固定価格契約にすればすべては解決するのか?
「コストに利潤を上乗せする」(いわゆる 「cost-plus」)方式の契約では、コストがどれだけかかったかで最終的な請求額が違ってくる。つまり、発注側からすれば支払う金額が変動する可能性があって安心できないというわけだ。
では、何でもかんでも固定価格契約にすれば解決するのだろうか? 実際、米国防総省で進めている装備調達改革では、単純にコストに利益を上乗せするのではなく、固定価格契約へのシフトがうたわれている。
ただし、軍の契約といっても対象はさまざまだ。例えば、不確定要因が多い新規開発案件と、すでに出来上がっているものを量産・納入する案件ではコスト面のリスクが違う。こうした状況の違いを無視して、ひとまとめに固定価格契約にすれば済むものだろうか?
発注側からすれば、固定価格契約にすることで見かけのリスクを減らすことができる。しかし、特に開発案件で安易に固定価格契約を導入すると、それはメーカーにすべてをおっかぶせているだけの話になりかねない。
実際、A400Mで経費負担の問題が発生して関係各国がもめているのは、固定価格契約にしていたことにも原因がある。もっとも、のっぴきならない事態になって初めて、関係者から「軍用機の開発がこんなに複雑なものだとは思わなかった」「固定価格契約で請けたのは失敗だった」なんて発言が出てくるのも、それはそれでどうかと思うが。
ともあれ、固定価格契約であれば、契約額を超える費用がかかった時は、それがメーカーの負担になってしまう。その結果、メーカーが自己資金を投入する羽目になれば、最悪の場合はメーカーがつぶれてしまう。もっとも、A400M計画は関わっている国が多すぎて、追加費用の負担に関する意思統一が図るのに時間がかかったという事情もあるのだが、それは契約形態とは別の次元の話なので措いておく。
"但し書き付き" 固定価格契約の例
実際、米軍の調達情報を見てみると、但し書き付きの固定価格契約というものがある。具体例を挙げよう(Contracts 2010/2/1より)。
DEFENSE LOGISTICS AGENCY
Hartland Fuel Products, Onalaska, Wis.*, is being awarded a minimum $6,686,607 fixed price with economic price adjustment contract for fuels. Other locations of performance include Nebraska, Wisconsin, Iowa, North Dakota, Oklahoma and Illinois. Using services are Army, Air Force and federal civilian agencies. There were 48 proposals originally solicited with 25 responses. Contract funds will not expire at the end of the current fiscal year. The date of performance completion is June 30, 2012. The contracting activity is the Defense Energy Support Center, Fort Belvoir, Va., (SP0600-09-D-4533).
これは、国防兵站局(DLA : Defense Logistics Agency)のDESC(Defense Energy Support Center)が燃料油の発注を行っている案件だが、最低金額での契約としたうえで、"fixed price with economic price adjustment"という記述を付け加えている。これは、「固定価格契約ではあるが価格修正もあり得る」という意味だ。
石油製品は相場が激しく動くため、契約後に原油相場の急上昇が発生すれば、納入元の企業は赤字を出してしまう。そこで、基本的には固定価格の契約としつつも、場合によっては修正もあり得るという形をとり救済措置としている。こうしないと、軍に石油製品を納入する際のリスクが大きくなりすぎて、受注しようとする企業がなくなってしまう。
つまり、単純に買い手の側から見れば固定価格契約のほうがありがたいのだが、買い手の都合だけをごり押しすると、契約を取ろうとする企業が減ってしまうというわけだ。
特に、燃料油のように相場の影響を受けやすい案件、あるいは不確定要素が多い開発作業を伴う案件では、コスト上昇やスケジュール遅延のリスクがつきものだ。かといって、リスクを一方的に企業側に負担させればいいものだろうか? むしろ、発注側と受注側でリスクを分担するという姿勢がないと、長期的に見て損失になると思うのだが。