輸入に頼れなくなってしまったケース

そもそも、自国で防衛産業を育成して装備品の国産化を図る理由は、ハイテク産業としての牽引役を期待しているだけではない。外交関係の変化などから重要な装備品の供給が途絶えてしまうリスクに備え、装備品を国産化しておきたいという考えがあるからだ。

とはいえ、相応の産業基盤がなければ、武器などの国産化は実現できない。

各種の装甲戦闘車両、センサー、指揮管制装置などのコンピュータ、通信機器といった、ハイテク度の高い製品の国産化が難しいのは理解しやすい。ところが、銃器や銃弾などでも自国で作り上げるのは意外と難しい。命中精度も関係なく、単に弾が出ればよいというレベルならまだしも、一定の品質を保ちながら製品を量産するのは簡単なことではない。

となると、他国からの輸入に頼るしかない。ところが、何らかの事情により輸入が途絶えてしまう場合がある。供給元の国を敵に回してしまうというのは極端な例だが、以下のように、さまざまなパターンが考えられる。

  • 近隣国と交戦状態になり、その国の同盟国が自国の武器輸入元だった
  • 戦争に巻き込まれたら(または戦争を始めたら)「交戦当事国には売らない」と断られた
  • イラン、ソマリア、イラクのように、国連などから経済制裁を発動された
  • アパルトヘイト時代の南アフリカのように、政策が原因で制裁を発動された
  • 中国と台湾の関係のように政治的な問題が発生し、各国が輸出を躊躇してしまう

細かな事例を挙げ始めるとキリがないので、これぐらいにしておこう。要は、輸入に頼っていると肝心のところで困る可能性があるという話だ。

ギリシア神話でも、他の都市国家に占領された際に武器をすべて取り上げられて、武力で立ち向かうことができなくなった、なんていう話が出てくる。

アフガニスタンDEH DADI地区で作業する海軍の様子 Photo:U.S. Navy

国産化はしたいが、外資に牛耳られるのも困る

そうなると、何とか国産化を図っていくしかないが、技術もノウハウも設備もないところからいきなりやれといわれても難しい。装備品のハイテク化が進む一方の昨今なら尚更だ。手っ取り早い方法は「すでに技術や製品を持っている国から支援を受け、自国内に防衛産業を立ち上げる」ことだ。これは多くの国が通ってきた道で、日本も例外ではない。

現在よくある方法は、海外のメーカーに武器輸入の案件を提示し、オフセットの一環として自国への技術移転や生産ラインの開設(まるごと全体のライセンス生産や一部コンポーネントの生産など)を要求するというものだ。しかし、ここで矛盾が生じるので難しい。

自国内に防衛産業を立ち上げるには、外国の企業からの支援がいる。かといって、外国の企業が出資する子会社を自国内に作られては、自国の安全保障に関わる産業が外資の手に握られてしまう。この二律背反をどう解決するか?

そこで、ジョイント・ベンチャーを設立させるのはよくある手だ。新興国の防衛産業育成だけでなく、先進国同士でもよくあるパターンだ。「外資に牛耳られると困る」のは先進国も同様だ。

最近だと、インドでこの手の話が相次いでいる。なぜなら、インドを成長市場と見込んだ欧米の大手防衛関連企業が、インドで装備調達案件に応札する際に地元企業と連携するパターンが多いためだ。現実問題、装備の国産化を推し進めようとしているインドで商談を獲得するには、地元企業と連携して現地生産を提案しないと分が悪い。

ところがインド政府は、ジョイント・ベンチャーに対する外資規制とでもいうべき規定を敷いている。海外直接投資規定(FDI:Foreign Direct Investment)と呼ばれるもので、外国企業の出資比率を最大26%に制限している。すなわち、ジョイント・ベンチャーを設立しても資本の74%はインド企業が出し、それだけインド企業の発言力が強まる形になる。

ジョイント・ベンチャーを設立する際、外国企業とインド企業が政府に申請を出す。それを海外投資促進委員会(FIPB:Foreign Investment Promotion Board)が審査し、可否を決定する。ところが、出資比率がFDIの規定を満たしているにもかかわらず、申請が却下され、しかも理由が明らかにされないという不可解な事態がいくつも発生している。この場合、メーカーがジョイント・ベンチャーの設立を諦めたり、何度も申請をやり直したり、といった話になってしまう。

このFDIの「26%ルール」、上限を引き上げる話が出ては消えている。最近、インド政府関係者が「欧米の防衛関連企業のテクノロジーにインドがアクセスできるようになるなら、出資比率の上限を引き上げてもよい」と発言したと伝えられている。自国の市場と技術情報へのアクセスを取引しようというわけだ。

作ってみたら経営難に

民間の製造業があまり発達していない国ではジョイント・ベンチャー方式は採用しにくいため、国営の航空機メーカーや造船所などが設立される場合もある。民間企業がリスクをとれずに防衛産業に乗り出せないのであれば、国が自ら乗り出すしかない。

ところが、企業を作って稼働を開始したら、継続的に仕事を確保していかないと困るのは、国営でも民営でも同じこと。実際、国営の兵器メーカーや航空機メーカーを設立してはみたものの、継続的に仕事を確保できずに赤字になり、国費で赤字を補填したり、海外のメーカーに切り売りしたりといった例も発生している。

赤字や業務量の落ち込みが短期的な現象でいずれは回復できるという見通しがあれば、まだよい。しかし、そうした見通しもなしに赤字を垂れ流して国費の投入を続ければ、批判にさらされる事態は避けられない。

また、国によっては国営企業と民間企業の両方が防衛関連分野に進出して、競合関係になっている。そこで国防省が装備調達時に国営企業を優遇するようなことになれば、不公正と言われても仕方がない。もちろん、技術レベル、設備・人材、資金力などの問題もあるので、単に同じ土俵に上げれば済むという問題ではないが。

基本的には、民間セクターが育ってきたら国営企業の株式を放出して民営化するのが、最も無難な解決策ということになるだろうか。それでも、経験の蓄積や人的なつながりなどの理由から、元・国営企業が有利になりやすいのが悩ましいところではある。

アフガニスタンKANDAHAR地区での「A-10C Thunderbolt」 Photo:U.S. Air Force