昔から装備品の共同開発が盛んなヨーロッパ

そもそもヨーロッパ諸国では、昔から装備品の共同開発を行ったり、ある国が開発・調達した装備品を別の国も相乗りして調達したりする事例が少なくない。

各国の置かれている立場や運用環境が似ているため結果的に運用要求も似た内容になりやすい一方、単独では調達数量が少なすぎて経済的に引き合わないという事情がある。それであれば、「各国で別々に開発・調達するよりも、共同開発・共同調達の方が経済的」という理屈だ。

1980年代ごろまでの共同開発

また、共同開発ではなくても、ある国が開発した装備品を周辺諸国も一緒に調達する事例は結構多い。ドイツ製の戦車・レオパルト1やレオパルト2が典型例だろうか。すべてを挙げるとキリがないが、よく知られている共同開発の事例を挙げてみよう。

  • C-160トランザール輸送機(フランス + ドイツ)
  • ジャギュア戦闘機(イギリス + フランス)
  • トーネード戦闘機(イギリス + ドイツ + イタリア)

軍用機ではないが、超音速旅客機のコンコルドもイギリス・フランスの共同開発として知られている。

冷戦崩壊後の共同開発

1980年代頃までの共同開発事例の多くは2~3ヵ国で行われていた。ところが、冷戦崩壊後の国防予算緊縮化と装備品の価格高騰により、最近ではさらに多くの国が関わる事例が増えてきている。そうした共同開発の事例を以下に示す。

  • タイフーン戦闘機(イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン)
  • NH90汎用ヘリコプター(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ)
  • A400M輸送機(イギリス、フランス、ドイツ、スペインなど)

ところが、「船頭多くして船なんとやら」ではないが、関わる国が増えれば、それだけ計画をとりまとめるのは難しくなる。利害関係者が増えるのだから当然だ。要求仕様が国によって微妙に異なれば調整が必要になるし、生産に際しては各国への作業量配分をどうするかという問題が生じる。

一般的には、多くの数を調達する国の発言力が強く、作業量の配分も調達数に比例させることが多い。ところが、そうなると調達数が少ない国が「自分たちの意見を無視するのか!」と言い出して話が紛糾する。結果として、調達数の多寡に関係なく発言権を対等にしたり、全員が一致したりしないと話が進まない。それが裏目に出たのが「A400M輸送機」と言える。

珍しい大所帯の開発・生産体制「A400M」

A400Mは、ベストセラーの米国製輸送機・C-130ハーキュリーズよりもひと回り大型で、C-130と同様に短距離離着陸や不整地離着陸が可能な輸送機の開発を目指して、ヨーロッパ各国が共同で開発に乗り出した機体だ。

冷戦が終結してから、遠方に軽装備の平和維持部隊などを迅速に空輸する必要性が高まり、この種の輸送機を新品、あるいは中古で調達する国が増えている。我が国でも、川崎重工がC-1輸送機の後継としてC-2輸送機を開発しているところだ。

そこで問題となったのがA400Mだ。紆余曲折の結果、機体の基本構成や規模、開発・製造にあたる体制が決まり、2003年にエアバス・ミリタリーとOCCAR(Organisation Conjointe de Coordination en matiere d'Armement)が開発契約を締結した。契約は固定価格契約で、総額200億ユーロとなっている。固定価格だから、予定外のコストが生じれば、その分はメーカーの負担になる。

欧州7ヵ国が主体となって開発・製造を進めている軍用輸送機、A400M Photo:Airbus Military

この時点でのローンチ・カスタマーは、ベルギー、フランス、ルクセンブルク、ドイツ、スペイン、トルコ、イギリスの7ヵ国で、調達機数は合計180機となっていた。後にマレーシアと南アフリカが追加発注を行い、合計192機の受注に増えて現在に至っている。

チリもいったんは発注しそうになったが、諸般の事情により導入計画を中止している。また、イタリアはC-130の導入を決めて、早い段階でA400Mから手を引いている。