それを知っていただく狙いもあり、本連載では当初から海外事情を中心に取り上げてきた。そうやって伏線を張ってきたところで、いかにして日本の防衛関連産業基盤をつぶさずに維持していくかについて考えてみたい。
前回は、「今から日本の防衛関連企業が輸出で活路を見出そうとしても容易ではないだろう」という話を書いた。不愉快な気分になった方もいるだろうが、世界の武器輸出の現状を知っていれば安易に盛り上がれないのは確かだ。それを知っていただく狙いもあり、本連載では当初から海外事情を中心に取り上げてきた。そうやって伏線を張ってきたところで、いかにして日本の防衛関連産業基盤をつぶさずに維持していくかについて考えてみたい。
完成品の輸出がダメでも……
前回に述べたように、航空機、艦艇、装甲戦闘車両といった「完成品」をそのまま他国に輸出するのは、あまり現実的ではないと考えられる。そもそも、政府・与党が国防政策の大綱を改定する際、そんな狙いがあって「武器輸出三原則等の見直し」を言い出したわけではない。本来の目的は別のところにある。
それが、他国との共同開発プログラムに参加する道を拓くことだ。ライセンス生産の場合、すでに出来上がっているものについて図面を買い取って自国で生産する形になるが、共同開発・共同生産ではさらに一歩踏み込んで、開発段階から関わっていくことになる。そして、調達数に応じたワークシェアの配分を得て、それに相当する分を自国で製造するわけだ。
例えば、F-Xの候補になっているユーロファイター・タイフーンは、イギリス・ドイツ・イタリア・スペインの4ヵ国が共同で推進しているプログラムであり、各国が調達機数に応じたワークシェアの配分を受けている。ただし、それぞれの国で機体のすべての部品を製造するのでは非効率的だから、機体をバラバラに分割して、概ねワークシェアに見合った金額になるように各国に配分する形をとっている。
下の図を見るとわかるが、左右の主翼で製造担当が異なっている(左主翼はイタリアのアレニア・アエロナウティカ、右主翼はスペインのEADS-CASA)だけでなく、左主翼の前縁部だけさらに担当が異なるなんていう複雑怪奇なことになっているのも、ワークシェアに合わせて製造分担を決めたためだ。
こうして各国で製造した部品を組み立て工場に集めて、完成品に仕立てるわけだ。タイフーンでは各国に最終組み立てラインを置いているが、A400M(第4~5回を参照)ではスペインに集中している。
もっとも、プログラムへの貢献度に応じて製造を分担するのは理に適っているが、後になって調達数を減らすなんてことになると大騒動だ。これは国際共同プログラムに参画する際に注意しなければならない、リスク要因の1つと言える。
ドンガラだけでなく、アンコも問題
ここでいう「ドンガラ」は飛行機の機体、艦艇の船体、戦車などの車体といった「ガワ」の部分を意味している。これに対し「アンコ」は内部に搭載するセンサー、コンピュータ、兵装などを意味している。昨今のウェポン・システムでは、ドンガラの価格よりもアンコの価格のほうがずっと高く、それだけ商売として旨みがあるし、一方ではソフトウェア開発などに付随するリスクも大きいと言える。
実は、国際共同プログラムでもそうでなくても、ドンガラだけでなくアンコの部分まで視野に入れると、すでに多くのケースで「多国籍」だ。例えば、飛行機ではエンジン、電子戦装置、データリンク機器など、必要不可欠なコンポーネントが実は他国製ということが起きる。
そうした製品を輸出しようとすると、当事国だけでなく、搭載しているコンポーネントの製造国からも輸出許可を取らなければならない。国際共同開発計画への参画と武器輸出三原則等が関わってくるのは、こういう事情があるからだ。
実はF-Xの話を待たなくても、すでにイージスBMDでこのことが問題になりかけている。目下、日米では共同で次世代型のイージスBMD用迎撃ミサイル、SM-3ブロックIIAの開発を進めているが、もしも日本・米国以外の国にSM-3ブロックIIAを輸出しようとすれば、日本が開発・製造に関わる製品が第三国に輸出される形になる。ということは、武器輸出三原則等の話を避けて通ることができない。
しかも米国では、オバマ政権になって打ち出した「PAA(Phased Adaptive Approach)」により、ヨーロッパに配備する弾道ミサイル防衛用の迎撃ミサイルとして、それまで予定していた「GBI(Ground Based Interceptor)」に代わって陸上配備型イージスBMDとSM-3の組み合わせを利用することになった。このことが早速影響してくるわけだ。