企業が生き残り、国家安全保障のために産業基盤を維持するには販路の開拓が必要である。既存の顧客がアテにならなければ新規開拓が必要だ。今回は、防衛産業界における昨今の生存競争に関する話をいくつか取り上げてみよう。
防衛産業には、政治的な影響の度合が大きいという特徴がある。国の外交政策が関わってくるだけに、「買ってくれるなら相手構わず」とはいかないし、売った後で物言いがつくリスクもある。お得意様だったはずの国がいつの間にか敵になってしまうこともある。
防衛産業の生存と中東民主化運動のトバッチリ
国の経済・税収・国防支出とも上り調子であれば、防衛産業基盤や複数の企業による競争体制を、自国内で維持するのは難しくない。しかし、経済が停滞、税収も停滞、国防支出は停滞どころか減少傾向となると話が違う。物事の歯車がすべて反対方向に回り出して、脱落するメーカーが続発する事態になり、産業基盤の維持が危ぶまれる。
第14回などですでに取り上げているように、自国で国防支出が切り詰められて需要が減ってしまうのであれば、他国に販路を求めることで穴埋めを図るのが基本的な考え方となる。そして、(日本のF-Xも含めて)どこの戦闘機調達案件でも同じような顔ぶれで激しい売り込み合戦を展開していることでおわかりの通り、世界のトップ企業が生存をかけた激しいマッチレースを展開中だ。
以前であれば、「ヨーロッパ諸国がダメなら米国で」という考えが成り立ったが、その米国まで国防支出の引き締めにかかっている昨今では、販路としては成り立ちにくい。そこで、インド、東南アジア諸国、南米諸国が熱い視線を集める状況になっている。
ところが、いくら商売とはいえ、売る相手を選ばないと大問題になるのが武器輸出の難しいところ。その典型例が、昨今の中東・北アフリカ情勢だろう。
中東・北アフリカ向けの輸出が大問題に
もともと、カダフィ大佐の体制になってから、欧米諸国はリビア向けの武器輸出を止めていた。ところが、カダフィ大佐が強硬路線を引っ込めたことで状況が変わり、対リビア武器禁輸措置も解除になった。以後、多額のオイルマネーを擁するリビアに対して、主としてヨーロッパのメーカーがさまざまな製品を輸出することになった。良いお得意様ができたわけだ。
そこに降って湧いたのが昨今の「中東・北アフリカにおける民主化運動」である。反政府運動に対して政府側が軍や警察を投入して鎮圧に出たときに、ヨーロッパ諸国で「うちが○○国に輸出した武器が鎮圧に使われているのではないか」といって問題化する事例が続発した。ヨーロッパ諸国の場合、普段から何かにつけて「人権」を旗印にして外交を展開しているから、なおのことである。
無論、武器輸出に際しては最終使用者証明書を提出させたり、場合によっては用途制限を課したりするものだが、当事者にしてみれば、体制が崩壊するかどうかの瀬戸際に、過去に提出した書類のことなどこだわってはいられない。
それでも、比較的短い間に体制崩壊につながったエジプトあるいはチュニジアでは、問題になったケースは少なかったが、体制崩壊に至っていないリビアでは話が違う。バーレーンのように、当事国だけでなくサウジアラビアやアラブ首長国連邦が政権側に加勢したケースでは、加勢した両国に対する武器輸出まで問題視される事態になった。
そしてドイツでは2011年の6月下旬になって突如、「ドイツ政府がサウジアラビア向けにレオパルト2A7+戦車の輸出を解禁していた」と報じられて大騒ぎになった。以前からサウジアラビアはドイツに対してレオパルト2戦車の輸出を求めていたが、ドイツ側が渋っていた経緯がある。それが実は、「200両の輸出を承認していて、そのうち44両は購入済み」なんていう話が出たから大変だ。
ただし、輸出許可を取り消せという声が出ているものの、実際に取り消しに至るほどの状況にはなっていない。人権問題を旗印にしている一方では、総額20億ユーロといわれる取引をパーにすれば経済的打撃につながる問題もあり、ドイツ政府・議会としても舵取りが難しいところだ。
正直言って、昨今の中東・北アフリカ情勢で得をしたのは、「反体制運動に活用された」といって宣伝になったFacebookぐらいではないか。おっと、これは防衛産業ではないが。