前々回・前回と2回にわたり、防衛産業界の生存に不可欠な他国に対する武器輸出、それが後になって問題化する事例、そうした問題の回避策になるのかならないのか怪しい民生転用について触れた。

後で書くように、武器輸出は「武器だから」「民生品だから」という線引きで判断できるほど単純な問題ではないのだが、輸出の可否や輸出先の選別に口を出せるのは、基本的に当事者だけである。外部から口を出したり圧力をかけたりしようとしても、よほど何か強力なカードを持っていない限りは不可能だ。

輸出側にどこまで責任を問えるのか?

そもそも、過去に輸出したものが後から民主化運動の鎮圧に使われたからといって、どこまで責任を問えるのかという問題があるのではないだろうか。前回に取り上げたドイツのサウジアラビア向け戦車の輸出問題は、直近になって輸出を許可する政策転換があったので、また話が違うが。

さらに言えば、純然たる民生品でも軍事転用のおそれがあるとして規制対象になっている品目はたくさんある。だから、単に「軍用品」「民生品」というくくりで可否を判断するだけでは、「輸出によって "手を血で汚す" ことがないように」という願望を達成することは無理である。なぜなら、問題は「名目」ではなく、「実際にどう使われるか」だからだ。

輸出を許可した時は「民主的な体制だから問題ない」と判断できた国が、後になって体制の変化により強権的な国に化ける例は少なくない。また、フセイン政権時代のイラクみたいに、過去は味方扱いされていたものが、何かの拍子に急転して敵国扱いになってしまった例もある。

現在だけならともかく、数年、十数年以上も先のことまで見通して輸出の可否を判断しろというのは、よほど出来のいい水晶玉かさもなくばタイムマシンでも持っていないと不可能である。武器輸出に限らず、資源や各種産品の輸出入、経済協力・経済援助、人的交流など、国家間の関わりには必然的について回る問題だ。

最近でこそ警戒の目で見られる場面が多くなった中国もそうで、天安門事件でガラリとひっくり返ったが、冷戦期にはソ連に対抗するための心強い味方と見なされていたのだ。

口を出すには当事者になって関わる必要がある

煎じ詰めると、「売ってよい相手」「売ってはいけない相手」「売る際の管理制度」「売った後の監視体制」をきちんと整備できるかどうかが問題なのである。そういう意味ではむしろ、最終使用者証明や用途制限といった仕組みを盛り込むことができる武器輸出のほうが、民生品の輸出よりも厳格かもしれない。

もっとも、これが正論であったとしても納得しない人がいるのは仕方ないし、相手が最終使用者証明や用途制限を遵守しないこともあるわけだが。こうしたことを踏まえると、「単に紙の上で制限を課すだけでなく、物理的な制限を課すことはできないか」という考えも出てくる。

ちょうど先日、Twitterで武器輸出についてやり取りしていた時にも出たのだが、例えばスペアパーツの供給停止や派遣していたサポート要員の引き上げとかいう話である。ことに最近のハイテク製品は、整備や部品の交換をきちんとやらないとたちまち使えなくなるから、こういう状況が足を引っ張る形になりやすい。

そうなると、日本が重要なキー・テクノロジーを握った状態で他国との共同開発・共同生産に参画した場合、そのキー・テクノロジーの輸出を認めるかどうかで、第三国向けの輸出やその後のサポート体制に影響力を行使できる。第46回で取り上げたSM-3の事例が典型例と言える。

実は民間機の分野では、日本メーカーが欧米メーカーとコネクションを持っている例が案外と多い。有名なのはボーイングで、最新鋭のB.787ドリームライナーでは主翼や胴体の一部など、従来にない高い比率で日本メーカーが生産に関わっている。そしてボーイングだけでなく、他のメーカーともいろいろ組んでいる事例がある。

ボーイングの「B.787ドリームライナー」

こうした既存の関係を防衛産業分野にも拡大して関わりを深めることで、逆に口出しを可能にするという考え方もまるっきり否定できるものではない。

武器輸出に付随する重要なポイント

さらに書き添えておくと、「武器輸出は単なるビジネスではなく、相手国との政治的関係を作ること」という視点も忘れないでおきたい。もちろん、量産効果による調達価格の低減や産業基盤の維持も重要な課題だが、それだけでなく、外交の手段として考えることも必要である。

武器輸出の場合、輸出した後もカスタマーからのフィードバック、アフターサービスの提供、後日のアップグレード改修や延命改修といった形で長く付き合いが続くし、その過程でメーカーの人間や制服組の関係者がカスタマーと行き来する機会ができる。そうしたつながりを、自国と相手国の関係強化にどうつなげて、自国の味方を増やす形に持っていくか。そこまで考える必要があるのだ。