそんなものがでてきていませんねー。あの宮沢賢治は石に夢中になっていたそうですが、いや、聞き方がわるかったかな。科学、理科的な「思い出の品」ってなんですか? という質問の方がよいかな-。

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著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。