今年1月13日、ヨーロッパ企業で構成する欧州ビジネス協会(EBC : European Business Council)が日本外国特派員協会で記者会見を開いた。EBCは、ヨーロッパの企業が日本でビジネスや投資を行う際の環境改善を目指して活動している。そのEBCが防衛・安全保障委員会を新設して、記者会見を開いた次第だ。
会見における主要テーマは「防衛産業界におけるコラボレーション」、早い話が国際共同開発を巡るものだ。どうして、このタイミングでヨーロッパの業界団体がこうした会見を日本で開いたのか? その背景は次回から詳しく取り上げていくとして、まずは今回の会見を簡単にまとめておこう。
国際共同開発の必要性とメリット
EBCの防衛・安全保障委員会で委員長を務めるアンソニー・エニス氏(BAEシステムズ 北東アジア総支配人)は、「ヨーロッパの防衛産業界には、類似するニーズを持つ国々が協力して共同開発を行ってきた実績がある」と語っている。
本連載の第4~6回で国際共同開発について取り上げているが、その多くがヨーロッパにおけるものだ。その背景には、1ヵ国では調達規模が小さく、高度化・複雑化が進む一方である装備品を開発・調達するのが困難になっている事情がある。それを解決するには、似たようなニーズを持つ複数の国が協力して開発・製造を行うことで、費用やリスクを分担するしかないというわけだ。
ヨーロッパにおける共同開発は、開発において大きな費用とリスクが発生する航空機やウェポン・システムが多い。これに対し、銃器・砲熕兵器・装甲戦闘車両の共同開発は少ないが、それは単価が比較的小さく、共同化のメリットが薄いためだろう。
もっとも、本連載の第4~5回で取り上げたA400M輸送機のように、関係各国の意思統一に手間取って「船頭多くして船がなんとやら」という状態になった例もある。それを考えると、共同開発を成功させるには、2~4ヵ国程度が適正規模と考えられそうだ。
ともあれ、EBCでは日本に対して、「ヨーロッパ企業は国際共同開発における豊富な経験がある」とアピールすることで、日本とヨーロッパの防衛産業界の間で対話・協力・連携関係を促進したいとしている。将来的に、ヨーロッパで行われる国際共同開発計画に日本のメーカーが参画することも視野に入れているのは、まず間違いないだろう。
ただしそれに際して、EBCは例の「武器輸出三原則等」の問題が足を引っ張っていることも認識しており、「日本政府が武器輸出三原則緩和について検討を進めることを歓迎する」としている。
狙いはF-Xだけか?
この記者会見が行われたタイミングは、防衛省がF-4EJファントム戦闘機の後継機、いわゆるF-Xの機種選定を担当するプロジェクトチームを発足させたニュースと符合している。以前から、BAEシステムズを窓口としてF-Xにユーロファイター・タイフーンを売り込んでいるのは読者の皆様も御存じかと思うが、今回のEBCの動きは、単にF-Xにおける受注獲得を目指すというだけのものではないだろう。
日米安保体制の下で米軍と連携するという観点から、自衛隊では「相互運用性の確保が必要」として米国製の装備品を導入することが多い。それに対し、もっとヨーロッパ企業の参入を促進したいという狙いがあるのだろう。
実際、記者会見の席では相互運用性に関する米国防総省の定義(The ability to operate in synergy in the execution of assigned tasks)を引き合いに出したうえで、「ヨーロッパでも米軍との相互運用性には配慮している。しかし、ヨーロッパでは独自に開発した装備がいろいろある」と説明していた。
つまり、EBCは米軍が保有する装備とのシナジー効果を発揮できるのであればOKで、「必ずしも『相互運用性 = 米国製装備の調達』という意味ではない、だからヨーロッパ製の装備品を調達することに躊躇する理由はない」と言っているわけだ。
ヨーロッパ諸国では目下、財政事情の悪化を受けて国防支出の削減を目指す動きが強まっている。しかし、軍事的能力の低下は国家の安全に関わる重大問題なので、解決策として研究・開発・製造・調達の国際共同化を強化しようとしている。そこに日本を取り込むことで、費用やリスクの分担、手持ちの製品・技術の相互活用といったメリットを狙っているのだろう。
では、ヨーロッパ企業が「共同開発に参加しませんか」とアピールしている日本の防衛産業界は、どのような状況に置かれており、どのような問題を抱えているのか。いささか気の重いテーマだが、次回からはこの問題について説明しよう。