前回はF-35の話に絡んで、国際共同開発・生産プログラムに参画することのメリットと注意点をまとめてみた。ところが現実には、どこの国も国際共同開発・生産に舵を切っているかわけではない。そこで、国際共同開発・生産の話からはいったん離れて、最近になって世界の武器輸出市場で存在感を増している新興武器輸出国の事例を見てみよう。

新興武器輸出国における防衛産業の育成

防衛産業に限ったことではないが、新しい産業を立ち上げて、さらに輸出までしようということになれば、相応の開発力・生産力と、競争力を備えた商品が必要である。それを実現する際の一般的な方法は、以下のような流れになる。

  1. 自国の装備調達案件に際して、海外のメーカーを対象とするコンペティションを実施する
  2. その際に、技術移転や現地生産といった条件を盛り込む
  3. それによって基盤を作ったら、自国向け、さらに輸出向けの製品を開発・製造する

ところが、こうした流れによって防衛産業の育成を図り、新たな輸出産業の柱に育てて万々歳……と簡単に話が進むかというと、そうでもない。

まず、製品自体の競争力の問題がある。欧米諸国の大手メーカーに伍してハイエンドの製品を手掛けようとすれば、開発力やノウハウの問題が出てくる。技術移転を受けたとしても、それだけで解決する問題ではない。

もっとも、自社の製品ラインアップの穴を埋めるために他国のメーカーを支援するケースはある。例えば、BAEシステムズ社がサーブ社と組んでグリペン・インターナショナルを設立、JAS39グリペン戦闘機の売り出しに乗り出したのは、グリペンをタイフーンの下位製品として売れるという思惑があったためだ。

JAS 39 Gripen B in ETPS Colours 写真:SaaB

ところが実際には、タイフーンとグリペンがガチンコ勝負する場面ばかりになってしまった。そのせいか、BAEシステムズ社はグリペン・インターナショナルから手を引いている。

また、すべてのコンポーネントを自国製でまとめることができない点は新興国の泣き所である。例えば、機体を自国で製造したとしても、エンジンや電子機器が他国製であれば、輸出に際してエンジンや電子機器の供給国から許可をとらなければならない。それが実現できなければ輸出そのものが頓挫する。

かといって、質より価格で勝負に出ようとすれば、どことは言わないが、相手かまわず安物を売りまくる国との競争になってしまう。それは体力勝負の消耗戦であり、できれば避けたい。

そして、無節操な商売をしていると、国際社会からの非難を浴びるリスクにも直面する。輸出するモノと相手国によっては「独裁政権の民衆弾圧に手を貸した」と非難されることもある。だから、武器輸出管理の体制作りという課題にも直面する。

韓国とトルコの防衛産業戦略、ブラジルにも注目

新興武器輸出国として注目したいのは、韓国とトルコである。いずれも、自国で主導権を発揮できる分野に的を絞って輸出促進を図る傾向がある。

韓国では、KAI(Korea Aerospace Industries)社がロッキード・マーティン社の支援を得て、超音速練習機「T-50」と派生型の軽戦闘機「FA-50ゴールデンイーグル」を開発した。現時点で輸出が決まったのはインドネシア向けの16機だけだが、輸出商談の獲得に成功したのは紛れもない事実だ。

ただし韓国政府の動向を見ていると、航空機よりも艦艇に重点を置いているように見受けられる。インドネシア向けに潜水艦の輸出を決めたり、既存の潜水艦のアップグレード改修を受注したりしている実績もある。もともと韓国では造船業が盛んで、航空機よりも自国で主導権を発揮できる事情が背景にあるためと考えられる。もっとも、潜水艦について言えば、ドイツのメーカーが設計した艦をライセンス生産しているのだが。

意外な話を1つ紹介すると、フランス海軍に加えてロシア海軍への輸出が決まったミストラル級揚陸艦。これはフランスのアトランティーク造船所(Chantiers de l'Atlantique)で建造しているが、実はこの造船所、韓国のSTXグループ傘下である。

ミストラル級揚陸艦 写真:DCNS

一方、軍用車輌に主軸を置いているのがトルコだ。日本ではあまり知られていないが、トルコにはオトカル(Otokar)やFNSSなど、装甲戦闘車両を手掛けているメーカーが複数存在する。すでにいくつも輸出商談を獲得しているのだから侮れない。ただし、戦車の開発となると自国だけでは手に余るようで、そこで、なんと韓国メーカーの協力を受けているのだ。また、トルコは韓国からK9サンダー自走榴弾砲を輸入した。

そのトルコには、電子機器を手掛けているアセルサン(Aselsan)や、その名の通りにロケット・ミサイル関連製品を手掛けているロケットサン(Rocketsan)などの防衛関連企業もある。

韓国にしろトルコにしろ、自国で主導権を発揮できそうな分野では積極的にメーカーの育成を図る一方で、それ以外の分野では輸入あるいは海外メーカーとの協力で済ませるといった具合に、場面に応じた使い分けを行っている。重点分野を絞り込んだうえでの、防衛産業育成戦略というわけだ。

外国からの技術移転をテコにして自国の産業育成と輸出促進を目指しているという点では、ブラジルやインドにも注目する必要がある。まだ実績には乏しいが、ブラジルはリージョナル旅客機の有力メーカー・エンブラエル社を擁しており、同社が軍用輸送機KC-390の開発を進めている点に注目したい。

KC-390の機体はブラジルで開発・製造するが、コンポーネントの製造や供給で複数の海外メーカーを引き入れている。ちなみに、同機で使用するエンジンはIAE(International Aero Engines)のV2500だが、これはもともと、日本のメーカーも参画して開発・製造している旅客機用エンジンである。