攻撃側と防御側が能力を競い合うことによる無限ループ、いわゆる「矛盾」の話は有名である。だがこれに限らず、安全保障、あるいはもうちょっと対象を狭めて武器が絡む問題に限定した場合のいずれにおいても、矛盾する要求の中でジタバタするような話はいろいろある。
売るに売れなくて商機を逃す?
そもそも、武器輸出というビジネスそのものに根本的な矛盾がある。売り込みのためには、競合製品と比べていかに優れているかをアピールしなければならない。そうしなければ、競争に勝ち残ることができない。また、前回の文末で述べたように、武器輸出は相手国に対する自国の影響力を増すことにもつながるので、そうした効果を得るためにも受注獲得が必要である。
ところが、いざ受注を勝ち取れば、その優れた製品が他国の手に渡るわけだから、見方によってはライバルが増えることにもなりかねない。だからこそ、武器輸出管理制度というものがあって、輸出する対象や相手国を選別したり、用途などに制約を加えたりするわけだ。
さらに、単純な完成品輸出ではなく、技術移転による生産参画、ライセンス生産ということになると、ますます矛盾の度が深まる。いくら同盟国だといっても、自国で多額の資金と頭脳を投入して開発したテクノロジーやノウハウをあっさり開示してしまったのでは、回り回ってライバルを増やす事態になりかねない。これは、自国でキー・テクノロジーを握っておいて国際共同開発、あるいは海外大手のサプライチェーンに割って入ろうとする場面にも同じことが言える。
これは武器輸出に限った話ではない。買い手の立場が売り手と比べて相対的に強い場合に、それを利用して技術移転などの条件を引き出そうとするのはよくある話だ。その結果として、「ライバルを増やして、自分で自分の首を絞めてしまった」なんていう話は少なくない。ちょうど最近、どこかの業界で話題になっているようだが。
航空自衛隊が恋い焦がれていた(?)F-22Aラプターを手に入れられなかったのも、米議会が同機の海外輸出を禁じる条項を定めている点に根本原因がある。大統領や国防長官が交代して個人的な考え方に違いが生じたとしても、肝心の議会が納得して件の条項を撤廃しなければ輸出は実現しない。そこのところを勘違いしている人が少なくないようだが。
優位を確保するための規制が商機を逃す原因に
「コストダウンや開発費の回収、影響力行使のためには輸出を実現したい」「でも、自国の優越維持やライバル増加のリスクを考えると二の足を踏む」という矛盾した条件の間で悩むのは、いずこの業界も同じことだろう。その問題が浮き彫りになったのが、インド空軍の戦闘機調達案件「MMRCA(Medium Multi-Role Combat Aircraft)」だ。
F/A-18E/Fスーパーホーネット(ボーイング、米)、F-16IN(ロッキード・マーティン、米)、タイフーン(ユーロファイター、英独伊西)、ラファール(ダッソー・アビアシオン、仏)、JAS39グリペン(サーブ、瑞)、MiG-35(RAC MiG、露)の5機種が候補になっていたが、現時点で候補に残っているのはタイフーンとラファールの2機種だ。いつもの手で、技術移転などで有利な条件を出したのは間違いないだろう。
そして、この結論が出た後で米国で出てきた指摘が、「武器輸出規制が受注の足を引っ張った」だった。もっとも個人的には、F-16INは同系列の機体を隣国・パキスタンでも使っていることから目がないだろうと思っていたが、問題はF/A-18E/Fである。
F/A-18E/Fの最大の売り物は、極めて高性能のレーダーだとされるレイセオン製AN/APG-79だ。ところが、このレーダーについては異常なまでにガードが堅く、メーカー関係者も米海軍の関係者も、性能に関して完璧に口をつぐんでいる。それどころか、アンテナの外見が鮮明にわかるような写真すら出てきていない。
一説によると、インドで評価試験に供した機体はAN/APG-79ではなく、古いAN/APG-73を装備した機体だったというのだが、真偽のほどはわからない。ともあれ、このレーダーに関するガードの固さが結果として、最新のレーダーに関する技術情報を求めたインド側の要求と合わず、受注を取り逃がす結果になったのではないかと指摘されているわけだ。
自国の中だけで完結していれば、こうした問題は起こらない。ところが、規模の経済を求めて他国が関わってくると、矛盾する要求の狭間で苦労することになる。その問題をますます深刻にしそうな話があるのだが、その話は次回に。