ライセンス生産の事例いろいろ

装備品の導入に際し、開発・製造元とは別の企業がライセンス生産した事例としては、F-15Jを初めとする航空自衛隊の一連の戦闘機が知られている。戦闘機だけでなく、自衛隊の航空機にはライセンス生産の事例が多い。ただし、調達数量が少ない場合は完成機輸入、またはノックダウン方式による国内組み立てで済ませることもある。

実は米国でも、海軍で使用している76mm艦載砲・Mk.75がライセンス生産されている。この艦載砲はもともと、イタリアのOTOメララ社が開発した製品だが、米国ではFMC社(現在はBAEシステムズ社)がライセンス生産した。同じ艦載砲を海上自衛隊でも使用しているが、こちらは日本製鋼所がライセンス生産した。

イタリア・OTOメララ社製の76mm艦載砲。米国や日本では、自国の企業にライセンス生産させた。(Photo : US Navy)

独自製品が製造元のイギリスに里帰りしたハリアーII

装備品を輸出する際、相手国の希望によって現地でのライセンス生産を行う時は基本的にオリジナルと同じものを生産する。ところが、出来上がったものを使ってみたら不満が出てきたなどの事情から、独自に改良を施して、オリジナルから離れた発展を遂げる事例があり興味深い。もちろん、こうした改良は原則として、オリジナルの製品を開発したメーカーの了解を取った上で行う。

その一例が、マクドネルダグラス(現在はボーイング)のAV-8BハリアーIIだ。もともとハリアーはイギリスのホーカーシドレー社(現在はBAEシステムズ)が開発した垂直離着陸戦闘機で、2009年に、英空軍に就役してから40周年を迎えている。

このハリアーに目を付けたのが米国の海兵隊だ。海兵隊は言うまでもなく、海から敵地に上陸作戦を仕掛けるのが本業である。長い滑走路を確保して航空機を運用できるとは限らないし、海軍の空母を常にアテにできる保証もない。その点、垂直離着陸機なら滑走路がいらないから、空地に穴あき鉄板かアルミマットでも敷いてしまえば運用できる。

米国ではAV-8Aハリアーという名称で採用した。調達数が110機と少なかったためにライセンス生産は構想で終わり、例外的にイギリスから完成機を輸入している。

面白いのはここから先だ。マクドネルダグラス社が独自にハリアーの主翼や胴体などを改設計して、オリジナルよりも性能の良い機体を作ってしまった。これがAV-8BハリアーIIだ。しかも、このハリアーIIはハリアーGR.5という正式名称で、イギリス空軍でも採用された。つまり米国に渡って発展した機体がイギリスに里帰りしたわけだ。

もちろん、ハリアーの開発元であるイギリスが、米国からハリアーIIを輸入するわけにはいかないから、ハリアーIIをイギリス軍の要求に合うように手直しした機体をイギリスで製造している。

米海兵隊のAV-8BハリアーII。オリジナルのハリアーと比較すると、主翼や胴体の外見に違いがあり、性能が向上している (Photo : DoD)

アラブ諸国からミラージュVの輸出を阻まれたイスラエルが取った手は?

このように、他国で生産された機体がオリジナルから離れて独自に発展した事例はほかにもある。日本では、海上自衛隊のSH-60J対潜ヘリを独自で機体の大型化やローター・ブレードの新型化といった改良を施した、SH-60Kという機体がある。

海上自衛隊のSH-60対潜ヘリ。日本ではオリジナルのSH-60Jに続いて、独自の発展型としてSH-60Kを開発・製造している(筆者撮影)

もう1つ興味深い事例に、イスラエルのIAI(Israel Aircraft Industries Ltd.。現名称はIsrael Aerospace Industries Ltd.)社が製造したクフィル戦闘機がある。

イスラエルはフランスのダッソー社が開発したデルタ翼戦闘機・ミラージュIIIを採用して、第三次中東戦争で大活躍させた。ところが、そのミラージュIIIを気に入ったために発展型のミラージュVを発注したところ、第四次中東戦争の際にアラブ諸国が「イスラエルに兵器を売るな」と圧力をかけた。

中東諸国からの石油輸入に依存していたフランスは、背に腹はかえられず、ミラージュVの対イスラエル輸出を取り止めて、すでに作ってしまった機体は自国の空軍で採用した。ちなみに、その一部がフランス空軍を退役した後でチリに輸出されて、さらにチリ空軍で退役した後にエクアドル空軍が買い取ることになったそうだ。

閑話休題。
そこで困ったのがイスラエル空軍だ。第四次中東戦争では旧ソ連製の地対空ミサイルが猛威を振るい、そのせいで多数の戦闘機が失われたため、戦闘機は1機でも多く欲しい。そこでイスラエルは自国でミラージュVの生産に乗り出した。その際、正規の手順を踏んでライセンス生産を行ったという説と、フランスにスパイを送り込んで図面を盗み出したという説がある。

ともあれ、このイスラエルはネシェルという名前で、自国製のミラージュVをこしらえてしまった。さらに、そのエンジンを、F-4ファントムと同じゼネラル・エレクトリック社のJ79に換装して、オリジナルよりも性能の良い機体を作った。これがクフィルで、イスラエルのほか、コロンビア・エクアドル・スリランカでも使われている。

さらにややこしいことに、クフィルは米国でも使われている。米国海兵隊が適当な仮想敵機を探した結果、イスラエルからクフィルをリースして、F-21Aという名称で採用したからだ。すでにリース期限が切れて米軍での運用は終了しているが、ATAC (Airborne Tactical Advantage Co.)という民間企業が、米軍に対する訓練支援としてクフィルを飛ばしている。どうやら、複雑怪奇なのは欧州情勢だけではないらしい。

こうした事情により、クフィルは「フランスの設計図でイスラエルが製造して、そこに米国製のエンジンを搭載した戦闘機」というややこしい構成になっているのだが、このことが、クフィルの対外輸出に際して制約要因になっている。その原因になった武器輸出管理制度も、おいおい取り上げたい。