過去2回にわたり、軍の装備品を別の国売却する中古品取引の概要について説明した。ただ、モノがモノだけに、普通のビジネスとは異なる部分も当然ながら存在する。その際たるものが、武器輸出管理であろう。
中古品も武器輸出管理制度の対象
本連載の第16回~第19回で、武器輸出管理制度を取り上げた。殺傷力があり、しかも政治的色彩も濃い「商品」なので、誰もが好きな相手に好きなように売ってよいというわけにはいかず、国による規制が必要である。
これは新品でも中古品でも同じだ。まして、用途廃止になった軍の装備品を他国に売却することは、国民の血税を使って購入した国家資産を売ることを意味するため、いい加減に扱うことはできない。
そのため、中古でも新品と同様に武器輸出管理制度の下、然るべき当局から輸出許可を取り付ける必要がある。そもそも軍の物品を売りに出すわけだから、軍が関わらないわけにはいかない。しかも軍にとっては、不要になった装備品を売却することで利益が上がれば、それを収入に加えることができるメリットもある。
そのため、イギリスのように、国防省麾下の調達・サポート担当部門、DE&S(Defence Equipment and Support)でDSA(Disposal Services Authority)という仕組みを用意して、中古品の売却をサポートする枠組みを整えている例もある。何しろ、「英軍放出品を扱うWebサイト」まで用意しているのだから念が入っている。小さなモノでは軍服、大きなモノでは船艇・航空機・車両まで掲載されている。
ただし、中古の武器については前述したように、武器輸出管理制度の対象になるから、相手を選ぶ。英海軍で退役した軽空母「アーク・ロイヤル」の買い手として中国の関係者が名乗りを挙げたというニュースがあったが、よしんば高い価格を付けたとしても、英国防省は首を縦に振らないであろう。
中古と新品の競争
日本では時々、「海上自衛隊で退役した護衛艦あるいは海上保安庁で退役した巡視船を、海賊対策などで艦船を必要としている国に輸出してはどうか」という議論が持ち上がることがある。これ自体は筋の通った話なのだが、中古だろうが新品だろうが、武器輸出管理制度の問題、あるいは納入後の維持・サポートに関する問題は同じという点に留意する必要がある。
たとえ中古であっても、新品と同様に国が審査して輸出許可を出す仕組みを整える必要があるし、メーカーにとっては納入後のサポート体制や要員の訓練体制まで用意する覚悟が要る。また、外国製の機材を搭載している場合は、製造元の国からも輸出許可をとる必要がある。場合によっては、そうした製造元の国と輸出先の国が対立関係にあり、輸出許可が下りなくて話が壊れる事態も考えられる。
逆に言えば、きっちり覚悟を決めて輸出管理・販売・サポートなどの体制を構築することは、単に中古品の売却で新たな商機ができるというだけでなく、日本と売却相手国における政治的・軍事的関係の緊密化という観点から見ても大きな意味がある。もっとも、これは新品の輸出でも同じことだが。
ただし、そこで問題になるのが「中古と新品の競争」である。どことは言わないが、世の中には「性能がとりたてて優れているわけではないが、そこそこの性能のものを安価に売りまくる」という形で武器輸出に精を出している国が存在する。
そういう国が売り出す新品と、日本、あるいは欧米諸国が売り出す中古と比較した場合、中古だからといって価格競争力があるかというと、そうとは言い切れない。ヘタをすると、中古品の方が高くつく可能性すら存在する。そう言えば、PCなどの世界でもヘタな中古品より新品の方が安いというあべこべ現象が発生していることがある。それと同じだ。
もちろん、これが問題になるのは買い手が価格重視の場合であり、「既存のものと同じ装備を買い増したいのだが、新品が手に入らない」というようなケースでは話が違うが。
しかも、中古品が売れるということは、その分だけ新品の市場規模が小さくなるということである。それでも他国のメーカーに仕事をさらわれるよりはマシだが、メーカーとしては中古品より新品を売りたいところだろう。
損傷した装備の修復
戦争状態にある国では、同じ国の中で新品と中古品の角逐が発生することがある。といってもこの場合の中古品とは、「戦闘で損傷した装備を再生補修したもの」のことである。
意外に思われるかもしれないが、戦闘で損傷したからといって、気軽にポンポン用途廃止にして新品に交換できるわけではない。直せるものは直して使う。ただし、航空機は損害を受けるとそのまま墜落してしまう場合が少なくないので回収も修復も不可能ということになりがちだが、艦艇や車両の場合には話が別だ。
特にアメリカでは、イラクやアフガニスタンで長いこと実戦を続けているので、そこで損傷した車両を修復して新品並みの状態に戻す、いわゆるRESET作業の需要がかなり発生している。ただし新品を量産するのと異なり、修理のほうが手間がかかる。損傷の内容や度合はそれぞれ異なるので、個別に状況を評価したうえで、どのように修復するかを決めて実行しなければならないからだ。
しかも、損傷した装備を修理して再使用するということは、それだけ新品の需要が減るということである。メーカーにしてみれば、何も仕事がないよりマシだが、新品をワッと量産するほうが利益を出しやすいのではないだろうか。